書店対アマゾンの構図
リオ五輪が無事閉幕するなか、Web上ではFacebookとGoogleによる熱戦が展開されていると、Web系メディアは大騒ぎを展開中。口火を切ったのはFacebook。限られた媒体にのみ提供していた「モバイルウェブの記事(一般的なコンテンツ)より10倍速く読み込まれる」と自慢する「インスタント記事」という仕組みを一般開放します。対するGoogleはTwitterなど、Facebookと対立する陣営に呼びかけ、AMP(Accelerated Mobile Pages)というプロジェクトで対抗。「インスタント記事 VS AMP包囲網」という構図です。
ザックリと言えば、どちらもコンテンツを自社サーバー内に取り込んでおいて、リクエストに応じてそこから表示させるというもの。瞬時に表示されていると錯覚するインターネットですが、世界中にある何十台ものサーバー(コンピューター)を経由することもあり、語弊を怖れずに言えば、注文ごとに出版社に本を発注して仕入れる書店のような仕組みです。対するインスタント記事やAMPとは、あらかじめコンテンツを仕入れておくことで、迅速な出荷を可能とした「Amazon」といったところでしょうか。
どちらかの陣営に属すのか、両天秤にかけるか。「バスに乗り遅れるな」と大騒ぎ。この大騒ぎこそが、Web界隈に生まれては消える「これからは○しろまる○しろまるの時代」といった「予言」が当たらない理由です。
限定される効果効能
両陣営の狙いは「スマホ」です。コンテンツの表示速度とユーザーの満足度は比例し、より早くスマホに情報を提供することで、自社のサービスを優先的に利用させる狙いです。たしかに素早い表示は、ユーザーの利便性を高めます。売上が20%、流入割合が36%増えたなどメリットが喧伝され、Web業界はこの話題で持ちきりです。しかし、実際にユーザー満足度に結びつくかといえば、必ずしもそうなりません。
事前にそれぞれのサーバーにコンテンツを読みこんでおくということは、即時性(リアルタイム)や双方向性(インタラクティブ)が求められるコンテンツには対応できません。次々と更新されるTwitterのタイムラインや、頻繁な更新がセールスポイントの「2ちゃんねる」や「ニコ動」、刻々と情報がアップデートされるクチコミサイトも不適当。GoogleはAMPの領域を拡大するとアナウンスしていますが、現時点で適しているのは読み捨てられる「記事」だけです。つまり、「記事」を読まないユーザーにとって、「インスタント記事 VS AMP包囲網」によるメリットは一切無いのです。
すでにGoogle離れが
こんな調査結果があります。タレント「小森純」が所属する芸能事務所社長 福田晃一氏が手がける異色のWebプロモーション企業「LIDDELL株式会社 」が、18歳〜22歳の日本人男女100人にアンケートを採ったところ。「最近検索によく利用する検索サービスはどれか。どのような時に利用するか」との問いかけに、31%の若者はTwitterと答えており、これはGoogleの33%に次ぐ高さです。Twitterを検索に利用する理由を『速報などを知りたい時・検索エンジンでもヒットしない情報を探す時』と答えます。「即時性(=速報性)」において、Googleは日本の若者の信頼を勝ち得ていない可能性を示唆します。
繰り返しになりますが、事前にコンテンツを自社サーバに取り込むAMPに即時性を求めることはできません。仮にGoogleが自身の言葉通りAMPを拡大すればするほど、インターネットに即時性を求めるユーザーの「Google離れ」を招く可能性が高いのです。
スマホが生まれてから
「モバイル史」を紐解けば、表示速度への最適解は、端末の処理速度、通信速度アップ、サーバ処理能力の向上であることは明らかです。
「iモード」に代表されるガラケー版のWebは、ひ弱な処理速度、貧弱な通信容量から制約が多く、なにより「軽く」作ることが至上命題とされました。しかし、日進月歩で処理速度が上がり、通信容量は増大し、スマホへと飛躍します。ちなみにiPhoneの登場は2007年。まだ10年も経っていません。スマホ進化の伸びしろは、まだ充分残されています。
特に通信速度は東京五輪が開かれる2020年の運用開始を目標に「5G」の開発が進められ、ピーク時最大10Gbpsの通信速度となり、現在最速の4Gの1000倍で、遅延時間も千分の一秒を目指しています。これが実現すれば、処理はクラウドに任せ、スマホが担うのは文字通り「表示」だけも可能となります。クラウドの処理速度は理論値で無限大で、いわばディスプレイと化したスマホへの表示は光の速さに準じ、次元の違う表示速度を実現することでしょう。
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