シン・ゴジラ 3.11から原爆へ、そしてまた3.11へ
- 2016年8月4日
- 生活, 社会
- 496 comments
- 小山 晃弘
まず最初に宣言しておく。この記事はネタバレ満載の記事だ。「シン・ゴジラ」をまだ見ていない諸君は回れ右をして左上の「戻る」ボタンを押してほしい。そして未視聴の諸君にひとことだけ申し上げるなら「シン・ゴジラ」は稀に傑作であるので、女房をメリカリに売ってでもすぐ見に行け、と僕は強く主張する。
以下、ネタバレを満載でお送りする。繰り返すが未視聴の方はご注意を。
地を這う怪物(=津波)としてのゴジラ
本作のゴジラのビジュアルに関して、最も注目すべき点は、まず第一に「変態すること」そして第二に「地を這うこと」だろう。作中、最初に姿を現すゴジラは、まるでサンショウウオのような、短いエラのような手足をばたつかせ、這いずり回りながらスクリーンにその姿を現す。
川を遡上し、水流を逆転させ、建物、人、車、地上にある全てを押し流しながら内陸に進撃する。そして通った後に放射能の爪痕を残す。
観た人の99%が同じ感想を持つと思うが、これは明らかに「3.11」の化身、津波と放射能汚染の怪物としての「ゴジラ」の再定義だろう。
地上の全てが「押し流される」恐怖。これは直立二足歩行の怪獣だった、今までの「ゴジラ」には全く無かったビジュアルイメージだ。2014年のハリウッド版ゴジラでは「足の間にいて助かる」シーンなども描かれていたと記憶しているが、津波に「足の間」はない。通った痕すべてを押し流し、倒壊させ、破壊しつくす。
この「地を這う怪物」としてのゴジラを観たとき、僕の心拍数は劇的に跳ね上がった。映画を見ていてこんな鼓動になったのは始めてだ。ぼくは首都圏在住の人間だが、そんな僕にもあの3.11のイメージは強く心に残っていたらしい。ちなみにこの最初のシーンで、2,3組の家族連れが席を立ち二度と戻ってこなかった。わかる気がする。あの「ゴジラ」は、強烈すぎる。はっきり言えば、そのまますぎる。あれはモンスターではない。津波だ。もしかすると1954年の「ゴジラ」を見た少なくない人たちも、同じような感想を抱いたのだろうか。
日本人の心にまだ新しい「津波」「放射能汚染」というふたつのイメージを用いて、「シン・ゴジラ」は陳腐化しつつあった「恐ろしい怪物」としてのゴジラを蘇らせた。まずはお見事、と言う他ない。
僕はこの時点では「今回のシン・ゴジラはやはり前評判通り3.11がテーマの映画なのだな」と思った。しかし、その予想は数十分後に覆されることになる。
幻視される「東京への核攻撃」
「地を這う怪物」としてのゴジラは、再び東京に姿を現したとき、直立二足歩行の見慣れたフォルムで現れる。そして多摩川を防衛ラインとする自衛隊と「総力戦」を繰り広げることとなる。
戦車、自走砲、攻撃ヘリ、戦闘機、陸空自衛隊の全通常兵器を使用した攻撃を経ても、ゴジラには全くダメージを与えられない。
現代兵器の精密誘導性能を表現し、ゴジラの頭部と脚部に自衛隊の攻撃は集中される。あらゆる現代兵器による集中攻撃だ。しかし血の一滴、ほんの少しのダメージもゴジラに与えることはできない。
自衛隊の絶対阻止作戦「多摩作戦」は失敗に終わる、そして──
本作、最大の問題となる場面がここだ。
首都に進撃するゴジラに対し、アメリカは独自の攻撃を決意する。民間人の避難はまだ終わっていない。日本政府の了承も十全には取れていない。民間人どころか、政府機能や首相までも都内に残っている。その状況でアメリカは攻撃を強行する。
鳴り響く避難警報。東京の市民たちは「とにかく地下に」と避難し、米軍の爆撃機は下部ウェポンベイを開き垂直爆撃を開始する。
ゴジラにダメージを与えることに成功するが、ゴジラの放射能火炎により、首都全域は壊滅。東京は焼却され、全域に放射能の爪痕が残る───。
第一形態、地を這う怪物としてのゴジラは、明らかに「津波」、つまり3.11の象徴としての怪物だった。
しかし二足歩行をはじめ東京に現れたゴジラは、明らかに「空爆」の、もっと言ってしまえば「原爆」の象徴として現れる。
鳴り響く空襲警報。地下に避難する市民たち。米軍の戦略爆撃機から垂直に投下される爆弾。光。炎。炎上する都市。放射能。
「ゴジラ」という媒体物を通しているが、前後関係と因果関係を見れば、これは絵としては明らかに「アメリカによる核攻撃」だろう。そしてその核攻撃は、アメリカの魂(Spirit of America. B-2の愛称)をも深く傷つける。
「深読みが過ぎる」と思われる読者もいるだろう。そういった方に、少しだけ説得材料を提示しておく。
まず軍事描写について述べれば、B-2戦略爆撃機が使用されたことに違和感がある。即応性を求められる空爆に、足の遅い戦略爆撃機は向いていない。バンカーバスターなら(MOPが積めるかはわからないが)足の速いF-15Eにも搭載できる。なぜF-15Eなどの戦闘攻撃機ではなく、戦略爆撃機のB-2が選ばれたのか?それはやはり「戦略爆撃機」であること、そして下部ウェポンベイというかつて日本を焼き払ったB-29と同じ機能的ビジュアルを持っていること、それらが作画上必要だったからだろう。
ちなみにF-15Eは日本の航空自衛隊にも配備されている。MOPやGBU-28などの地中貫通爆弾は配備していないが、空対艦ミサイルなどは自衛隊もたんまり持っているはずで(そもそも運動エネルギーは自走砲の一斉射撃の方が大きいはずだ)、米軍機の攻撃だけがゴジラに通じるという描写もおかしいと言えばおかしい。
それらを考えると、やはりこのシーンは「ありえたかもしれない米軍による東京への原爆投下」の幻視と考えるのが、一番納得のいく解釈なのではないか、と僕は思う。というか映画を見ていればそうとしか捉えられなかった。首都広域を焼き尽くすエネルギーが、都市全てを焼き尽くす攻撃が、都市全域を放射能で汚染する攻撃が、原子爆弾による無差別核攻撃の他に地球上に存在するだろうか?B-29の後継機たるB-2が爆弾を投下した直後にそれが起きて、そこから「核攻撃」を連想しないものがいるだろうか?
つまり「シン・ゴジラ」は、「津波と原発事故」という日本人の現代的恐怖を媒介して、「放射能の恐怖は2011年の3月11日ではなく1945年の8月6日、8月9日から始まったではなかったか?ということを、改めて問いかけている...と僕は思うのだ。
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