まずは、藤田和日郎先生の『うしおととら』からご紹介します。この作品は週刊少年サンデーで連載されていた名作です。単行本は33巻と外伝1巻です。
魅力的なキャラクター
『うしおととら』は、妖怪を退治できる「獣の槍」を持つ中学二年生の少年「蒼月潮(あおつき うしお)」と妖怪「とら」がコンビを組み、人間に危害を加える妖怪と戦っていくストーリー展開になります。
これぞ少年漫画という傑作です。登場人物が魅力的で、個々のエピソードの質の高さも見事ですが、それらが収束していく最終決戦はまさに圧巻です。
主人公の潮は、曲がったことが嫌いで、仲間思いの好人物として描かれています。彼はまっすぐに生き、戦い、多くの人間や妖怪たちと紆余曲折を経ながらも絆をはぐくんで成長していきます。彼の人間性を軸に、3つのエピソードを紹介させていただこうと思います。
まっすぐに立つ
一つ目のエピソードは、第十七章「霧がくる」です。
ヤクザ者の徳野信二は、病気で余命わずかを宣告されます。組を離れた彼の足は、自然と故郷へと向かいます。そこで彼は、潮と出会います。潮は霧の妖怪と戦っており、徳野は偶然にもその妖怪に襲われている年老いた母親を助けることになります。
ヤクザ者となった彼は、故郷でかつて母親に言われた言葉を思い出します。そして、自分の危険をかえりみずに、他人を助ける潮の姿を見るのです。彼は、潮へ問いを投げかけます。
徳野「おい・・・ボーズ・・・」
潮「え?」
徳野「おめーはなんでバスのヤツらをそんなに助けたいんだ? きいてたんだけどよ。それを使や、おめーの魂とやらもなくなってくんだろが・・・」
潮「う〜ん。なんでだろなあ・・・・・・ オレ頭わりーしなあ・・・・・・ たださ・・・オレあのヒトたちにすげー親切にしてもらったんだ・・・・・・ もしもオレががんばれば、あのヒトたち助かるんなら・・・・・・ はは・・・別にいいかな! なんてよ・・・」
霧の妖怪との戦いは続き、潮は徳野へ車を運転して囮(おとり)になってくれるように頼みます。その時の潮の目が、自分を信じていたことを振り返り、徳野は、「ガキが大人を信じんじゃねえ・・・・・・」とつぶやくのです。
彼は、潮と故郷の人々を助けるために駆けつけます。もう来てくれないかもしれないと思ったと告げる潮へ向かって、徳野はかつての母親に言われた言葉を語るのです。「昔おふくろがよく怒りやがったっけ。お天道様にカオを向けてまっすぐに立てってよ・・・・・・」と。
敵の最後のあがきにより、潮が敵の手に落ちます。徳野は、自分の生命を犠牲にして敵を制し、潮を助け出します。生命が燃え尽きる寸前、徳野は自分が真っ直ぐに立っているかと潮へ問いかけます。潮はコクとうなずくのです。それを見て彼は、静かに涙を流して逝くのです。
優しい嘘
二つ目のエピソードは、第三十一章「ブランコをこいた日」です。
作中の多くのエピソードの中でも、ファンの中で屈指の人気を誇ります。この章では、まっすぐに生きている潮のキャラクターが冒頭から強調されています。
男らしく嘘などつかない。
それが潮なりの誇りであり自慢らしかった。
これはそんな潮が出会った事件――
潮は、飛行機事故により目が見えなくなった少年「ミノル」と知り合いになります。彼は事故から救出されるまで、森でお父さんと一緒にいたのだと言います。目が治ったら、またお父さんと森で暮らすと言うのです。しかし、同乗していた父親の遺体は確認されているのです。その事実を告げられても、彼は、お父さんは迎えに来ると言うのです。
ミノルの父親代わりをしていた者の正体は、森に棲む妖怪「さとり」でした。その妖怪はミノルの目を治そうとし、結果的に人間に害を為してしまいます。潮は、さとりがミノルを思って行動していることに苦悩します。そんな潮を見て、彼の父親は、敵の気持ちを理解したら負けるのだと忠告します。
ミノルの目の手術の日、退治するのかしないのかの答えが出ないまま、潮はさとりと対峙します。さとりも、潮が憎しみで戦っているわけではないことを理解するのですが、自身の振るまいが間違っているとの指摘に耐えられずに暴走します。他の人間に危害が及ぶに至り、潮はやむなくさとりを攻撃し倒します。
さとりは命の最期に、手術後で眠っているミノルへ嘘をついていたことを謝ります。その後、潮と最後の会話を交わします。
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