曾我兄弟
曾我兄弟(そがきょうだい)とは、12世紀に活躍したお笑い芸人のコンビである。
概要[編集 ]
彼らは武士でありながらお笑い芸人でもある、今で言うなら国家に奉仕しながら、芸能活動もする軍人とでも言うべき稀有な存在であった。兄、十郎祐成と弟、五郎時致の二人のメンバー構成で、軽妙洒脱なネタで、殺伐とした乱世に笑いを振りまいた。最初は兄祐成のみのソロ活動であったが、出家していた弟五郎がお笑い界へのデビューを強く望み、無理矢理還俗し兄とコンビを組み、曾我兄弟が結成されるに到る。十郎の単独活動の頃はそれほど人気も振るわなかったが、弟とコンビを組むようになるとその絶妙なコンビネーションと互いの短所フォローしあうシナジー効果でたちまち人気を博し、鎌倉中でその名を知らないものはいないといわれるほど、認知度が飛躍的に上昇した。北条時政に至っては彼のパトロンになったほどである。
曾我事件[編集 ]
しかし人気者となって持て囃されるようになると曾我兄弟は増長し、傍若無人な振る舞いが目立つようになる。そしてある日の酒宴の席で、曾我兄弟の増長振りを快く思っていなかった工藤祐経が「つまらん!お前らの芸はつまらん!」と真っ向から批判したことに対して、兄弟は酒が回って感情が昂ぶっていた事もあり、ついカッとなって抜刀し、そのまま乱闘騒ぎとなり、とうとう祐経を斬り殺してしまったのである。
騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのは仁田忠常であった。仁田は曾我兄弟の慢心ぶりを快く思っておらず、その芸風も評価していない、ようするにアンチであった。気に入らない曾我兄弟を始末する絶好の機会と捕らえた仁田は、曾我兄弟が乱心し、工藤を斬り殺した、この狼藉ものを成敗せよと命じ、周囲の御家人達は一斉に曾我兄弟に斬りかかった。兄弟は応戦するも虚しく兄十郎は斬り殺され、弟五郎はほうほうのていで逃げ出し、頼朝の屋敷まで駆け込んだが捕らえられた。
この騒動はすぐさま頼朝の知れるところとなった。曾我兄弟のパトロンであった時政は、娘北条政子を通じ、頼朝に五郎の助命を懇願する。これに対して頼朝は思索を重ねた挙句、五郎を呼び出し、自分の前で芸を披露し、それが面白かったら許してやると裁定した。審査員は頼朝のほかに時政と梶原景時、比企能員、滅多に笑わない事で知られる大江広元の5人であった。五郎はあらゆるネタをふんだんに詰め込み、自らの命を懸けた一世一代の芸を披露したが、兄十郎を欠いた状態では自慢の芸も精彩に欠け、結果はパトロンの時政以外は全員失格票を投じるという始末であり、結果五郎も処刑された。かくして鎌倉で一世を風靡した曾我兄弟は二人の死を以ってその芸能活動にピリオドを打ったのである。
曾我物語[編集 ]
ところがこの事件は今日、どういうわけか曾我兄弟が親の仇である工藤祐経を討ち取ったという仇討話に変容してしまったいる。これは曾我兄弟に好意的であった北条氏が編纂に深く関わったとされる吾妻鏡の中で、曾我兄弟は仇討を行ったと史実を歪曲して記述したのが原因である。さらに北条氏は十郎の恋人である虎御前という架空の人物を捏造し、彼女をヒロインに据えて曾我物語と言う美談をでっち上げ、全国に喧伝した結果、今日では「曾我兄弟の仇討」は半ば史実として定着してしまっている。ポッと出の芸人コンビが思いあがった挙句半ば自滅したという情けない話を仇討の美談に歪曲、潤色させた曾我物語の筆者[1] の文才は、我々アンサイクロペディアンも見習うべきであろう。
曾我事件のその後[編集 ]
皆が失格票を投じる中、一人だけ合格票を投じた時政は大恥をかき、以降しばらく時政の政権内における発言力、影響力が低下するほどの痛手を被った。時政はこの一件でとりわけ比企能員に強い怨嗟を抱いた。比企能員自身は曾我兄弟の芸風を高く評価し称揚しており、時政も当然味方についてくれるものと思っていた[2] 。しかし、裁定の場では頼朝や景時に一歩送れて失格票を投じた。つまり多数派に迎合したのである。この小汚いやり口に時政は怒り狂い、比企氏を根絶やしにしてやると誓ったという。現にこれから約15年後に比企一族は時政によって滅ぼされている。
また兄の十郎を殺した仁田忠常にも恨みを抱いた。もし忠常が十郎を殺さなければ、頼朝らの前で五郎は兄を欠いた状態で今ひとつな芸を披露することなく、頼朝らも合格票を投じたかもしれないと考えたからであった。やはり忠常も比企騒動に前後して時政から言いがかりをつけられて討伐されている。
異説[編集 ]
曾我物語をでっち上げるなど、北条氏の曾我兄弟に対する思い入れは尋常ではなく、そのため曾我兄弟は北条氏の落胤ではないか、という説がささやかれている。現在でも、やたらとプッシュされる芸能人に対して「学会員じゃないのか」「親族がお偉いさんなんだろう」「ケンチャナヨ」などと根も葉もない噂が立つことがあるが、落胤説もそれらと同レベルの盲説にすぎない。