定義

ICN看護および看護師の定義

2025年6月、ICNは新たな看護および看護師の定義を公表し、本会で和訳を行いました。

ICN看護および看護師の定義の和訳の作成方法について
  • 本定義は、ICNの見解に基づく、多様な国や地域・背景・文脈においても適用を可能とする看護・看護師の定義の日本語訳です。
  • 日本語訳の作成にあたり、ICNの再定義の趣旨に鑑み、他職種を含む広く国民に看護・看護師が理解されるよう、片仮名表記をできるだけ避け、平易な表現となるようにしました。
  • 「看護職の倫理綱領」(2021年)、「看護業務基準2021年改訂版」(2021年)、「改訂版 看護にかかわる主要な用語の解説」(2023年)、「看護の将来ビジョン2040」(2025年)など本会の出版物を参考とし、ICNによる用語選択の背景、他機関の用語や有識者からの見解を総合的に判断して訳語を選択しました。
  • 「看護」と「看護師」の定義、および用語集の和訳を作成し、見直し背景などが記載された報告書全体の和訳は行っていません。
    英語についてはこちらをご参照ください。
    ICN看護および看護師の定義
    ICN「看護」と「看護師」の定義の再構築プロジェクト報告書

ICN「看護」の定義

看護とは、協働的で文化的に安全な、人々を中心としたケアやサービスを提供するという共通の責任ある行動を通じて、すべての人々の到達可能な最高水準の健康を享受する権利を守るために貢献する専門職である。看護は、人々が健康および保健医療への公平なアクセスを得られるよう、また安全で持続可能な環境を確保できるよう行動し、擁護する。
看護の実践は、人々の生活の最も個人的な健康の側面における専門的なケアの提供において、看護専門職の理念と価値観を体現するものである。看護は、健康を増進し、ケアの安全性と継続性をまもり、保健医療組織や保健医療システムを管理し主導するものである。看護の実践は、科学に基づく学術的知識、技術的能力、倫理基準、治療的人間関係の独自の組み合わせを基盤とする。看護は、思いやり、社会正義、人類のより良い未来のために尽力する。

(公益社団法人日本看護協会訳、2025年)

ICN「看護師」の定義

看護師とは、看護の科学的知識、スキルおよび理念に関する教育を受け、確立された業務基準と倫理綱領に基づき、看護を実践するよう規制されている専門職である。看護師は、ヘルスリテラシーを高め、健康を増進し、疾病を予防し、患者の安全をまもり、苦痛を緩和し、回復と適応を促進し、生涯にわたりエンド・オブ・ライフにおいても尊厳をまもる。看護師は、健康向上のために、あらゆる場において、アドボカシー、エビデンスを用いた意思決定、および文化的に安全な治療的人間関係を通じて、自律的かつ協働的に働く。看護師は、人々を中心とした思いやりに基づく臨床的・社会的ケアを提供し、サービスを管理し、保健医療システムを強化し、公衆衛生を推進し、安全で持続可能な環境を醸成する。看護師は、健康アウトカムの向上のために、リーダーシップを発揮、教育、研究、擁護、革新し、政策形成を行う。
また看護師は、あらゆる年代の、あらゆる場における人々の健康とケアにおいて独自の役割を果たし、個人、家族、コミュニティと信頼関係を構築し、人々の健康や疾病経験について貴重な洞察を得る。看護師は、個別化された直接的ケアや社会的ケアを基盤として、継続的な教育、研究、そしてベストプラクティスの探求を通じて能力の向上を図る。
看護師の業務範囲は、教育レベル、経験、コンピテンシー、専門職基準、法的権限により規定される。看護師は、保健医療の提供を支援する可能性のある人々との調整、それらの人々の監督や業務の委譲において重要な役割を果たす。
看護師は、災害、紛争、緊急事態の際には、しばしば最前線において対応し、勇気、貢献、適応能力を示すとともに、個人、コミュニティ、環境の健康への責任ある行動を示す。

(公益社団法人日本看護協会訳、2025年)

ICN「看護師」の定義(簡約版)

看護師とは、看護の科学的知識、スキルおよび理念に関する教育を受け、確立された業務基準と倫理綱領に基づき、看護を実践するよう規制されている専門職である。看護師は、ヘルスリテラシーを高め、健康を増進し、疾病を予防し、患者の安全をまもり、苦痛を緩和し、回復と適応を促進し、生涯にわたりエンド・オブ・ライフにおいても尊厳をまもる。看護師は、健康向上のために、あらゆる場において、アドボカシー、エビデンスを用いた意思決定、文化的に安全な治療的人間関係を通じて、自律的かつ協働的に働く。看護師は、人々を中心とした思いやりに基づく臨床的・社会的ケアを提供し、サービスを管理し、保健医療システムを強化し、公衆衛生を推進し、安全で持続可能な環境を醸成する。看護師は、健康アウトカムの向上のために、リーダーシップを発揮、教育、研究、擁護、革新し、政策形成を行う。

(公益社団法人日本看護協会訳、2025年)

用語解説

ICN「看護」と「看護師」の定義の再構築プロジェクト((注記))(P.13〜15)に掲載されている用語解説を和訳したものです。
(注記):ICN「看護」と「看護師」の定義の再構築プロジェクト報告書
定義中の特定の表現について、その背景となる考えの理解の一助となるよう付記されたものです。用語は定義における登場順に記載されています。

用語 解説
専門職/専門的な
(Profession/Professional)
定義によると、専門職には、次の3つの主な要素がある:学問体系に基づく高度な知識とスキル、一般市民から期待される実践基準や行動規範を定めた規制の形態、およびこれらの要素を他者の利益のための実践に適用すること。
文化的安全
(Cultural safety)
文化的安全とは、先住民族研究に根ざし、受け手が人種差別やあらゆる形態の差別の恐れがないと感じることである。自らの無意識の偏見を省察し、すべての人々を敬意と尊厳をもって扱うという揺るぎない姿勢を求めるものである。
人々を中心とした
(People-centred)
「人々を中心とした」という用語は、「人を中心とした(person-centred)」よりも、保健医療の実践とデザインを形づくる家族、文化、コミュニティの文脈をより広く包含し、またWHOが使用する用語であることから、用いられている。「人を中心としたケア」を支持する学術的蓄積は認められ、評価されているが、本定義においては可能な限りWHOの用語を用いている。
アドボカシー
(Advocacy)
自分自身を擁護できない人々を代弁、支援し、患者のニーズと権利を確実に守ることが看護師の重要な責務であることから、アドボカシーは看護の定義に含まれている。これは、他の重要な役割の中で、看護師は「意識を失っている人の意識」となり、「自殺願望がありながらも生きようとする人の理解者」として立つとするヘンダーソンの見解と一致している。
安全で持続可能な環境
(Safe and sustainable environments)
この用語には、患者やコミュニティにとって安全であるだけでなく、地球にとっても持続可能な環境を創出することの重要性を包含している。これは、プラネタリーヘルスをはじめとするグローバルヘルスの問題を踏まえ、環境、個人の健康、および公衆衛生の相互関連性を重視するものである。
看護の理念
(Philosophy of nursing)
看護の理念とは、思いやり、敬意、文化的安全、倫理などの、看護実践を支える中核となる価値観と原則を指す。看護の全人的で人間中心的なケアへのアプローチを反映し、看護の「あり方」や精神を表す。
人々の生活の最も個人的な側面
(Most personal aspects of people’s lives)
これは、ケアの身体的、感情的、心理的な側面を含む、人々の個人的経験やそれに伴う健康ニーズにおける看護師が果たす基本的な役割の認識を求めるものである。看護師が品位と思慮深さをもって人々に対して行う私的で個人的な業務の重要性を認識することは極めて重要でありながらも、しばしば欠けている認識であるように見受けられる。
患者安全/システムの安全
(Patient/system safety)
患者安全やシステムの安全は、個人、治療、保健医療組織の安全性の確保において看護師が不可欠な役割を果たしていることから、ここに挙げられる。これには文化的、身体的、心理的安全といった様々な形態の安全が含まれ、特定の定義を有する「セーフティクリティカル」という用語よりも包括的で、より広い概念を持つ。
ケアの継続性
(Continuity of care)
シフト間であれ保健医療提供者間であれ、提供者と現場間で情報とケアを円滑に伝達するという、安全と質を統合的に確保する機能を看護師が果たすことによって、人々は保健医療が長期にわたり一貫性をもって相互に関連し合いながら、自分たちの健康ニーズや意向に沿っていると感じることができる。
科学的知識
(Scientific knowledge)
看護において、科学的、倫理的、個人的、美的、社会政治的、社会解放論的知識といった多様な知識形態を認める一方で、看護に必要な学問的深度とその科学的エビデンスに基づく基盤の決定的重要性を際立たせるために、これらの知識形態を区別することが重要であると考えられている。
スキル
(Skills)
「スキル」という用語には、技術的能力や器用さから、精神看護の対人的関わり、政策策定などのアドボカシーと交渉スキルまで、看護実践で用いられるスキルの数々が含まれる。
看護実践に関する規制
(Regulated to practice nursing)
規制は、説明責任の確保、公衆の保護、専門職基準の維持のために、ここに挙げられる。認定、資格、登録、実践に関するシステムと基準を確立することによって、資格要件を満たした個人のみが看護師として実践することが規制により保証され、それにより保健医療の信頼と品質を守ることができる。規制システムは世界各地で異なる。
治療的人間関係
(Therapeutic relationships)
オーランドおよびペプロウの研究によると、治療的人間関係では、看護におけるアクティブリスニングや理解の重要性が強調されている。こうした関係性は、患者の身体的、感情的ニーズの両方に対処する、思いやりに基づく、個別化されたケア提供の中心となるものである。
自律的
(Autonomous)
「自律」という用語は、看護実践に伴う価値観や専門職の責任に加え、複雑な問題について情報に基づく意思決定と判断を行う看護師の能力を強調するものである。これは、自足を意味し看護ケアの協働的な本質をあまり反映しない「自立」とは異なる。
委任および監督
(Delegation and Supervision)
「委任」とは、看護師が、アウトカムに対する説明責任を保持したまま、資格を有する他の看護師、学生または保健医療従事者に、実践の範囲内で特定の業務を委任するプロセスである。「監督」とは、直接的または間接的にかかわらず、看護師が指導、評価が可能であり、責任を保持したまま、委任されたケアが安全で的確に提供されるために不可欠なものである。
思いやり
(Compassion)
思いやりとは看護の中心となるものであり、共感だけでなく他者を助けることへの強い動機も含まれる。積極的支援についての感情的理解にとどまらず、患者や人々へのケア、配慮に対する真摯な取組みを反映する。
臨床的・社会的ケア
(Clinical and social care)
臨床的・社会的ケアは、看護師が、特に社会的ケアが看護実践に不可欠である地域で、健康関連ニーズの支援、健康状態に影響される日常的生活要件の支援における包括的な役割を果たすことを認識するために、ここに挙げられる。
社会正義
(Social justice)
社会正義は、看護による保健医療資源への公平なアクセスの擁護、参加の推進、多様性の尊重、人権の保護、そしてそのすべてがあらゆる個人に公平かつ包摂的なケアを提供するために不可欠であるということを認識するために、ここに挙げられる。
人類のより良い未来
(Better future for humanity)
看護の哲学的根幹であり、基本的ニーズ(食料、清浄な水、保健医療、教育)への公平なアクセス、持続可能な環境および人々と各国の平和的共存、気候変動などの世界的な問題の協働的解決、これらすべてが直接的または間接的に健康に影響する。
ヘルスリテラシー、健康の増進、疾病予防および健康の公平性
(Health literacy, Health promotion, Illness prevention and Health equity)
WHOによって定義されているこれらの用語は、看護実践の中心であり、総合的な健康アウトカム向上のために、教育、予防、保健医療ケアへの公平なアクセスを推進する。
苦痛の緩和
(Alleviation of suffering)
苦痛の緩和は看護の中心であり、看護師は身体的な痛みの緩和だけではなく、患者や人々の感情的、心理的ウェルビーイングを支援する。看護師は、その存在、セラピューティック・タッチ、マッサージ、身体的なケア、治療の管理を通じて、思いやりに基づき、全人的な方法で、人々が苦痛に向き合い、耐えることができるよう支援する。
回復および適応の促進
(Facilitation of recovery and adaptation)
看護師は、手術後や受傷後の身体的回復を支援するだけでなく、疾病または傷害への長期的適応を促進し、患者や人々が健康状態の変化に適応できるよう支援するため、回復や適応における看護の役割が重視される。
エンド・オブ・ライフの尊厳
(Dignity at end-of-life)
人生の最終段階を迎えた患者とその家族のために敬意をもち思いやりに基づいたケアを提供することは、長年にわたる看護師の大きな貢献の1つである。ここでは、何らかの運動または特定のエンド・オブ・ライフの選択肢とは関係なく、一般的な用語として用いる。
あらゆる場において
(Across settings)

「あらゆる場において」という用語は、看護の業務が広範囲にわたることを示し、看護師が病院、コミュニティ、学校、行政などの多様な環境において活動し、その専門知識を様々な状況に応用することを認めるものである。

すべての人の健康
(Health for all)

この用語は、健康とウェルビーイングへのユニバーサルアクセスを確保するというWHOの目標を反映し、健康の公平性の重要性と、看護実践の中核となる信条であるすべての人が最善の健康を実現する権利を強調している。

エビデンスを用いた意思決定
(Evidence-informed decision-making)

「エビデンスに基づく(evidence-based)」という用語は一般的に意思決定に関して使われるが、「エビデンスを用いた(evidence-informed)」には別の側面がある。エビデンスを用いた意思決定によって、行動の選択に影響しうる他の要素(例:患者の選択、信仰の問題または個人の意向、資源の入手可能性などの重要な要素)を取り入れることが可能になる。

(公益社団法人日本看護協会訳、2025年)

著作権などについて

  • 本ウェブページに掲載されているICN「看護」の定義、「看護師」の定義、および用語解説は、ICNの許可のもと、会員協会として公益社団法人日本看護協会が、日本語訳を行いました。
  • この日本語訳の著作権は本会に帰属しております。転載する場合には、日本看護協会へ許諾を申請してください。
  • また、利用する場合には、出典元として、公益社団法人日本看護協会および国際看護師協会(ICN)を明記してください。
  • なお、この日本語訳は、改変を加えず、かつ、出典を明記するという条件のもとで、原文著作権者であるICNからの事前許諾は不要で複製していただけます。

よりよいウェブサイトにするために
みなさまのご意見をお聞かせください