識者に問う
各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。
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インターネット、フィルターバブル、社会の分断、ファクトに基づいた情報の検証
ファクトに基づかない議論は昔からあった。それが限度を超えたいまの時代が「ポスト・トゥルース」だ。
原因はインターネットにある。誰もが自由に情報を発信・受信できるようになり、人びとはつながった。その効用は大きいが、玉石混交の情報が飛び交うようになり、自分に近い意見をもつ人ばかりがつながるようになった。
ユーザーが好む情報を収集するグーグルやフェイスブックのアルゴリズムがそれを加速する。「フィルターバブル」だ。見えない泡に覆われ、気付かないうちにその泡の膜に選別された情報だけを受け取る。自分に近い意見ばかり受け取る人びとは、政治的に偏ってしまう。
人びとをつなげると期待されたインターネットが、社会を分断してしまった。2016年のアメリカ大統領選はその最たるものだ。トランプ氏を応援し、クリントン氏を批判する記事を書けば、うそでもトランプ氏支持者は喜んでシェアする。それによって記事を書いた人は、ネット広告収入を得ていた。金銭目的だった。
こういった情報が世論に大きな影響を与えているのは、非常に危険だ。このような状況においてメディアが果たすべき役割は、情報の検証だ。トランプ大統領はメディアを介さずとも、ツイッターで数億人に向けて発信できる。そんな時代には、たんに政治家の発言を報道するだけではうそを報じることになりかねない。その発言がファクトに基づいたものか検証し、どういう意味をもつか解説する。そういったメディアが必要とされている。
『バズフィード』では、怪しい情報について裏を取り、検証して報道する「デバンキング」という取り組みに力を入れている。信頼されるニュース、楽しいネタ、『バズフィード』はそれらを通じて人びとの生活にポジティブな影響をもたらすことをモットーとしている。
情報は、人びとにとって、知的・精神的健康を養うための食料のようなものだ。記事(コンテンツ)を作るコンテンツプロバイダー、それを流通させるプラットフォームには、情報の信頼性を高めるための不断の努力が求められる。
冒頭に掲げたように、真実に基づかない議論はもともとあった。社会の分断も。ネットはそれを顕在化させたともいえる。その分断を乗り越える試みも、ネットから生まれるはずだ。
古田大輔(ふるた だいすけ)
バズフィード・ジャパンは米バズフィードとヤフー株式会社との合弁で、2016年1月にサービスを開始したデジタルメディア。エンターテインメントを含む多様なコンテンツを発信。グローバル全体で、ニュース検証に力を入れる。2016年のキュレーションサイト問題をいち早く取材、問題の顕在化に貢献した。早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞社入社後、社会部、アジア総局、シンガポール支局長、デジタル版編集等を経て、2015年退社。同年、バズフィード・ジャパンに入社し、創刊編集長に就任。
識者が読者に推薦する1冊
識者が読者に推薦する1冊
Eli Pariser〔2011〕"The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You" Penguin Press(イーライ・パリサー〔2016〕『フィルターバブル―インターネットが隠していること』井口耕二(翻訳)、ハヤカワ文庫NF)
引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2017)「ポスト・トゥルースの時代とは」わたしの構想No.31