識者に問う
都市とくらべた地域の「優位性」とは何か。
地域の質の高い暮らしを未来に残せ
セーラ・マリ・カミングス
(株)文化事業部代表取締役
- KEYWORDS
地域のオリジナルな魅力、伝統的ライフスタイル、サステナブルな暮らし、文化の拠点
日本の地域には、伝統に裏打ちされた酒造りや工芸の技術、昔ながらの街並み、おいしい料理など、昔の文化が根付いている。建国の歴史の浅い米国とは異なる財産だ。日本人は物まねが上手でオリジナリティがないというが、素晴らしいオリジナルがたくさんある。日本人自らその魅力に気づかず、生かしきれていないのは、もったいない。
まちづくりは、まずそのまちに住む人のためのものであり、そこで受け継がれてきたライフスタイルを大事にすることから始まる。日本の地域の、都会にはない価値は、自然とともに生きることから生まれている。自分たちで土に触れてものを育てるといったサステナブルな暮らしは、ゆとりがあり魅力的なものである。地に足のついた、素朴な生活をして、子どもをたくましく育てることができる。昔の里山で培われていた暮らしの知恵や上質な自然を、50年後、100年後の子ども達に残していかなければならない。
文化的な刺激は、地域の暮らしをより良質にする。長野県の小布施は葛飾北斎が最晩年に逗留を重ねた地で、多くの作品が残されている。それを美術館で展示するだけでは物足りない。かつて北斎の国際会議の小布施開催に尽力したのは、北斎研究という現在進行形で世界で起きている動きに小布施がつながっていくことが大切と考えたからだ。インターネットやソーシャルネットワークの発達している現在では、そのような観点でビジネスの成立を考えることも容易になった。大勢の一過性の観光客におぼれるのではなく、文化の拠点として、目標や目的をもった質の高い交流をめざすべきである。
*原文は英語版に掲載
セーラ・マリ・カミングス(Sarah Marie Cummings)
長野県小布施町の町おこしの中心的人物。現在は長野市若穂を拠点に、里山を生かした循環型農業のプロジェクトに従事。ペンシルベニア州立大学卒業。長野冬季五輪のボランティアとして来日。(株)小布施堂取締役、(株)桝一市村酒造場取締役などを経て現職。氏の活躍を取り上げた書籍として、『小布施ッション:長野県小布施町から洗練された発信力』〔編〕(日経BP企画、2002年)など。
識者が読者に推薦する1冊
識者が読者に推薦する1冊
Azby Brown〔2009〕"Just Enough: Lessons in Living Green from Traditional Japan" 講談社インターナショナル
引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2014)「人口減少時代の地域の強み」わたしの構想No.3