書籍
著 | : 辻本哲郎 |
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ISBN | : 978-4-524-20687-2 |
発行年月 | : 2024年2月 |
判型 | : A5判 |
ページ数 | : 136 |
在庫
定価2,530円(本体2,300円 + 税)
臨床論文を初めて読む・読むのに苦手意識のある研修医や医学生などのための"最短・最速"攻略本.論文の読み方・臨床論文を初めて読む機会である「抄読会」の乗り切り方を,ポイントをおさえてサクッと解説.抄読会での論文の選び方や自動翻訳による時短術など,コスパ/タイパよく論文を読むための実践的な知識も身に付けられる!臨床論文へのハードルを下げ,自信をもって抄読会に臨むことができる一冊.
I 臨床論文の扉を開けよう
Q1 最初の臨床論文はどうやって選べばいいですか?
Column 1 文献検索は難しい!?
Column 2 インパクトファクター
Q2 臨床研究には何がありますか?
Q3 研究デザインはどうやって使い分けているのですか?
Q4 論文を読むのは統計解析を理解してからですか?
Column 3 「感度・特異度」「診断・予測モデル」「有病率・割合」についての研究
Q5 英語が苦手な私は論文を読むことができませんか?
Q6 研修医にとっての抄読会の意味は何ですか?
?U 臨床論文を読んでみよう
論文全体の概要
Q7 Title とAbstract で何が分かりますか?
Q8 Introductionには何が書いてありますか?
Q9 Methodsはどうして重要なんですか?
Q10 研修医も知っておいたほうがいい統計解析はありますか?
Q11 アウトカムの解析に用いられる方法には何がありますか?
Column 4 相対リスク(リスク比),絶対リスク低下(リスク差),必要治療数って何?
Q12 Resultsのポイントはどこですか?
Q13 Discussionは何に注意して読めばいいですか?
Column 5 論文におけるその他の記載事項
Column 6 報告ガイドライン
?V 研究結果を解釈し,発表しよう
Q14 論文の批判的吟味って何ですか?:その1
Q15 論文の批判的吟味って何ですか?:その2
Q16 抄読会ではどう発表したらいいですか?
Q17 論文に対するLetterって何ですか?
Column 7 論文は毎回全部読まなくちゃいけないの?
巻末付録 各専門分野でお勧め! 専門誌のトップジャーナル一覧
はじめに
本書を手にした研修医の皆さんは,これから抄読会で臨床論文を読むことになっている,もしくは何度か抄読会で臨床論文を読んだけどうまくいかなかった,など状況は様々かもしれません.多くの医師は研修医になってから抄読会ではじめて臨床論文を読みます.そして,はじめは例外なく誰もが苦労します.もちろん筆者も抄読会で苦しんだ一人ですが,身近にいる上級医だけでなく部長や教授でさえも基本的にはそのような時期を経験しているはずです.当然ですがいきなりスラスラ論文を読める人はいません.そもそも大学で臨床研究に関する授業を受けたことがある人は少ないと思いますし,臨床論文を読むための授業や講習などはまずなかったと思います.そして,残念ながら研修医になってからも臨床の現場でそれらをしっかりと学ぶ機会はありません.しかし,論文を読めないままでいいわけではありません.現在の診療はエビデンスに基づいて施行され,日々新しい臨床研究の結果が報告されています.日常診療をよりよいものにするために,われわれ医療者は臨床論文を読み,解釈し,知識をアップデートすることが必須の時代になっています.
研修医として多忙な生活を送る中で抄読会が容赦なく回ってくるので,うまく対応できないと英語を和訳するだけで終わってしまいます.何か論文を読むためのコツはないものでしょうか? 苦しみながら論文を読み,多くの統計の本やネットの情報などを参考にしながら徐々に読めるようになっていく研修医がいる一方で,ポイントがつかめず論文を読む力がつかないまま月日だけが経過していく研修医もいます.また,臨床論文を深く精読するための書籍がたくさん出版されていますが,そのレベルにたどり着く前に挫折し,論文から離れてしまう人もたくさんいます.そのような状況を少しでも改善するため,本書は研修医が抄読会で臨床論文を読むにあたり最低限知っておきたいことを分かりやすく記載しました.そして,当時の自分を思い出し,またその後,研究者として多くの論文を読み書きしてきた経験を活かし,論文の読み方を簡潔にまとめました.研修医のときに臨床論文を読むコツをおさえ論文を読む力を高めておくと,専攻医・専門医と成長し臨床研究をする際にも必ず役に立ちます.本書が研修医の皆様の成長に少しでも貢献できれば大変嬉しく思います.
2024年1月
虎の門病院分院 糖尿病内分泌科 部長
辻本哲郎
本書は忙しい研修医のために,臨床論文を効率よく読む方法や抄読会での発表のコツを図解やイラストを用いてわかりやすく解説しています.ほとんどの研修医は,これまで臨床論文の
読み方を体系的に学んだ機会はなかったでしょう.しかし,evidence-based medicine(EBM)が現代の医療の基本的な考え方になっている臨床現場で,臨床論文から知識を蓄え,最新の
研究成果に基づいた医療を実践することは,研修医にとっても責務といえます.突然臨床の荒波にさらされる研修医にとって,実践的な内容が多く,論文の選び方から読み込み方,プレゼンテーションまでの一連の流れが学べる本書は,まさに最短・最速に臨床論文の読み方を学べる攻略本といえます.
本書では,まず読むべき論文として,自分の興味のある分野でインパクトファクターが高く厳格な査読をクリアした『NEJM』,『Lancet』,『JAMA』,『BMJ』といったトップジャーナルがあげられています.また,本書は論文に書かれている介入試験や観察研究といった臨床研究の種類や研究デザインが図解を交えてわかりやすく解説されており,さらに論文を読んだり書いたりするときに避けて通れない統計解析について説明されています.統計解析については,Kaplan-Meier曲線やハザード比とオッズ比の違いなど,具体的な例が図を用いて説明されていて,非常にわかりやすい解説であるといえます.そして abstract,introduction,methods,results,discussion といった論文の型について,重要なポイントと分析の方法が解説されています.
近年,AI を活用した DeepL(DeepL SE 社)や Microsoft Copilot(Microsoft 社)といった翻訳ツールにより英文が即座に日本語に変換され,たいへん便利な時代になりました.使用したことのある方は多いと思いますが,英語学習という観点からは当然のごとく賛否両論があります.しかし本書では,論文の内容を正確に理解することが一番重要であることを訴え,あえて最初のうちはこういった翻訳ツールをうまく活用することの意義を説いています.
本書は論文に書かれている研究結果について,批判的吟味が重要であると説いています.この論点は非常に重要で,そもそも臨床研究は患者のための研究であり,実際に研究結果を患者に適用できるかどうかを考える必要があります.その研究結果が正しいかどうかという内的妥当性を検討し,さらにその研究結果が一般的(研究の集団以外)に適用できるかという外的妥当性を検討することが大切であると述べられています.批判的に論文を読めてこそ EBM を実践できるようになるといえるでしょう.
本書の最終章では,抄読会に向けた準備の仕方や効果的なプレゼンテーション用の原稿の作り方について,具体的なテクニックも紹介されています.
このように,本書は図解やイラストを多用することにより,論文をはじめて読む研修医にもわかりやすく,抄読会をどのように準備し乗り切るかといったさまざまな実践的な内容が多く含まれています.臨床研究の手法や研究デザイン,統計解析の項目に登場する基本的な概念や専門用語の解説が充実しているため,研修医でも挫折することなく読み進めることができます.たいへん親切にかみ砕いて説明されているので,忙しい研修医にも当直のときなど隙間時間にぜひとも読んでほしい本であるといえます.
胸部外科77巻11号(2024年10月号)より転載
評者●くろまる鳥取大学心臓血管外科教授・吉川泰司
若き臨床医に捧ぐ:新世代に必須の手解きを授ける入門書
『臨床論文デビュー』は,これからの臨床をどんどん吸収していく若手医師に必携の,臨床論文の読解手法を微に入って紐解いた得がたい書物である.現代において日々の臨床を過不足なく遂行するには,講演会での情報や,上級医・同僚医師からの聞きかじり,況や薬剤メーカーの受け売りなどでない不磨の真実を,実際のエビデンスそのものを咀嚼することで,自らの血肉として備え,かつ蓄えていくことがessential fundamentalsである.そのためには,論文情報を原典そのものに基づいて読み親しむ力が,どうしても欠かせない.
とはいえ,それは初手からは,なかなか困難であろう.ましてや論文,それも英文論文への暴露の少ないビギナーズには至難の業に違いない.本書は,そのようなとっつきにくさを取っ払うべく,周到に準備され書き上げられた稀代の書である.具体的には,まずは,取り上げるべき論文の選び方,すなわち検索のノウハウから,論文に記載された臨床試験の方法論の解説と手法の判別法までが開陳され,続いて,論文各部の読み込み方,さらには批判的吟味からプレゼン資料作成のハウツーに至るまでが,いともコンパクトに,そして,わかりやすくまとめられている.
著者の辻本哲郎氏は,評者が国立国際医療研究センターに在職中に,初期研修医として内科研修を開始され,その後,私の科の後期研修医として研鑽の道を歩まれた.さらには,同センターにおいて,医員として多くの若手医師の教育に携わった経験を有する練達の臨床家・研究医である.この間,辻本氏は糖尿病,内分泌代謝をはじめとする数多の専門医,指導医を取得されるとともに,臨床研究にも強い志を持って,着実に歩みを進められた.その後,氏は虎の門病院分院の糖尿病内分泌科へと転ぜられ,現在は部長として忙しい日々を過ごしているに違いない.評者のもとを巣立ったあとも,梶尾 裕 国立国際医療研究センター 前副院長,森 保道 虎の門病院内分泌代謝科 部長とともに,マルチに,そして縦横に活躍されている.まさに本書を成すに相応しい逸材であると断言できる.
本書は,そのような著者の豊富な指導経験を結晶化させたともいうべき入門書であり,上述の幅広な内容について,まとめやイラスト,必須のひと言ポイント(「ここはおさえて!」というタイトルになっている)が随所にちりばめられた,たいへん咀嚼しやすい書籍となっている.
このように手軽に読み進められるにも拘わらず,要点が記憶に残るべく記載され,しかも,筋道の通った論文読解法が身につく本書を,まずは是非とも,読者の座右にお置きいただければ幸いである.
臨床雑誌内科135巻4号(2025年4月増大号)より転載
評者●くろまる野田光彦(国際医療福祉大学市川病院 教授)
本書は,抄読会などで必要な臨床論文をこれから読む研修医の先生方を対象に書かれた著書である.抄読会用の臨床論文の選び方から,臨床研究のデザインや統計解析の方法,英語論文の読み方や注意点まで,とてもわかりやすく記載されている.さらに,臨床論文の内容を理解したうえで,それを批判的に吟味する方法や抄読会での発表の仕方についても詳しく記載されている.すなわち,本書を読むことで,抄読会での臨床論文の読み方と発表の仕方をマスターすることができる.
本書では専門的な用語が使われず,各章のはじめに指導医と研修医の会話例が記載されていて,誰でも気軽に楽しく読むことができる.本書を読むことで,英語が苦手な若手の先生も臨床論文を読んでみたくなるのではないかと考える.医師にとって,最新の診断や治療法を学ぶことは医療現場において必須であり,そのためには臨床論文から新しい情報を得なければならない.その第一歩は,抄読会を通じて臨床論文を読み,その論文を詳しく吟味することである.そして臨床経験を重ね,多くの臨床論文から知識を習得し,将来的には自分自身が臨床論文を作成する研究に携わっていくことが重要である.
本書は研修医を対象に作成されているが,臨床研究の解析方法などがわかりやすく記載されており,これから臨床論文を作成する先生方や臨床研究を開始する先生方にも役立ち,また若手医師の指導にも有効と考えるので,ぜひ一度読んでみていただきたい.
臨床雑誌外科86巻9号(2024年8月号)より転載
評者●くろまる兵庫医科大学肝胆膵外科主任教授・廣野誠子
本書は,英語論文にまだ慣れていない若手医師を主な対象とした「論文読解入門」である.20年以上前,私が研修医であったころは,今のように論文をダウンロードしてPDFで保存するという時代ではなく,医局にある『The Journal of Bone and Joint Surgery(JBJS)』誌や『Spine』誌をコピーしてホッチキスでとめて読むというスタイルであった.当時,英語論文をどのように読むかを指導されたことはなく,当然ながら最初はスラスラ読めない.知らない英単語と悪戦苦闘しながら,赤ペンで線を引き必死に読んだものである.研究デザインの詳細などわからないことも多かったが,論文を通じて欧米の医療に触れることは刺激的であった.当時は「日本の常識」と「世界の常識」に乖離があることも多かった.たとえば,脊椎の手術後,2週間の予防的抗菌薬投与を行っている病院もあったが,英語論文では3日間程度しか投与されていないことに驚いた(もちろん今ではもっと短縮されている).また骨折治療におけるランダム化比較試験(RCT)なども多く,鎖骨骨幹部骨折の保存vs.手術,脛骨骨幹部骨折の髄内釘vs.プレートなどキャッチーなトピックの論文は今も記憶に残っている.本書は英語の臨床論文を読むための初歩的な手引きであるが,論文を読むうえで知っておくべきエッセンスがコンパクトにまとまっており,非常に読みやすく,ぜひ若手の先生方は抄読会を担当する際に,本書を手にとって読んでいただきたいと思う.
本書は大きく三つの章に分けられている.第1章の「?T.臨床論文の扉を開けよう」では,まずQ1英語論文の検索の仕方に始まり,Q2臨床研究の種類,Q3研究デザインについて実例を交えて詳しく書かれている.またQ4では解析手法,Q5人工知能(AI)を用いた自動翻訳などの裏技から,Q6抄読会の意義となっている.特にQ6で「抄読会は単なる知識のアップデートだけでなく,これからの自立した診療や臨床研究を行う糧となる」というくだりは,まさしくそのとおりであると思う.治療法に悩んだときに過去の文献を調べ,臨床論文を読み適切な解釈を行い,実臨床に活かすことができてはじめて「自立した」臨床医になれると考える.
第2章の「?U.臨床論文を読んでみよう」では,論文のメジャーコンテンツであるTitle,Abstract,Introduction,Methods,Results,Discussionの意味合いや読むうえでの注意点がわかりやすく書かれている.特にMethodsの中では,対象と方法,選択基準と除外基準,主要評価項目と副次評価項目など必須の記載項目が説明されている.さらには統計解析の手法や表記方法,p値,95%信頼区間,検定方法など論文を解釈するうえで重要な内容が書かれており,若手医師にはぜひこの部分を熟読していただきたい.
最後の第3章の「?V.研究結果を解釈し,発表しよう」では,読み込んだ論文を抄読会においていかに伝えるかが書かれている.どんなに論文を精読しても,伝え方がわるいと台無しになる.昔,「抄読会では自分で行った研究のつもりで発表せよ」とよくいわれたものであった.研究の背景,目的,手法,結果の重要性,結論をよく理解して聴衆にわかりやすく伝えなければならない.それに加えて論文に対する批判的吟味を行うことが必要で,研究の強みと弱点,研究に潜むバイアス,limitationをよく理解したうえで研究の妥当性を評価することが大事で,星の数ほどある論文の内容を鵜呑みにせず,適切な解釈を行う必要がある.
本書は全体にわかりやすい言葉で書かれており,分量も多くなく,また大事なポイントはハイライトされており,非常に読みやすい.若手医師に限らず英語論文になじみの薄い先生にはぜひおすすめしたい一冊である.本書を読むと英語論文にとっつきやすくなることは間違いなく,効率よく臨床論文になじんで,日々の臨床や今後の研究につなげていっていただきたいと思う.
臨床雑誌整形外科75巻10号(2024年9月号)より転載
評者●くろまる東京医科歯科大学整形外科教授・吉井俊貴