コラム 経済トレンド137
推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
大臣官房総合政策課 川野 祥太/瀧岡 信太朗
大臣官房総合政策課 川野 祥太/瀧岡 信太朗
本稿では、近年若年層を中心に流行している“推し活”について、特徴を整理したうえで消費者と経済への影響を考察する。
「推し活」の概要と現状
推し活※(注記)とは、アイドルやアニメ、俳優、ゲームキャラクターなど「推し」と呼ばれる存在を応援するためにお金や時間を投じる行為を指す。2021年には流行語大賞にノミネートされ、社会的に認知されるようになった。現在では15〜79歳の3人に1人が推しを持つとされ、単なる趣味を超えた生活文化として定着しつつある。世代や性別を問わず幅広く浸透していることが特徴である(図表1 「推し」の有無)。
推し活は特に若者を中心に日常生活に強く組み込まれている。クロスマーケティング社の調査によると、余暇時間を使って推し活をしている人は2割に上ることがわかった。20代女性は45%、男性は29%で、特に若年層が多いことが推測される(図表2 「推し活」の実施状況)。
とりわけ高校生の間では、SNSの利用頻度、生活の楽しみ、仕事へのモチベーションを押し上げる効果等が調査で確認されている(図表3 「推し活」による変化・影響(高校生))。推し活は、趣味の一形態を超え、精神的な充足や自己表現の手段として機能しているといえる。
(注)※(注記)推し活については「国民生活 2023年7月号【No.131】」に掲載されている「1 今どき推し活事情」が参考になる。(https://www.kokusen.go.jp/wko/data/wko-202307.html)
(出所)株式会社インテージ「インテージのネットリサーチによる自主調査データ」、株式会社クロス・マーケティング「2024年2月 新型コロナウイルス生活影響度調査(余暇行動編)」、株式会社マイナビ「高校生のアルバイト調査(2025年)」
「推し活」消費の特徴
推し活の対象は多様化しており、アイドルやミュージシャンといった従来の領域に加え、YouTuberやVTuber、アニメやゲームのキャラクターなど幅広い(図表4 「推し」のジャンル 人気TOP3)。応援対象が拡大している背景には、趣味や価値観の細分化がある。個人が自分らしい「推し」を見つけられる環境が整ったことで、従来型の一極集中型ファン活動から、分散型で多彩な推し活へと進化している。
推し活にかける年間支出はジャンルによって大きく異なる。インテージ調査によると、国内アイドルには年間平均で約4.8万円、ミュージシャンには約3.4万円、K-POPアイドルには約2.7万円が費やされている一方、アニメや漫画には約1万円にとどまる(図表5 「推し活」の年間支出額 TOP10)。
こうした支出は、推しコンテンツの保有者に直接利益が及ぶ「公式消費」だけでなく、ファンの自主的な活動や関連サービスとの連携による「自主消費」「付随消費」「コラボ消費」など、多層的な構造から成り立っている(図表6 「推し活」にかかる費用の内訳)。ジャンルごとの支出額の差には、推しに会うための交通費や宿泊費といった間接的なコストの違いも影響していると考えられる。
(出所)株式会社インテージ「インテージのネットリサーチによる自主調査データ」、株式会社野村総合研究所「拡大する「推し活」市場のポテンシャルとビジネスの可能性」
「推し活」の市場規模と成長トレンド
矢野経済研究所の推計によれば、主要16分野の市場規模は2020年度から2024年度にかけて約50%拡大している。2021年度以降は着実な成長が続いており、推し活関連市場が堅調に拡大してきたことが確認できる※(注記)(図表7 「オタク」主要16分野別市場規模推移(十億円))。
企業の現場からも推し活需要の存在感が確認されている。日銀の「さくらレポート」では、小売業でキャラクターとのコラボ商品が完売する事例などが報告されている。こうした声は、推し活が単なる個人消費にとどまらず、企業収益や地域経済を動かす力を持つことを示しており、需要の厚みと持続性を裏付けるものとなっている(図表8 さくらレポートに掲載された企業の主な声)。
YouTubeやInstagramなどクリエイターがユーザーと接点を有するプラットフォームは“クリエイターエコノミー”と呼ばれ、2021年から23年まで年間平均17.4%成長している(図表9 クリエイターエコノミー市場規模推移)。クリエイターエコノミーによる推し活促進のための仕掛け作りが、推し活の普及・市場拡大に寄与し、結果としてクリエイターエコノミー市場の拡大につながったという見方がある(図表10 “推し活”と“クリエイターエコノミー”の関係性)。
(注)※(注記)2020年度はコロナ禍の影響により数値が低めに出ている可能性があり、そのため成長率がやや大きめに算出されている可能性がある。
(出所)野村證券株式会社「推し活の市場規模は1兆円以上? 物価高に負けない消費の詳細は(2025年7月)」、日本銀行「地域経済報告(さくらレポート、2025年1月)」、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「国内クリエイターエコノミーに関する調査結果(2024 年)」
「推し活」が消費者と経済に与える影響(展望)
さらに、推し活は経済効果のみならず、消費者にもポジティブな影響を持つ活動といった考え方もある。推し活において特徴的な投げ銭・メンバーシップなどの月額課金型サポート等の消費行動は、寄付と同様に「利他性」に基づく満足感に寄与しているとし、ウェルビーイングに影響を与え得るといった指摘もある(図表11 寄付によって、満足感が生まれるプロセス、図表12 配信中に投げ銭をする理由(複数回答、(%)))。
また、推し活を行う高校生は、推しを持たない層と比較して、職場環境を快適と感じる割合が10ポイント以上高く、働きぶりが認められていると答える割合も有意に高いといった調査結果もある。アルバイトの経験においても推し活が動機付けとなり、前向きな姿勢を促しており、消費の範囲を超え、個人のモチベーションや社会参加意識に結びついている点は、推し活の持つ社会的意義の高さを裏付けているといえる(図表13 推し活をしている高校生のアルバイト先への意識)。
インテージの調査によると推し活は物価高や円安などの影響を受けにくい。これは、「推し」の代替性が低く、消費者は「必要経費」として支出を継続しやすいためだと思われる。結果として、推し活市場は、企業にとっては安定収益を生み出す市場となり、観光・小売・エンタメ業界にとどまらず幅広い産業への恩恵が予想される。今後も成長分野の一つとして注目され、経済に一定の寄与を果たすことが期待される(図表14 物価高や円安はどの程度影響(予算を減らしたり行動を控えたり)するか(%))。
(出所)株式会社第一生命経済研究所「推し活消費はウェルビーイングの第一歩?〜なぜ私たちは「推し」に満たされるのか〜」、株式会社マイナビ「高校生のアルバイト調査(2025年)」、株式会社インテージ「インテージのネットリサーチによる自主調査データ」
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。