アロプリノールとシクロホスファミドの相互作用による血液障害
成分名 成分名 該当商品名
該当商品名 アロプリノール ザイロリック(日本ウエルカム)他
薬効分類 高尿酸血症治療剤
効能効果 痛風,高尿酸血症を伴う高血圧症における高尿酸血症の是正
成分名 成分名 該当商品名
該当商品名 シクロホスファミド エンドキサン(塩野義製薬)
薬効分類 抗悪性腫瘍剤
効能効果 抗腫瘍作用(詳細略)
(1)症例の紹介
アロプリノールは昭和43年12月に承認されたキサンチンオキシダーゼ阻害作用を有する高尿酸血症治療剤である。痛風,高尿酸血症を伴う高血圧症における高尿酸血症の是正を効能とし,広く使用されている薬剤である。
高尿酸血症に対しアロプリノール投与中の患者にシクロホスファミドを併用したところ,白血球減少が発現したためアロプリノールの投与を中止し,G‐CSFの投与により回復したとの報告があったため,その症例の概要について紹介する(表1)。なお,当該症例はシクロホスファミドの血中濃度等のモニターはされていない。
(2)文献の紹介
これまでにアロプリノールとシクロホスファミドの相互作用について述べられた外国文献が4報1-4)報告されている。この相互作用の発現機序については,シクロホスファミドは肝ミクロソーム酵素によって代謝される薬剤であり,一方アロプリノールは肝ミクロソーム酵素を阻害することが報告されている5)ことから,アロプリノールによるシクロホスファミドの代謝阻害,又は腎排泄の競合によると考えられている。報告されている文献の一部について紹介する(表2)。
(3)安全対策
アロプリノール,シクロホスファミドの併用により,シクロホスファミドの作用が増強し,重篤な血液障害が発現する可能性があるため,使用上の注意「相互作用」の項に,併用する場合には定期的に血液検査を行い,十分に注意する旨記載し,注意を喚起する。
《使用上の注意(改訂部分)》
〈アロプリノール〉
相互作用
併用に注意すること
シクロホスファミド[併用により骨髄抑制があらわれるとの報告があるので,併用する場合には定期的に血液検査を行い,白血球減少等の副作用の発現に注意すること。]
〈参考文献〉
1)Yule, S.M., et al.: Br. J. Clin. Pharmacol., 41(1):13‐19(1996)
2)Witten, J., et al.: Acta. Pharmacol. Toxicol., 46(5):392‐394(1980)
3)Boston Collaborative Drug Surveillance Program: JAMA., 227(9):1036‐1040(1974)
4)Bagley, C.M.Jr., et al.: Cancer Res., 33:226‐233(1973)
5)Vesell, E.G., et al.: N. Engl. J. Med., 283:1484‐1488(1970)
表1 症例の概要
- No.1 患者 性・年齢 女・24歳
-
使用理由〔合併症〕
高尿酸血症SLE〔慢性腎不全,両側大腿骨頭壊死,門脈圧亢進症,食道静脈瘤,肝硬変〕
1日投与量、投与期間
アロプリノール 200mg 99日間
シクロホスファミド 50mg 11日間
副作用、経過及び処置
高尿酸血症に対してアロプリノール投与中の患者にシクロホスファミドを11日間併用した。
シクロホスファミドの投与中止5日目に,白血球減少が認められ,アロプリノールの投与を中止した。
アロプリノール投与中止3日目よりG‐CSFの投与を開始し,投与中止7日目回復した。
- 備 考 企業報告
- 臨床検査値
- シクロホスファミド
-
投与開始日
発現日
回復日
白血球数(/)
2400
1000
4500
- 併用薬:フロセミド,アゾセミド,シメチジン,塩酸チアラミド,プレドニゾロン,セフメタゾールナトリウム
表2 文献の概要
No.1
対象
小児癌患者38名(2ヵ月〜18歳)
投与量
アロプリノール 300mg/m2/日
シクロホスファミド 370〜2490mg/m2
文献の概要
基礎疾患が非ホジキンリンパ腫,急性リンパ芽球性白血病,神経芽細胞腫,横紋筋肉腫である小児癌患者を対象に試験を行った。シクロホスファミドは一定速度で1時間かけて静脈内投与した。
3例で骨髄移植前にアロプリノールが併用されていた。これらの患者では,アロプリノールが投与されていない患者に比べ,シクロホスファミドの半減期が2倍以上に延長した(p<0.001)。
備 考
参考文献1)
No.2
対象
癌患者9名、健常人2名(35〜74歳)
投与量
アロプリノール 200mg×ばつ3/日シクロホスファミド 25mg+20μCi14Cラベル化合物
文献の概要
シクロホスファミドを14日間の間隔をおいて2回静脈内投与した。シクロホスファミドを投与していない14日間にアロプリノールを投与した。
シクロホスファミドの半減期は変化しなかった(Wilcoxon 検定:2α=0.33)が,シクロホスファミドの代謝物濃度が著明に上昇した(2α=0.016)。
備 考
参考文献2)
No.3
対 象
癌患者(白血病を除く)160名
投与量
不明
文献の概要
細胞毒性のある薬剤(シクロホスファミド,クロラムブシル,フルオロウラシル,メルファラン等)を投与されている癌患者においてアロプリノール投与と骨髄抑制について検討した。
シクロホスファミドを投与されていた58名のうち,アロプリノール併用群での骨髄抑制発現率は15/26(57.7%),非併用群では6/32(18.8%)であった(p<0.001)。
シクロホスファミド以外の薬剤を投与されていた患者ではそれぞれ17.9%と9.5%であり,有意な差はなかった。
備 考
参考文献3)
血漿分画製剤とパルボウイルスB19感染リスクについて
パルボウイルスB19は1984年に伝染性紅斑(リンゴ病)の病原ウイルスとして認知,命名されたウイルスで,一般的に飛沫感染により一過性の感染を起こすが予後は良好であることが知られている。今般,各種血漿分画製剤中にパルボウイルスB19のDNAがPCR法(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション法)で検出されたとする文献が企業より報告された。パルボウイルスB19は他のウイルスに比べて加熱や膜(フィルター)などによる不活化・除去が容易でないため製剤中への混入の可能性を否定し得ないこと,また本ウイルス感染症が一般的には予後良好であるものの,一部患者において感染した場合には重篤な症状を招くことがあるとされているため,血漿分画製剤の使用上の注意事項を変更し,これら患者への使用に際し注意を喚起することが適当と考え,関係企業に指導した(平成8年11月11日)。
成分名
該当商品名
乾燥濃縮人アンチトロンビンIII
アンスロビンP(ヘキスト)他
乾燥濃縮人血液凝固因子抗体迂回活性複合体
ファイバ(日本臓器)
乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子
クロスエイトM(日赤)他
乾燥濃縮人血液凝固第IX因子
ノバクトM(化血研)他
乾燥人血液凝固第IX因子複合体
プロプレックスST(バクスター)他
乾燥濃縮人血液凝固第XIII因子
フィブロガミンP(ヘキスト)
加熱人血漿たん白
プラスマネート・カッター(バイエル)他
乾燥濃縮人C1‐インアクチベーター
ベリナートP(ヘキスト)
トロンビン(ヒト由来)
トロンビン‐ミドリ(ミドリ十字)他
人ハプトグロビン
ハプトグロビン‐ミドリ(ミドリ十字)
乾燥人フィブリノゲン
フィブリノゲンHT‐ミドリ(ミドリ十字)
フィブリノゲン加第XIII因子
ティシール(日本臓器)他
フィブリン
フィブリン膜(柔軟)(ミドリ十字)
活性化プロトロンビン複合体
オートプレックス(バクスター)
人血清アルブミン
赤十字アルブミン(日赤)他
人免疫グロブリン
グロブリン‐ミドリ(ミドリ十字)他
乾燥イオン交換樹脂処理人免疫グロブリン
ガンマガード(バクスター)
抗HBs人免疫グロブリン
ヘパトセーラ(化血研)他
乾燥抗HBs人免疫グロブリン
ヘブスブリン(ミドリ十字)他
乾燥抗D(Rho)人免疫グロブリン
抗D人免疫グロブリン‐ミドリ(ミドリ十字)他
乾燥スルホ化人免疫グロブリン
ベニロン(化血研)
抗破傷風人免疫グロブリン
テタガムP(ヘキスト)
乾燥抗破傷風人免疫グロブリン
テタノブリン(ミドリ十字)他
乾燥プラスミン処理人免疫グロブリン
メリューVG(メクト)
pH4処理酸性人免疫グロブリン
ポリグロビンN(バイエル)
乾燥pH4処理人免疫グロブリン
サングロポール(富士レビオ)
乾燥ペプシン処理人免疫グロブリン
ガンマ・ベニンP(ヘキスト)他
ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン
ヴェノグロブリン‐IH(ミドリ十字)
乾燥ポリエチレングリコール処理人免疫グロブリン
ヴェノグロブリン‐I(ミドリ十字)他
乾燥ポリエチレングリコール処理抗HBs人免疫グロブリン
ヘブスブリン‐I(ミドリ十字)
乾燥ポリエチレングリコール処理抗破傷風人免疫グロブリン
テタノブリン‐I(ミドリ十字)
ヒスタミン加人免疫グロブリン
ヒスタグロビン(日本臓器)他
- (1)パルボウイルスB19とその感染症について
- パルボウイルスB19はエンベロープ(脂質膜)を持たない極めて小さいDNAウイルスで,赤血球の前駆細胞や胎児肝細胞など分裂が盛んに行われている細胞で増殖する。
本ウイルスの感染経路は主として飛沫感染であり,流行期における抗体保有率は各年齢層によって違いはあるが36〜89%であるとされる。本ウイルス感染症で最も一般的な症状は小児に好発する伝染性紅斑(リンゴ病)で,成人においては多発性の関節炎が知られている。これらの症状は一般に軽度で,予後も良好であり,また不顕性感染も小児で30%,成人では60%程度もあるとされる。これらのことから,その感染はごく普通にみられ,危険性の比較的少ないウイルスであると考えられている。
しかしながら,妊婦に感染した場合には流産,胎児水腫や胎児死亡の原因となることがあり,また免疫不全患者や免疫抑制状態にある患者においては持続性感染による持続性の貧血が,溶血性貧血や失血性貧血の患者においてはaplastic crisis(無形成造血障害発作)が起こることがあるとされている。
- (2)血漿分画製剤によるパルボウイルスB19感染の可能性
- このたび報告された英国の文献1)の要旨は以下のとおりであった。
・アルブミン12ロット中3ロット,凝固第VIII因子製剤7ロット中7ロット,静注用免疫グロブリン製剤15ロット中3ロット及び筋注用免疫グロブリン製剤4ロット中3ロットに,PCR法でパルボウイルスB19のDNAが検出された。
・これら製剤の原料血漿プール75ロット中64ロット(85%)にDNAが検出された。
上述のように本ウイルスはエンベロープを持たずウイルス粒子径も小さいため,有機溶媒/界面活性剤処理による不活化や,膜(フィルター)による除去が他のウイルスよりも難しく,また熱にも強いために,他のウイルスに比べ加熱処理による不活化も難しいという特性を持っている。PCR法でDNAが検出されたことをもって製剤が感染性を持つとは言い切れないが,このようなウイルス特性を考えれば,DNAの存在が感染性を示していると考える方が安全対策上妥当であると考えられる。
また臨床的には,製剤投与後にパルボウイルスB19に感染し,発熱,発疹,関節痛,ヘモグロビン低下,好中球減少症,汎血球減少症や敗血症などの症状を呈した例が,凝固第VIII因子製剤2,3),凝固第IX因子製剤2,3)及びアンチトロンビンIII製剤4)について海外の文献で報告されている。
- 以上の事実関係や,スクリーニング段階での適切なチェック方法が開発されていないことなどを考慮すれば,血漿分画製剤によってパルボウイルスB19が感染する可能性は否定し得ない状況であり,一部患者においてはその感染が重篤な症状につながることがあるとされているため,血漿分画製剤の「使用上の注意」を変更し,それら患者への使用について注意を喚起することとした。なお,免疫グロブリン製剤については,製剤中の抗体により感染性が失われている可能性も考えられるが,そのことを示す十分な根拠がないため,他の製剤と同様に使用上の注意事項を変更した。
- (3)安全対策
- 平成8年11月11日付で使用上の注意の改訂を指示し,注意を喚起することとした。添付文書の追記事項は次に示すとおりである。
対象製剤すべての「一般的注意」の項に,「血漿分画製剤の現在の製造工程では,ヒトパルボウイルスB19等のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であるため,本剤の投与によりその感染の可能性を否定できないので,投与後の経過を十分に観察すること。」を追記し,「慎重投与」の項に,「溶血性・失血性貧血の患者(ヒトパルボウイルスB19の感染を起こす可能性を否定できない。感染した場合には,発熱と急激な貧血を伴う重篤な全身症状を起こすことがある。)」「免疫不全患者・免疫抑制状態の患者(ヒトパルボウイルスB19の感染を起こす可能性を否定できない。感染した場合には,持続性の貧血を起こすことがある。)」を追記し,「妊婦への投与」の項を,「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。本剤の投与によりヒトパルボウイルスB19の感染の可能性を否定できない。感染した場合には胎児への障害(流産,胎児水腫,胎児死亡)が起こる可能性を否定できないので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」と改めた。
なお,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人が「禁忌」となっているヒスタミン加人免疫グロブリンについては「一般的注意」「慎重投与」の項のみを上記のとおり改めることとした。
今回の使用上の注意事項の変更により,血漿分画製剤がより適切な判断のもとに有効活用されることが期待される。
〈参考文献〉
1)Saldanha, J., et al.: Br. J. Haematol., 93:714‐719(1996)
2)Santagostino, E., et al.: Lancet, 343:798(1994)
3)Yee, T.T., et al.: Br. J. Haematol., 93:457‐459(1996)
4)Mosquet, B., et al.: Therapie, 49:471‐472(1994)