ダイオキシン類のトータルダイエットによる摂取量調査
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厚生労働科学研究費補助金(食品安全確保研究事業)
分担研究報告書
ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究
(1)ダイオキシン類のトータルダイエット調査
分担研究者 米谷民雄 国立医薬品食品衛生研究所
研究要旨 全国7地区11機関で調製したトータルダイエット(TDS)試料についてダイオキシン類(PCDD/PCDFs及びCo-PCB)を分析し,ダイオキシン類の国民平均1日摂取量を求めた.平成14年度と同様に,ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類),11群(肉・卵)および12群(乳・乳製品)に重点を置いた調査を実施した.すなわち,これら3群については11機関がそれぞれ各3セットの試料を調製し,その他の群は各1セットの試料を調製した.これら3食品群については,各試料毎にダイオキシン類を分析し,その他は食品群毎に1または2地区の各機関の試料を混合して分析し,ダイオキシン類摂取量を求めた.
その結果,ダイオキシン類の平均1日摂取量は1.33±0.59 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.58〜3.05 pgTEQ/kgbw/day)であった.これは,平成13及び14年度の調査結果(1.63±0.71 pgTEQ/kgbw/day,範囲0.67〜3.40 pgTEQ/kgbw/day)及び(1.49±0.65 pgTEQ/kgbw/day,範囲0.57〜3.40 pgTEQ/ kgbw/day)とほとんど同じレベルであり,日本における耐容1日摂取量(4 pgTEQ/kgbw/day)より低かった.なお,同一機関で調製した試料であっても,10〜12群に選択した食品の種類,産地等の差により,ダイオキシン類摂取量には約1.4〜3.9倍の差があった.
研究協力者
(財)日本食品分析センター
丹野憲二,野村孝一,柳 俊彦,河野洋一
国立医薬品食品衛生研究所
佐々木久美子,堤 智昭,天倉吉章
A.研究目的 日本における全国規模のダイオキシン類摂取量調査は,1996年度から厚生労働省の研究班によって,トータルダイエット(TDS)調査試料を用いて毎年実施されている.
昨年度までの調査では日本人のダイオキシン類1日摂取量は,耐容1日摂取量(TDI)の4 pgTEQ /kgbw/dayを下回っており,経年的にやや減少の兆しが見えた.引き続き推移を見るため本年度も全国7地区11機関で調製したTDS試料についてダイオキシン類を分析し,1日摂取量を求めた.14年度と同様に本年度も調査件数を増やすため,ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群(10,11及び12群)については各機関が3セットずつの試料を調製し,それぞれについてダイオキシン類を測定した.一方,その他の食品群については,食品群毎に1または2地区の各機関の試料を混合して分析し,地区平均摂取量をもとめて,前記3群からの各摂取量と和して,総摂取量をもとめた.
B.研究方法
1.試料 TDS試料は,全国7地区,11機関で調製した.各機関でそれぞれ約120品目の食品を購入した.厚生労働省の平成12年度国民栄養調査の地域別食品摂取量表に基づいて,それらの食品を計量し,そのまままたは調理した後,13群に大別して,混合し均一化したものを,分析に供すまで-20°Cで保存した.
13食品群の内訳は,次のとおりである.
第1群: 米,米加工品
第2群: 米以外の穀類,種実類,いも類
第3群: 砂糖類,菓子類
第4群: 油脂類
第5群: 豆類,豆加工品
第6群: 果実類
第7群: 緑黄色野菜
第8群: 他の野菜類,キノコ類,海草類
第9群: 調味料,嗜好飲料
第10群: 魚介類
第11群: 肉類,卵類
第12群: 乳,乳製品
第13群: その他の食品(カレールー等)
第14群として飲料水を加えている.
なお,10〜12群については,各機関が各群3セットずつ調製した.3セットの試料は,魚種,産地,メーカー等が異なる食品を選んで調製した.
2.試験項目及び検出限界 試験項目は従来通り,WHOが毒性係数(TEF)を定めたPCDDs 7種,PCDFs 10種及びCo-PCBs 12種の計29種とした.
ダイオキシン類各異性体の検出限界は次のとおりである.
検出限界
PCDDs
1-3,
5-13群
(pg/g)
4群
(pg/g)
14群
(pg/L)
2,3,7,8-TCDD
0.01
0.05
0.1
1,2,3,7,8-PeCDD
0.01
0.05
0.1
1,2,3,4,7,8-HxCDD
0.02
0.1
0.2
1,2,3,6,7,8-HxCDD
0.02
0.1
0.2
1,2,3,7,8,9-HxCDD
0.02
0.1
0.2
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD
0.02
0.1
0.2
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDD
0.05
0.2
0.5
PCDFs
2,3,7,8-TCDF
0.01
0.05
0.1
1,2,3,7,8-PeCDF
0.01
0.05
0.1
2,3,4,7,8-PeCDF
0.01
0.05
0.1
1,2,3,4,7,8-HxCDF
0.02
0.1
0.2
1,2,3,6,7,8-HxCDF
0.02
0.1
0.2
1,2,3,7,8,9-HxCDF
0.02
0.1
0.2
2,3,4,6,7,8-HxCDF
0.02
0.1
0.2
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF
0.02
0.1
0.2
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF
0.02
0.1
0.2
1,2,3,4,6,7,8,9-OCDF
0.05
0.2
0.5
Co-PCBs
3,3',4,4'-TCB(#77)
0.1
0.5
1
3,4,4',5-TCB(#81)
0.1
0.5
1
3,3',4,4',5-PeCB(#126)
0.1
0.5
1
3,3',4,4',5,5'-HxCB(#169)
0.1
0.5
1
2,3,3',4,4'-PeCB(#105)
1
5
10
2,3,4,4',5-PeCB(#114)
1
5
10
2,3',4,4',5-PeCB(#118)
1
5
10
2',3,4,4',5-PeCB(#123)
1
5
10
2,3,3',4,4',5-HxCB(#156)
1
5
10
2,3,3',4,4',5'-HxCB(#157)
1
5
10
2,3',4,4',5,5'-HxCB(#167)
1
5
10
2,3,3',4,4',5,5'-HpCB(#189)
1
5
10
3.試験方法 ダイオキシン類の試験方法は「食品中のダイオキシン類測定方法ガイドライン」(厚生労働省,平成11年10月)に従った.
各機関で3セットずつ調製した10,11,12群の試料はそれぞれ個別にダイオキシン類を分析した.一方,1〜9群及び13,14群は,1または2地区の各機関の試料を食品群毎に摂取量に応じた割合で混合したものについて,ダイオキシン類を分析した.
4.分析結果の表記 調査結果は,1日摂取量を毒性等量(pgTEQ/kgbw/day)で示した.分析値が検出限界以下であった異性体をゼロとして計算した場合(以下,ND=0と略す)と,検出限界値の1/2を当てはめた場合(以下,ND=LOD/2と略す)について示した.
10〜12群は各機関についてそれぞれ3つの分析値が得られるので,各群のダイオキシン類摂取量の最小値,中央値,最大値の組み合わせを使用し,総摂取量の最小,中位,最大の値を示した.
C.研究結果 7地区11機関において調製したトータルダイエット試料を分析し,ダイオキシン類摂取量及び各群からの摂取割合を算出した.
表1〜
表3には,ND=0の場合のダイオキシン(PCDD/PCDFs),Co-PCBs及び両者を合わせたダイオキシン類の値を示した.また,
表4〜
表6にはND=LOD/2 の場合のそれぞれの値を参考値として示した.
表1〜
6では,10〜12群からのダイオキシン類摂取量の最小値同士の組み合わせを#1,中央値の組み合わせを#2,最大値の組み合わせを#3として示した.従って,
表1,
2,
4,
5においては,PCDDs+PCDFsまたはCo-PCBs摂取量の大小と#1,#2,#3とは必ずしも一致しない.
ダイオキシン(PCDD/PCDFs)の1日摂取量は,ND=0の場合,平均21.96 pgTEQ/day(範囲8.19〜56.40 pgTEQ/day)であった.これを,日本人の平均体重を50kgとして,体重(kg)あたりの1日摂取量に換算すると,平均0.44 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.16〜1.13 pgTEQ/kgbw/day)となる(
表1).
ND=LOD/2の場合の1日摂取量は,平均58.78 pgTEQ/day(範囲45.11〜89.27 pgTEQ/ day)であり,体重(kg)あたり,平均1.18 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.90〜1.79 pgTEQ/kgbw/day)となる(
表4).
ダイオキシン1日摂取量に対する各食品群の寄与率は,ND=0の場合,高い順に10群(魚介類)78.5%,11群(肉・卵)15.8%,12群(乳・乳製品)4.4%となり,これらの群で全体の98.7%を占めている.
ND=LOD/2の場合は,高い順に10群30.4%,1群16.1%,11群及び2群8.9%となり,摂食量が多い1群及び2群からの摂取割合が増加する結果となっている.
Co-PCBsの1日摂取量は,ND=0の場合,平均44.55 pgTEQ/day(範囲20.76〜116.85 pgTEQ/day)であり,体重(kg)あたり,平均0.89 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.42〜2.34 pgTEQ/kgbw/day)となる(
表2).
ND=LOD/2の場合の摂取量は,平均55.42 pgTEQ/day(範囲32.38〜127.15 pgTEQ/day)であり,体重(kg)あたり,平均1.11 pgTEQ/kgbw/day(範囲0.65〜2.54 pgTEQ/kgbw/ day)となる(
表5).
Co-PCBs1日摂取量に対する寄与率が高い食品群は,ND=0の場合,10群(魚介類)90.1%,11群(肉・卵)8.0%であり,両群で全体の98.1%を占めている.ND=LOD/2の場合も10群72.4%,11群6.7%の寄与率が高く,両群で全体の79.1%を占めている.
PCDD/PCDFsとCo-PCBsを合わせたダイオキシン類の1日摂取量は,ND=0の場合,平均66.51 pgTEQ/day(範囲28.95〜152.41 pgTEQ/ day)であり,体重(kg)あたり,平均1.33 pgTEQ/ kgbw/day(範囲0.58〜3.05 pgTEQ/kgbw/day)である(
表3).
ND=LOD/2の場合の1日摂取量は,平均114.20 pgTEQ/day(範囲79.21〜195.69 pgTEQ /day)であり,体重(kg)あたり,平均2.29 pgTEQ /kgbw/day(範囲1.58〜3.91 pgTEQ/kgbw/day)となる(
表6).
ダイオキシン類摂取量に対する各食品群の寄与率は,ND=0の場合,高い順に10群86.3%,11群10.6%,12群2.4%となり,これら3群で全体の99.3%を占めている.ND=LOD/2の場合は,高い順に10群50.8%,1群10.9%,11群7.8%,2群6.1%となり,1,2群の寄与率が高い結果となっている.
ダイオキシン類摂取量に占めるPCDD/PCDFsとCo-PCBの割合は,ND=0の場合,第10群における両者の割合を反映して,約1:2であった.
D.考察
表7に,平成13〜15年度の調査結果ならびに平成12年度厚生科学研究費補助金研究事業「ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究報告書」から引用した平成10〜12年度の結果を示した.15年度調査の平均1日摂取量は,12〜14年度に比べ,やや低かったが,標準偏差が大きいため,4年度間で差はないと考えられる.
何れも平成12年1月に施行された「ダイオキシン類特別措置法」に定められた日本におけるTDI(4 pgTEQ/kgbw/day)以下であった.
10〜12群については各機関で各3セットのTDS試料を調製し,ダイオキシン類摂取量の最小,中位及び最大値をもとめた.その結果,同一機関におけるダイオキシン類摂取量の最小値と最大値には1.4〜3.9倍の差があった.
本年度の調査では関東地区Aの摂取量が最大であり,平成13,14年度の調査では九州地区A,関東地区Bの摂取量がそれぞれ最も高い結果が得られたが,同一機関で調製した試料でもダイオキシン類摂取量に差があったことから,地域や調査年度による差というより,TDS試料として使用した主に魚の種類,産地,個体の差を反映しているものと考えられる.
10〜12群を除く食品群については,食品群毎に1または2地区の各機関の試料を混合して分析しダイオキシン類摂取量をもとめた.各地区におけるこれらの食品群からのダイオキシン類摂取量はND=0の場合,平均0.51 pgTEQ/day(範囲0.27〜0.76 pgTEQ/day)であり,全食品群からの平均1日摂取量(66.51 pgTEQ/day)に占める割合は,1%以下であった.この結果から,TDS調査において10〜12群を除く食品群からの摂取量をゼロと仮定してもダイオキシン類摂取量に大きな影響を与えないことが分かった.
本調査で得られたダイオキシン類1日摂取量は地方自治体で独自に実施された調査結果:東京都(平成11〜15年度)1.25〜2.18 pgTEQ/kgbw/day, 埼玉県(平成11〜13年度)1.0〜3.2 pgTEQ/kgbw/day,神奈川県(平成12〜15年度)1.25 〜2.21 pgTEQ/kgbw/day)とほぼ同レベルであった.
英国は2001年の成人のダイオキシン類摂取量を0.9 pgTEQ/kgbw/day(ND=0の場合)と推定している(http://www.food.gov.uk/multimedia/pdfs/fsis38_2003.pdf).
米国FDAは2001年及び2002年のTDS分析結果から,ND=0とした場合PCDD/PCDFsの摂取量は11.6 pgTEQ/kgbw/month,ND=1/2LODとした場合,21.1 pgTEQ/kgbw/monthと報告している(http://vm.cfsan.fda.gov/~lrd/dioxee.html).
これらに比べると,日本人のダイオキシン類摂取量は高かった.
また,JECFA(FAO/WHO食品添加物合同専門家委員会)は2001年6月,national food consumption surveyに基づいて,PCDD/PCDFs及びCo-PCB摂取量の中央値をそれぞれ33〜42 pgTEQ/kgbw/month,9〜47 pgTEQ/kgbw/monthと推定している.
(http://www2.minlnv.nl/lnv/algemeen/vvm/codex/documenten/2003/CCFAC/fa36_32e.pdf)
本年度の調査結果を換算すると,それぞれ13.2,26.7 pgTEQ/kgbw/monthとなり,PCDD/PCDFsについてはJECFAの推定範囲以下,Co-PCBについては範囲内であった.
JECFAは,ダイオキシン類のPTMI(暫定耐容1月摂取量)を70 pgTEQ/kgbw/monthとすることを提案している(2001年6月).また,EUではSCF(食品科学委員会)が,ダイオキシン類のTWI(耐容1週摂取量)を14 pgTEQ/kgbw/weekとする意見を出している(2001年5月).
本年度の調査で得られた11機関各3組(合計36組)の1日摂取量を,提案されたPTMI,TWIと比較すると,4組はこれらの耐容量に近いかまたは超えていたが,平均1日摂取量(1.33 pgTEQ/kgbw/day)は提案値より低かった.
E.結論
平成15年度に,全国7地区で食品を採取し調製したTDS試料によるダイオキシン類の摂取量調査を実施した結果,平均1日摂取量は1.33±0.59 pgTEQ/kgbw/dayであり,日本におけるTDIより低かった.
ダイオキシン類摂取量はこの3年間横這いであることから,今後も食事からのダイオキシン類摂取に対する寄与が大きい魚介類,肉・卵類,乳・乳製品に重点を置いたTDS調査を継続し,動向を見守る必要がある.
F.研究発表
1.論文発表
なし
謝辞
トータルダイエット試料の調製にご協力頂きました7地区の11研究機関の方々に感謝いたします.さらに,国民栄養調査結果の特別集計にご協力頂きました独立行政法人健康・栄養研究所の吉池信男氏に感謝いたします.
【参考文献】
・平成12年度厚生科学研究費補助金研究報告書「ダイオキシン類の食品経由総摂取量調査研究」
・平成13年度厚生科学研究費補助金研究報告書「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」
・平成14年度厚生科学研究費補助金研究報告書「ダイオキシンの汚染実態把握及び摂取低減化に関する研究」
・東京都衛生局:平成15年度食品からのダイオキシン類摂取状況調査結果
・神奈川県衛生部:平成15年度食品からのダイオキシン類1日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)結果
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