首相公邸(旧官邸)
首相公邸〜建築様式は当時人気の「ライト風」〜
首相公邸〜建築様式は当時人気の「ライト風」〜
総理が執務をする「官邸」に対して、総理の日常生活を行う住まいを「公邸」と呼んでいます。
現在の公邸は、昭和4(1929)年に竣工された旧官邸を曳家・改修したもので、平成17年(2005年)より公邸として使用されています。主要部分は鉄筋コンクリート2階建て、本館延べ面積は約1568坪。
大正12(1923)年9月1日、関東大震災で中央省庁の建物が深刻な被害を受けたことから、政府は「中央諸官衙(かんが:官庁のこと)建築計画」を立案し、旧官邸はトップバッターとして新築されることになりました。
旧官邸は、旧帝国ホテル(大正12年7月竣工)を設計したアメリカ人建築家フランク・ロイド・ライトのものとよく混同されますが、実際の設計者は大蔵省営繕管財局工務部技官の下元連(しももとむらじ)。ライトの様式は当時の日本の建築家たちに大きな影響を与えていましたが、下元氏は「ライトの模倣ではない。ライト風です。」と、のちの回顧談で話しています。ただ耐震性は、竣工披露宴の日に震災に遭ってもビクともしなかった旧帝国ホテルなみに考慮されたとのことです。
大ホール〜歴史を彩るアールデコの大ホール〜
大ホール〜歴史を彩るアールデコの大ホール〜
旧官邸の正面玄関ホールを右に曲がると、組閣の記念撮影でおなじみの西階段があります。この階段の脇を抜けた左手に、総理主催の晩餐会や式典、表彰式などが執り行われる大ホールがあります。
広さは322平方メートルで、細かな幾何学的な装飾の壁やアーチ状に優美な曲線を描く天井など、当時流行のアールデコ様式を取り入れた華麗な空間です。
初めて使用されたのは、竣工3か月前の昭和3(1928)年12月、昭和天皇の即位を祝う大礼奉祝夜会です。
この大ホールは、要人を迎える様々な行事にも使われ、イギリスのエリザベス女王や米国大統領など世界のVIPを招いての晩餐会や午餐会等が行われ活発な官邸外交が繰り広げられました。また、現在でも外国の首脳との晩餐会等に使用されています。
また、沖縄返還協定の調印式(昭和46年)や日中平和友好条約の批准書交換式(昭和53年)などの歴史的な式典、更には、国民栄誉賞の授与式、オリンピック・パラリンピック優勝・入賞者の表彰など、さまざまな行事に使われました。
装飾品〜官邸を見守る動物たち〜
装飾品〜官邸を見守る動物たち〜
旧官邸の屋上には、4羽のミミズクがとまって、四方に目を光らせています。旧官邸が建設されてからずっとそこにいますので、まさに官邸の生き証人、といってもこれは石の彫刻です。
ミミズクはローマ神話に登場する知恵と武勇の女神、ミネルバの使いで、知恵の象徴として官邸の役割を表しているともいわれています。また夜行性なので不寝番として総理を守っているという説などもあります。
平成14年に取り壊された旧公邸の屋上にも、少しデザインが違うミミズクが4羽いたことから、いつの間にか官邸のシンボル的な役割を果たすようになりました。
首相官邸ホームページの中でも、官邸の知恵のシンボル、ミミズク博士が登場しています。
屋上のミミズクの他にも、旧官邸の中には動物たちが飾られています。1階の大食堂を出ると、ロビーに3匹の「カエル」が青色のタイルをバックに思い思いに飛び跳ねたりしています。建築当時、カエルの口から水が流れ出るようになっていましたが、普段は、水は流れていません。カエルは、古来、人間生活に近い存在で、田や雨の「守護神」とする地域もありますが、何故、旧官邸にカエルがいるのか、詳しい記録は残っていません。
また、正面玄関の車寄せ階段脇には、「猫」の顔を彫った石が左右に二つずつ置かれています。風化して輪郭がはっきりしてないところがあり、猫と気付かない人もいました。「何でこんなところに猫が?」と訝る人も多いのですが、古代エジプトでは、猫は神聖化されて、猫の目が闇で光るのは、太陽が猫の目を通して下界を見張っているからと言われていました。ひょっとすると、こちらも官邸の「守護神」だったのかもしれません。