VOL.209 NOVEMBER 2025
ENJOYING JAPAN’S MARKETS
長い歴史を誇る商店街の朝市「三八市」
開催日には「三八市」の垂れ幕が掲げられる
Photo: ISHIZAWA Yoji
三重県桑名市の寺町通り商店街は、100年以上の長い歴史を持つ商店街だ。毎月3と8のつく日に開催される朝市「三八市」を紹介する。
三重県北部に位置し、伊勢湾に面する桑名市は愛知県の名古屋駅から急行で約25分の距離にあり、古くからお伊勢参り1の「東の玄関口」として栄えてきた。江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)には、江戸(現在の東京)と京都を結ぶ「東海道」2の宿場町3として発展し、歴史スポットが数多く残る地域だ。街の中心にある桑名駅から海側へと10分ほど歩いて行くと、「三八市」が行われる寺町通り商店街のアーケードが見えてくる。
Photo: ISHIZAWA Yoji
南北約200mに30軒余りの店が軒を連ねる商店街の歴史は大正時代(1912年から1926年)に遡る。桑名市観光協会の渡辺さやかさんによると商店街は、桑名に鉄道が開通し、街が発展した1915年頃に形づくられた。
「寺町通り商店街という名前の由来は、通り沿いにある桑名別院本統寺4をはじめとして周辺にお寺がとても多く、寺院の門前に発展した門前町として栄えてきた歴史があるからです。1910年代に入ると海産物や米の取引で大きくなった桑名の中心地に商店が集まり、徐々に現在の商店街の形になりました。桑名産はまぐりをはじめとした海産物を扱うお店や衣料品店、花屋や和菓子屋など様々なジャンルの店が並び、地域の人々の生活に寄り添ってきました」
Photo: ISHIZAWA Yoji
1953年には、地元の旬の野菜や鮮魚、郷土の特産品を扱う朝市「三八市」が始まり、桑名を代表する朝市として親しまれるようになった。
「三八市は寺町通り商店街で3と8のつく日に開催される朝市です。普段は静かな朝の商店街ですが、この日には周辺からたくさんのお店が集まり、日用品や地元の野菜、加工食品、軽食も販売され、食べ歩きも楽しめます。アーケードがあるため雨天でも開催され、開催の日には大勢の買い物客で賑わいます。代々続く老舗から新しい店まで立ち並び、レトロな雰囲気を残しつつ、少しずつ変化していく街並みと、人々の交流を楽しめる市場です」
常設の店舗に加え、農家が持ち寄る露地野菜5などを扱う出店を含め、70店舗ほどが参加する。洋品店、器屋、駄菓子屋(子ども向けの安価なお菓子を扱う店)、魚屋、八百屋、総菜屋のほか、寺町通りの名にふさわしく、大きな仏壇店(仏具や祭壇を扱う店)も参加する。
Photo: ISHIZAWA Yoji
「朝市を訪れるお客様には地元の方も多く、親子3代で訪れるなど長年商店街に足を運ぶ高齢の方もたくさんいらっしゃる、全体的にのんびりと落ち着いた雰囲気の朝市です」
市場には桑名名物「しぐれ煮」も並ぶ。江戸時代から続く桑名の特産品だ。
「近隣の海岸で採れるあさりやはまぐりなどの貝を醤油と砂糖で甘辛く煮たもので、ごはんのお供や、お酒の肴として親しまれています」
Photo: ISHIZAWA Yoji
朝市は午前8時頃に始まり、正午頃に終了する。朝市を楽しんだ後は、是非桑名市内を散策してみて欲しいと渡辺さんは付け加える。
「桑名は大規模な観光都市ではありませんが、自然や歴史を感じられるコンパクトな街並みで、桑名駅から六華苑6、七里の渡し7跡などの歴史的なスポットを半日程度で巡ることができるのが魅力です。一日を通して街を楽しんでもらえたらうれしいです」
- 1. 伊勢神宮に参詣すること。本来皇室祖先神を祭る神社で、一般の参詣は禁じられていたが、中世以降貴族のみでなく庶民も参詣するようになった。
- 2. 江戸(現在の東京)の日本橋から京都三条大橋に至る主要道路。東海道五十三次と呼ばれる、53か所の宿場町が整備されていた。
- 3. 宿場を中心に街道沿いに発展した町。宿場とは旅人が宿泊し、人や物資を運ぶ拠点を指す。
- 4. 正式名称は、真宗大谷派桑名別院本統寺。桑名御坊とも称される。
- 5. ビニールハウスや温室を使用せずに、野外で栽培した野菜。
- 6. 1912年から1913年に竣工された実業家二代諸戸清六の邸宅。イギリス人建築家、ジョサイア・コンドルが設計した。
- 7. 江戸時代、桑名と名古屋の熱田を結んだ約28kmの舟路で、東海道五十三次の中で唯一の海上交通区間だった。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: ISHIZAWA Yoji