VOL.209 NOVEMBER 2025
ENJOYING JAPAN’S MARKETS
復興を目指す輪島の朝市
出張輪島朝市の様子。
Photo: ISHIZAWA Yoji
石川県輪島市には、歴史と伝統のある輪島朝市がある。2024年の能登半島地震で甚大な被害を受けたが、現在は再建に向けた取組が進められている。その現状や輪島朝市の魅力について、輪島市朝市組合の監事に話を聴いた。
Photo: 出張輪島朝市
石川県輪島市は、日本海に突き出た能登半島北部の港町で、昔から漁業や農業が盛んな地域だ。市の中心にある「朝市通り」と呼ばれる通りを中心に開かれる輪島朝市は、11世紀頃の神社の祭礼の日に境内で行われた物々交換に由来する市が始まりで、千年以上の歴史を持つ。毎朝、路上に約360mにわたって200以上の露店が並び、海産物や野菜、工芸品など様々な品物が売られ、地元の人々や観光客にも人気のスポットであった。しかし、2024年1月1日に起こった能登半島地震、そしてその後に起きた火災により朝市通り周辺の約300棟に及ぶ建物が大きく損傷、焼失してしまった。
「再開への強い思いから、震災が起きてわずか3ヶ月後には、石川県金沢市金石地区で輪島市朝市組合員35名が出店する出張輪島朝市を開き、これが輪島の朝市が復活するきっかけとなりました。被災地での開催は難しいですが、千年続く輪島朝市を自分たちの代で途絶えさせるわけにはいかない、輪島朝市を忘れないでいてもらおうと、出張輪島朝市を開始しました。現在まで250回以上、全国各地で活動を続けています。また、輪島市内のスーパーマーケット内にお店を常設しています」と輪島市朝市組合監事であり、出張輪島朝市の事務局長の橋本 三奈子さんは語る。スーパーマーケット内の常設市では、常設の冷蔵設備がないため鮮魚はないものの、冷蔵冷凍ショーケース1を利用して一夜干しやパックした惣菜を販売するほか、海藻や珍味などの乾物、パンやお菓子や酒、特産品である輪島塗2・漆器や珠洲焼3、帽子やカバンなどの生活雑貨も並んでいる。
Photo: ISHIZAWA Yoji
Photo: ISHIZAWA Yoji
「現在、輪島朝市があった焼失エリアは更地の状態で、復興計画を進めている段階です。以前のような路上での出店ではなく、2,500平方メートルほどの屋根付きの広場で朝市を開催したいと希望を出しています。元々朝市の出店者の高齢化が進み、後継者問題もありました。今まではなかったイベントのできるステージや、飲食物を提供するキッチンカーの導入なども検討しており、新しい出店者も増やし、観光拠点として再生することが期待されています。震災を逆にチャンスであると前向きに捉えて新しい形の市に生まれ変わろうとしています」と輪島朝市の現状を橋本さんは教えてくれた。しかしながら、新しい朝市の拠点で観光客を迎えられるのは早くても3年後になる見込みであるという。
Photo: 出張輪島朝市
「元々海外からのお客様は「ツール・ド・のと4004」という自転車レースや、輪島市漆芸美術館5を目的としたヨーロッパの方が多かったです。新しい拠点で以前は少なかった地元のおいしいものの食べ歩きや、海鮮バーベキューができるようになれば、輪島朝市の方へも足を運んでいただけるようになるのではと期待しています。より多くの国内外の方に楽しんでいただきたいですね」と橋本さん。また、朝市では店主とのコミュニケーションも楽しんで欲しいと話す。
「今はスマートフォンなどに翻訳機能もありますし、お店の方たちも外国の方とも上手にコミュニケーションを取っています。食材をどう調理するとおいしいのかなど、対面でおしゃべりしながら買い物を楽しんで欲しいと思います」
新しい拠点作りに向け、橋本さんをはじめ、朝市の店主たちは前を向き、進んでいる。再生する輪島朝市は、国内外の人々が交流し、地域の魅力を体感できる場として期待されている。
- 1. 冷やしながら商品の陳列ができる冷蔵冷凍機器。
- 2. 輪島塗は石川県輪島市で作られる漆器。市内でしか採れない良質な土を下地に使用することで強度の高い漆器になることが特徴。(参照:日本の伝統的な漆器「輪島塗」に魅せられた人生 | March 2025 | HIGHLIGHTING Japan)
- 3. 石川県珠洲市で作られる焼き物。黒く無釉の素朴な美が特徴。外国の方に人気がある。
- 4. 毎年9月に開催される石川県能登半島を3日間で一周する自転車サイクリング大会。走行距離が400kmを超える。
- 5. 漆文化の発信拠点として1991年に開館した漆芸専門の美術館。
By TANAKA Nozomi
Photo: ISHIZAWA Yoji; Wajima Asaichi Caravan