VOL.209 NOVEMBER 2025
ENJOYING JAPAN’S MARKETS
無病息災を願う冬の市「大館アメッコ市」
「大館アメッコ市」の象徴として、会場入り口に特設される鳥居。
Photo: 大館市
秋田県大館市で毎年2月に行われる「大館アメッコ1市」は、黄色やピンクなど、色とりどりのアメが店先に並ぶ、日本でも珍しいアメ市である。地元の風習から始まり、400年以上の歴史を持つこの市を取材した。
秋田県北部の山間地に位置する大館市は、秋田空港から車で約2時間、青森空港からは約1時間30分の距離にあり、「秋田犬2のふるさと」として知られている。大館市の冬の風物詩として知られているのが「大館アメッコ市」である。街の中心地にある「おおまちハチ公通り」を中心として、毎年2月の第2土曜日とその翌日の2日間にわたり開催され、約90の露店が並び、一口サイズに切った小さなアメ「切りアメ」や、ミズキ3の枝にピンクや緑のアメを飾り付けた「枝アメ」などが販売される。
大館市役所観光課の畠山 朋史さんによれば、毎年この2日間は、県内外から訪れる多くの人で賑わうという。
「大館では、アメッコ市の日にアメを食べると、その年は風邪をひかないと言われています。特に「枝アメ」は、幸運や健康を願って飾るための縁起物として購入される方が多いですね」
Photo: 大館市
アメを食べる風習は、古くから神事に由来すると伝えられている。
「古い記録によると、ミズキの枝(みずみずしい赤い枝ぶりが良いため使われた)にアメをつけ、稲穂の代わりに神前に供えたことから始まったとされています。大館にもこの風習があり、アメを食べることで邪気を払ったと伝えられています。1588年から定期市が行われるようになったので、アメッコ市もこの頃から続いていたと伝えられています。1972年から、現在のようにおおまちハチ公4通り(当時は大町中央通り)で開催されるようになりました」
Photo: 大館市
訪れた客はカラフルなアメが立ち並ぶ店先で足を止め、それぞれ好みの商品を購入する。また、2月の最も寒い季節に行われる市とあって、秋田を代表する郷土料理である温かい「きりたんぽ」5を味わう人も多い。
また、様々な催しも行われる。大館市で最も高い山「田代岳」6に伝わる伝説では、白いひげの神様、「白ひげ大神」が山から下りて来てアメを買い求め、帰る際にその足跡を隠すため吹雪を起こすと言い伝えられており、その大神に扮した一行が通りを練り歩く「白ひげ大神巡行」が特に人気である。
Photo: 大館市
このほかにも餅つきや秋田犬のパレード、郷土芸能獅子舞7、大館曲げわっぱ太鼓8の演奏などなど、朝から夕方まで様々な催し物があり一日楽しむことができる。更に、タイミングが合えば水あめを木の棒に巻きつけた「からみアメ」を無料で振る舞うブースも設けられる。
Photo: 大館市
「大館のアメには家内安全や無病息災の願いが込められています。地元の人たちが大切に守り続けてきた市を、是非現地で体験していただきたいです」
カラフルな枝アメの彩りに加え、白ひげ大神の行列や秋田犬のパレードなどの催し物が冬の町を賑やかに彩る。アメッコ市は、大館の冬を明るく温かな雰囲気で包む特別な市である。
- 1. 飴の方言(地域特有の話し方や呼称)。
- 2. 日本原産の大型犬種。忠実さで知られる。
- 3. ミズキ科の落葉高木。平地から山地まで広く自生し、枝を横に伸ばす。根から水を吸い上げる力が強く、春先に枝を切ると水が滴り落ちることからミズキ(水木)と呼ばれる。
- 4. 「忠犬ハチ公」で知られる秋田犬のオス。大館市で生まれた。その後、東京都渋谷区に住む飼い主に飼われ、飼い主の死後も渋谷駅で帰りを待つ姿が新聞に取り上げられ話題となり、映画や書籍など作品化された。
- 5. 秋田県の郷土料理。炊きたての新米をついて粘りを出し、秋田杉の細い棒に円筒形に成形して炭火で焼いたもの。
きりたんぽ
Photo: 大館市 - 6. 青森・秋田県境をなす世界遺産白神山地の最高峰で、標高1,178.8mの火山。
- 7. 日本の伝統芸能のひとつで、獅子の姿を模した獅子頭をかぶり、舞を踊る儀式や祝祭の演目のこと。参照:威勢のいい「獅子舞」が練り歩く伝統行事 | JANUARY 2025 | HIGHLIGHTING Japan
- 8. 天然秋田杉を用いて作られる大館の伝統的工芸品「曲げわっぱ」の技術を用いて制作された太鼓。
大館曲げわっぱ太鼓
Photo: 大館市
By MOROHASHI Kumiko
Photo: Odate City; PIXTA