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VOL.201 MARCH 2025
Traditional knowledge and skills of sake-making with koji mold in Japan 数々の銘酒を生み出している(なだ)の酒造り

兵庫県の神戸市なだ区から西宮市にかけての大阪湾沿岸部にある五つの地域からなる「なだ五郷ごごう1」エリア
Photo: 灘五郷酒造組合

なだの酒」として数々の銘酒を生み出し、多くの蔵元が集まるエリア「なだ五郷ごごう1は、日本を代表する日本酒の生産地の一つだ。日本酒の生産量が最も多く(令和5年度統計)2、日本酒造りに欠かせない良質な米や水、技術に優れた職人などの条件に恵まれ、酒造りの長い歴史と伝統を有している。その灘五郷の酒造りについて、灘五郷酒造組合の藤井ふじい あつしさんに話を聴いた。

藤井さんは、なだのお酒の味について「きりっとして辛口なことから「おとこざけ」と称されることもあります」と言う。その味を決定づけているのが、原料となる、北にそびえる六甲山3の伏流水「宮水みやみず」だという。

「軟水が多い日本では珍しく、宮水は中硬水のため発酵が早く、灘の酒の力強い味わいを生み出しています」

灘の酒造りは約700年もの歴史を有するが、宮水を仕込み水として使用することで酒質が向上したことも一因となり、灘の酒造りは18世紀頃に飛躍的な発展を遂げたそうだ。


長い歴史を持つきりっとして辛口な灘の酒
Photo: 灘五郷酒造組合

「灘五郷の酒造りが産業として大きく発展したのは18世紀以降といわれています。その背景には、宮水の発見のほかに、この地が水運が発達した地域であったことなどで、お酒の一大消費地である大都市、大阪や江戸(現在の東京)へ船による大量出荷がしやすかったこと、さらに酒の原料となる良質な酒米の産地が近く手に入りやすかったこと、水車を使って一気に大量の米を精米することが可能になったこと、などと多くの条件が重なったことによります。当時、たる廻船かいせんという日本酒の樽を専門に運ぶ大きな船が、近くの灘や神戸、西宮の港から出港し、大量の日本酒を大都市へと輸送していました。当時の最大の都市、江戸のお酒の8割は灘の酒と言われたこともあったそうです。この数百年に及ぶ酒造りの歴史と伝統は今日まで受け継がれ、今でも数々の銘酒を生み出す力となっています」


農閑期に杜氏として各蔵元で働いていた丹波たんば杜氏とうじ(1920年頃の様子)
Photo: 公益財団法人 白鹿記念酒造博物館

その灘の酒造りの製法を確立し、銘酒を生み出すのに欠かせなかった存在が酒造りの技術指導者、丹波たんば杜氏とうじだ。丹波杜氏とは、現在の兵庫県丹波たんば篠山ささやま市の一帯で、春から夏は農作業を行い、秋から冬の酒を仕込む時期になると灘に出稼ぎに来ていた職人集団のことである。

「17世紀から18世紀にかけて生まれた「剣菱けんびし」や「男山おとこやま」などの伊丹いたみの酒4は、丹波杜氏の造り出す銘酒でした。丹波杜氏は何代にもわたり技術を継承し、蔵元の職人にも酒造りの技術を伝えてくれる貴重な人材でした」


六甲山の伏流水の宮水みやみず。発見された場所(兵庫県西宮市久保町)では現在も井戸が保存されている。
Photo: 灘五郷酒造組合

今でも日本最大級の酒どころである灘五郷だが、1995年に起こった阪神・淡路大震災5では多くの蔵元が被害を受け、大きな転換期を迎えたという。

「震災では古い施設が倒壊し、酒造りから離れた蔵元さんもいらっしゃいました。丹波杜氏もかなり減ってしまいましたが、残った蔵元は自社で職人を育てるなど灘の酒造りの継承に尽力しています」


現在も丹波たんば杜氏とうじらによる酒造りをしている灘の蔵元の一例
Photo: 剣菱酒造株式会社

現在、灘五郷酒造組合では、日本酒を多くの人に伝えるべく、海外に向けた積極的なプロモーションや、各蔵元による商品の開発や多様化などに力を入れているという。

「最近では、地元のラグビー競技会場での出店など新しい購買層へのアプローチも行っています。また、「2025年日本国際博覧会」(略称:大阪・関西万博ばんぱく)に向けて地域の酒造りの歴史や文化を伝える活動も計画しています。灘五郷の酒蔵は東西に延びる約12kmの範囲内にコンパクトにまとまっていて、徒歩で散策しながら複数の酒蔵を巡ることも可能です。力強い味わいとキレの良い味が特徴の灘の酒は、食事との相性も抜群です。よく合う料理を聞かれるのですが、お酒はお米が原材料ですから、お米を主食とする料理とはなんでも合いますよ、とお答えしています。和牛ブランドの代表の一つ・神戸牛のステーキにももちろん合いますので、是非現地で一緒にお楽しみいただければと思います」


2024年10月にフランス・パリで行ったプロモーション活動では杜氏の酒造り唄を実演。「酒造り文化」の海外発信にも力を入れている。
Photo: 灘五郷酒造組合
  • 1. 兵庫県西宮市今津いまづから神戸市灘区にかけての沿岸部約12キロメートルの地域の蔵元の名称。東から順に今津いまづごう西宮にしのみやごう魚崎うおざきごう御影みかげごう西郷にしごうという五つのごう(小さな村の集合体を指す)の総称。
  • 2. 清酒の製造状況等について - 国税庁
  • 3. 六甲山(標高931メートル)。兵庫県南東部に広がる六甲連峰の中心の山。
  • 4. 江戸時代(17世紀初頭から19世紀後半半ば)に隆盛を誇った日本酒の産地で、その当時の代表的な銘柄が剣菱と男山。現在の兵庫県伊丹市。
  • 5. 1995年1月17日に発生した地震(兵庫県南部地震)により、神戸市を中心とした阪神地域に被害を及ぼした災害。死者約6400人、家屋全半壊約24万9000棟、家屋全半焼約7100棟で、鉄道・高速道路なども大きな被害を受けた。
By MOROHASHI Kumiko
Photo: Nadagogo Brewers Association; Owned by Hakushika Memorial Museum of Sake; Kenbishi Sake Brewing Co., Ltd.
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