VOL.201 MARCH 2025
Traditional knowledge and skills of sake-making with koji mold in Japan
山形県の風土と手仕事から生まれる酸味や旨味が調和したやわらかな味わいの日本酒
伝統的な酒造りの工程の一例。洗ったお米を蒸している様子。
Photo: 出羽桜酒造株式会社
山形県は東北地方の日本海側に位置し、山々に囲まれた自然豊かな地だ。寒冷な気候や豊富な水源など、酒造りに恵まれた自然資源があり、日本酒造りが盛んな地域である。山形県の日本酒は酸味や旨味が調和したやわらかな味わいが特徴だという。酒造りについて、蔵元1に話を聴いた。
山形県東部の天童市にある蔵元・出羽桜酒造の代表取締役社長である仲野 益美さんは、長年山形県で日本酒づくりに尽力してきた人物だ。
Photo: 出羽桜酒造株式会社
「山形県には標高1500メートル以上の山々が33峰もあり、その山々にある豊富な水源に恵まれていますので、水に困ることはまずありません。また、私どもの会社がある天童市の村山地域は盆地です。盆地は、夏は日中の温度が高いため、原材料となるお米を育てやすく、逆に冬は冷えるため、低温発酵に有利で雑菌の増殖を抑えることができるという、お酒づくりに非常に適した風土環境だと思います」
こうした自然環境から生まれる山形の日本酒はやわらかくて透明感のある酒質を持つ。中でも純米酒2や吟醸酒3は酸味や旨味が調和したやわらかな味わいが特徴と評される。
そして日本酒づくりにとって何より大切なのは酒造りに従事する職人、杜氏4や蔵人5らなどの「人」の手作業だと仲野さんは考えている。洗米処理やこうじ6造り、発酵といった日本酒を造る工程はもちろん、それらを運搬する際にも、丁寧に手作業で行うことに重きをおいている。
Photo: 出羽桜酒造株式会社
「ワインはブドウそのもので味に違いが出るとよく言われますが、日本酒は醸造工程の技術で大きく変わる、人的要因が非常に大きいアルコール飲料です。当社をはじめ山形の酒造りでは徹底的に手仕事にこだわり、機械化をせずに手をかける製法を採用している酒蔵が多いですね」
人の手をできる限りかけるということは、工程を実感として「振り返る」ことにつながり、人も育つし、結果的には品質の向上にもつながると仲野さんは考える。
「原料の米は、蒸した後、こうじを入れる麹室までは人がかついで運びます。かついだ時の重さや感触で、工程を振り返ることができる。それがその人の経験になり、自信や誇りになる。ひいては製品のより良い品質や会社への信頼につながると考えているのです」
さらに、山形県の酒造りは技術をオープンにする文化があり、出羽桜酒造でもこれまでに22名もの研修生を受け入れてきた。お互いの情報を共有して切磋琢磨することで品質を高め合ってきたのだ。結果、山形県の酒蔵は、全国新酒鑑評会7で常にベスト5に入るほど評価が高い日本酒を生み出している。
「山形の酒蔵は日本でも有数の技術を有しており、その一つの証明として、全国でも県単位という広い範囲で初めてGI認定8を受けました」
山形の日本酒は、国内総出荷量は日本国内で12位だが、高付加価値商品(特定名称酒)の生産比率が高く、純米吟醸酒9は3位、吟醸酒は5位を誇る。そのため、世界でも評価が高いという。
「日本酒を世界のアルコール飲料として確立させたいという思いから、当社では1997年から日本酒の輸出を開始し、現在35か国に輸出しています。当初はアメリカなどでは冷酒で飲む習慣があまりなかったので、こちらが冷酒をおすすめするとその芳醇な香りや味わいの奥行き、フルーティーな喉越しに驚かれるかたが多かったですね」
山形を訪れた際には、ぜひ日本酒と地元の食材の組み合わせを味わって欲しいという仲野さん。
Photo: 出羽桜酒造株式会社
「山菜やキノコ類とも合いますし、山形県の名物である芋煮10との相性も良く、県民の8割が地元の日本酒を飲んでいます」
また、出羽桜酒造の蔵元では酒蔵の見学ツアーを随時開催しており、英語での説明対応も可能であり、その場で試飲も楽しめる。
Photo: 出羽桜酒造株式会社
「ぜひ足をお運びいただいて、酒蔵の風土や考えかたを感じてもらって、私どものお酒を味わっていただけたらと思います」
- 1. 酒蔵や酒造会社の経営者や、酒蔵そのものを指す。
- 2. 米・米こうじ・水のみで造られた日本酒。醸造アルコールを添加せず、米のうまみやコクが強調される。
- 3. 精米歩合が60%以下の白米を原料として使用し、通常よりも低い温度で長時間発酵させる「吟醸造り」製法で造られたお酒。
- 4. 酒を醸造する職人の呼称。技術指導を行い、酒造りの総責任者の場合もある。
- 5. 杜氏のもとで酒造りを担う職人のこと。
- 6. 米・麦・大豆などを蒸し、室の中にねかせてコウジカビを繁殖させたもの。酒・醤油・みりんなどの醸造に用いる。
- 7. 1911年から現在まで開催されている、全国規模で新酒の出来栄えを競い合うお酒のコンテスト。
- 8. GI(地理的表示 Geographical Indication)は、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度。山形県は、「GI」の指定を2016年に国税庁から受けた。
- 9. (純米吟醸酒)吟醸酒(3参照)のうち、醸造アルコールを添加せず、米・米こうじ・水のみで造られた日本酒。
- 10. 主にサトイモを使った山形県の郷土料理。
Photo: Dewazakura Sake Brewery Co., Ltd