VOL.200 FEBRUARY 2025
HISTORIC JAPANESE PUBLIC ARCHITECTURE OF THE MODERN ERA
世界最大級の木造建築:大阪・関西万博会場の「大屋根リング」
大屋根の外観イメージ
©Expo 2025
2025年4月から開催される「2025年日本国際博覧会」1(略称:大阪・関西万博)の会場には、シンボルとなる「大屋根リング」(以下「大屋根」)と呼ばれる建築物がある。世界最大級の木造建築物となるこの大屋根について、設計を担当した建築家に話を聴いた。
©Expo 2025
2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)は2025年4月13日から10月13日までの約半年間、大阪府大阪市此花区の夢洲にて開催される。木造建築である大屋根は、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を象徴し、注目が集まっている。1周約2キロメートルのリング状の建物で、建築面積約6万平方メートル、高さ12メートルから22メートル、内径約615メートル、幅30メートルという巨大な建造物が木造であるということでも話題だ。万博会場のデザインプロデューサーで、大屋根のデザインを担当した、建築家の藤本 壮介さんは語る。
「万博全体のコンセプトを作成する際、「多様でありながらひとつ」というコンセプトを考え、提案しながら会場デザインを作り上げていきました。世界各国の人たちが半年間ともに過ごす尊さ、多様な世界が繋がる場所、子どもや若者が世界と出会いそこから生まれる未来、大阪・関西・日本としてのブランドを世界に発信、といった万博が掲げるこれらの意義とメッセージを実感し、多くの人たちの記憶の中に刻まれていく会場コンセプトを作成しました。そして、大屋根は来場者を迎え入れるシンボリックなゲートとなり、訪れるかたにその意義とメッセージを体感して欲しいという思いを込めています」。
万博会場にて、この大屋根はどのような役割があるのかを藤本さんに聴いた。
「大屋根の下(グラウンドウォーク)はもちろん、その屋上もスカイウォークと名付け、人々が自由に行き交う「回遊路」となります。混雑を回避するための主要動線であり、雨風や日差しから人々を守る役目、サインなども含めたナビゲーションシステム、その先に何があるのだろうと好奇心を掻き立てる回遊路です。スカイウォークからは、夕日に照らされる穏やかな瀬戸内海の海や大阪、神戸の街並みを見渡すことができます。そこから、天を仰げば、きれいに切り取られた一つの空が見えます。この空を多様性あふれる世界中の誰もが共有していることを、感じて欲しいと思います。これら無数の機能を統合して、皆の記憶に残り、今回の万博を特徴づける強いアイデンティティを生み出す会場風景にしたいと考えています」と語る。
©Expo 2025
日本には1000年以上の歴史を経た木造建築物が多く残っており、世界に誇れる伝統工法がある。この伝統工法の技術を応用しながらも、金属のピースと組み合わせることで現代の耐震基準や、その巨大な規模相応の安全基準をクリアした最先端の木造建築であることも特徴だ。
「私たちは、京都の清水寺で使われている懸造2という伝統的な工法をもととして、さらに先端技術を取り入れた工法を採用しました。これからの時代の木造建築の姿を見せることは、日本が木造建築で世界をリードする国であることを示すことにつながると期待しています。そして、このリングを見たあとに奈良や京都を訪れてもらえると、この伝統が現代に息づいているのを感じてもらえると思います」と藤本さんは話す。
4月13日から10月13日までの大阪・関西万博の会期中、実際にこの雄大な大屋根を歩き、さまざまな国の文化が交わる場、万博の魅力や意義を満喫してみてはいかがだろうか。
©Expo 2025
- 1. 1970年にアジア初の開催となった大阪万博、2005年愛・地球博に続き、20年ぶり日本で開催される国際博覧会。
- 2. 日本の伝統的な工法。主に寺社建築で用いられている。急斜面や崖に張りだして寺院などを建てる技法、またはその工法によって建てられた建築。懸造は、一般に床下は柱に貫(補強材の一種で、柱と柱をつなぐ横木)を縦横に通して堅く結び、柱上に土台を置いて、さらにその上に建物本体を建てる。格子状に組まれた木材が互いに支え合って衝撃を分散し、高い耐久性を保つ。
By TANAKA Nozomi
Photo: Expo 2025