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- 2025年9月8日
エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、自社創製の新規選択的オレキシン2受容体作動薬E2086について、ナルコレプシータイプ1の当事者様に対して日中の覚醒度の改善を示した臨床第Ib相101試験(NCT06462404)結果の最新データを、9月5日から10日までシンガポールで開催中の世界睡眠学会(World Sleep 2025)において発表したことをお知らせします。本データでは、E2086の1日1回投与により、ナルコレプシータイプ1の当事者様における日中の覚醒度を改善する可能性が示唆されました。
<臨床試験デザイン>
本試験は、ナルコレプシータイプ1の診断基準を満たす当事者様を対象に、E2086の有効性、安全性、忍容性をプラセボおよび既存治療薬(モダフィニル)と比較して評価することを目的とした、ランダム化、二重盲検、単回投与、多重クロスオーバー臨床第Ib相試験であり、米国およびカナダで実施されました。本試験には21名の当事者様が参加し、19名が試験を完了しました。参加者は、5種類の治験薬(E2086 5 mg、10 mg、25 mg、プラセボ、またはモダフィニル)の全てについて、それぞれ起床直後に単回投与を受け、有効性評価を行いました。有効性評価は、日中の過度の眠気(Excessive Daytime Sleepiness: EDS)に対する覚醒維持テスト(Maintenance of Wakefulness Test: MWT)*1による客観評価に加え、各MWT終了時に改訂版カロリンスカ眠気尺度(Modified Karolinska Sleepiness Scale: 改訂版KSS)*2を用いた主観的評価を行いました。
<臨床試験結果>
MWTにおいて、E2086の全ての用量において、プラセボおよびモダフィニルと比較して、覚醒を維持する能力を測定する指標である睡眠潜時*3の統計学的に有意な延長が認められました(プラセボに対しては全用量でP<0.0001、モダフィニルに対してはE2086 5 mg: P=0.0009、E2086 10 mgおよび25 mg: P<0.0001)(下図)。また、改訂版KSSにおいても、E2086は全ての用量において、プラセボと比較して統計学的に有意な改善を示し(P<0.0001)、E2086 10mgおよび25 mgは、モダフィニルとの比較においても統計学的に有意な改善を示しました(P<0.0001)。これらの結果によりE2086のProof of Mechanismが確認されました。
治験薬投与後に発現した有害事象(Treatment Emergent Adverse Effect:TEAE)の発現率は用量依存的に増加する傾向を認めました。E2086投与において最も多く認められたTEAE(上位4つ)は、頻尿(E2086 5mg: 14.3%、10mg: 23.8%、25 mg: 52.4%)、吐き気(同14.3%、19.0%、47.6%)、めまい(同4.8%、23.8%、38.1%)、排尿切迫感(同9.5%、19.0%、38.1%)でした。また、TEAEにより中止した症例はなく、ほとんどのTEAEは軽度から中等度であり、重篤なTEAEは認められませんでした。
エーザイのチーフ サイエンティフィック オフィサーである井戸克俊Ph.D.は、「当社はWorld Sleep 2025において、E2086がナルコレプシータイプ1の当事者様の日中の覚醒度を改善する可能性を示唆するデータを発表しました。ナルコレプシーは、日中の過度の眠気だけでなく、カタプレキシー(情動脱力発作)や入眠・覚醒時の幻覚、睡眠麻痺などの症状を伴い、当事者様のQOLを著しく低下させるアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。本試験から得られた有効性および安全性に関する知見は、ナルコレプシー当事者様に対するE2086のさらなる検討を行うことを勇気づけるものです」と述べています。
オレキシンは、睡眠と覚醒の調節において重要な役割を果たす神経伝達物質です。オレキシン作動性神経の働きを抑制することで、覚醒状態から睡眠への自然な移行を促進する一方、オレキシン作動性神経を活性化することで、より安定した覚醒状態の維持が可能になると考えられています。当社は、オレキシン作動性神経抑制の観点から、オレキシン受容体拮抗作用を持つ不眠症治療薬「デエビゴ®」(一般名:レンボレキサント)を開発し、世界25カ国以上で販売しています。さらに、「デエビゴ」の開発を通じて獲得した当社のオレキシンプラットフォームを活用し、オレキシン作動性神経を活性化するオレキシン受容体作動薬としてのE2086を創製しました。当社は「デエビゴ」に加えて、E2086の開発を通じて、睡眠障害の皆様に広く貢献することをめざしてまいります。
*1覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test: MWT)は、眠気を催しやすい環境下で、どれだけ覚醒を維持できるかを客観的に評価する検査です。検査は、光を遮った静かな検査室で、1日に4回、40分ずつのセッションを2時間間隔で行い、眠りに入るまでの時間(睡眠潜時)を脳波で測定します。
*2改訂版カロリンスカ眠気尺度(Modified Karolinska Sleepiness Scale, 改訂版KSS)は、現在の眠気の強さを「1 非常にはっきりと目覚めている」から「10 非常に眠い、常に眠ってしまう状態」の10段階で主観的に評価するための簡易的な尺度です。
*3睡眠潜時は、入眠までの時間です。
<参考資料>
1. E2086について
E2086は、当社創製の新規低分子化合物で、選択的オレキシン2受容体作動薬です。前臨床試験において、覚醒時間の統計学的に有意な増加およびカタプレキシー発作率の有意な減少が示されています。オレキシン欠乏症のある方は、ナルコレプシータイプ1の当事者様で見られるように、オレキシン作動性ニューロンの消失および脳脊髄液(CSF)中のオレキシン濃度の低下を伴い、日中の過度の眠気(EDS)を示します。E2086は、オレキシン受容体の活性を高めることによって当事者様の症状を改善することが期待されています。
2. ナルコレプシーについて
ナルコレプシーは慢性的な睡眠障害であり、EDSを特徴としています。疲労、認知機能の問題、治療後も残存する症状などにより、疾患負担は大きいとされています1。ナルコレプシーは、カタプレキシー(情動脱力発作)を伴うタイプ1と、伴わないタイプ2の2つに分類されます。
参考文献
- 1. Maski. K, et.al. Listening to the Patient Voice in Narcolepsy: Diagnostic Delay, Disease Burden, and Treatment Efficacy. J. Clinical Sleep Medicine. 2017, 13 (3) p419-, https://jcsm.aasm.org/doi/pdf/10.5664/jcsm.6494