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[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]
「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(以下PFI法)の成立以降、PFI事業は着実に増大しており、既に120件あまりの案件の実施方針が発表され、このうち20件程度についてはサービス供給が始まっている(1)。日本経団連は、国及び地方公共団体と民間事業者との責任分担を明確化し、収益性を確保すると共に、公共側の民間事業者に対する関与を必要最小限度にすることで民間事業者の技術・経営資源ならびに創意工夫を発揮させ、国民に良質なサービスを提供するというPFI法の基本理念(2)を高く評価している。すなわち、PFIの推進は (1)公共サービスの質の向上と社会資本の効率的な整備、(2)民間の事業領域の拡大と経済活性化、(3)小さな政府の実現、(4)行財政改革の推進などに資すると確信している。
しかしながら、実際のPFI事業においてその基本理念を十分に発揮する上では以下のような課題も指摘されている。
日本経団連では、2002年6月に「PFIの推進に関する第二次提言」を発表し、PFI事業を推進する上での諸問題について改善を求めている。この度、同提言を補完しPFI事業の更なる推進を図るべく、以下の諸論点についてPFI法(ならびにPFI基本方針、各種ガイドライン)の見直しという観点から再度提言する次第である。なお、PFI法付則第2条は、「政府は、この法律の施行の日から5年以内に、この法律に基づく特定事業の実施状況(民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃又は緩和の状況を含む。)について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と定めている。PFI法は1999年9月に施行されているため、2004年度中にその見直しが行われるものと解される。PFI法の見直しを通じて、「民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃または緩和を速やかに推進」(PFI法第17条)するよう期待している。
これまで行われてきたPFI事業の多くは、専ら施設等の建設および維持・管理を主眼とするものであり、この分野においては、プロジェクトファイナンスの導入、契約主義の浸透といった一定の成果が生まれつつある。そこで今後は、公共サービスの更なる充実や民間の事業領域拡大といった観点から、公共サービスの提供を主眼とするPFI、既存の施設を整備・活用して公共サービスを提供するPFIについても、民間のノウハウを活用することで運営効率が向上すると認められる場合は積極的に採用していくべきである。
この点、PFI法第1条は、「この法律は民間資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の建設、維持管理および運営の促進を図るための措置を講ずること等により・・・社会資本を整備し、もって国民経済の発展に寄与」と定めている。よって、施設等の建設を伴わず公共サービスの提供を主眼とする案件や、既存の施設にハイテク機材等を導入してサービスを提供する案件等がPFI法の適用対象となるのか否か明確ではない(1)。確かに、「PFI基本方針」において「公共サービス」という文言が多用されていることに鑑みれば、かかる案件もPFI法の適用対象に含まれると解するのが自然であろう。現に「八尾市立病院維持管理・運営事業」(2)のように公共サービス提供を主眼とするPFI事業も存在している。しかし「公共施設等の建設」、「社会資本を整備し」といったPFI法の文言に鑑みると、施設の建設を伴わないPFIは望ましくないという解釈の余地も否定できない。そこで、公共サービスの提供を主眼とするPFI、既存の施設を整備・活用して公共サービスを提供するPFIが明示的にPFI法の適用対象となるよう、PFI法第1条の文言を「公共サービスの提供ならびに公共施設等の建設、整備、維持管理及び運営」に修正すべきである。加えて、PFI法第2条1項の「公共施設等」の定義に「ハコモノ」に付随する機材等が含まれる旨明示すべきである。具体的には、第2条1項6号を新設し、「1−5号の公共施設等に付随する機材等」は全て「公共施設等」とみなす旨文言を加えるといった措置が望まれる。
PFI事業において民間の最新技術や創意工夫を最大限発揮できるようにするためには、公共側が施設等の仕様について詳細に規定(仕様発注(1))するのではなく、性能発注(2)を行うことが重要である。性能発注によって民間事業者側の裁量の余地が拡大する以上、同時に民間事業者に期待されているノウハウ、創意工夫等について公共側が明確なコンセプトを提示することが不可欠となる。PFI法第5条2項は実施方針に掲げる事項を列記しているが、「事業のコンセプト」、「求められる創意工夫」についても実施方針に具体的に明記するよう定めるべきである。
民間事業者によるPFIの発案は、PFI法第3条に定める「民間の創意工夫」を具現化する手段の一つである(3)。しかしながら、PFI基本方針一4(2)は、民間事業者発案のPFI事業に関して、管理者等が発案した場合と同じ手続に基づいて実施方針を策定する旨定めるのみで民間事業者に事業の発案を促すインセンティブについては言及していない。PFI事業の発案には調査・立案段階で多大な費用がかかるため、何らかのインセンティブがない限り、民間事業者としては発案しにくいのが実情である。よって、PFI基本方針を改正し、民間事業者発案のPFIに関しては手続の透明性を大前提に、競争性を損なわない範囲で当該発案者にインセンティブを与えるような実施方針を策定するよう明記すべきである。同時に、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」1−2に発案者に対するインセンティブの具体例を列記すべきである。なお、インセンティブとしては、(1)発案者に他の事業者が挑戦する形の入札方式の採用、(2)入札において発案者に一定の「持ち点」を与える措置、(3)発案に要した費用の一部補填等が考えられよう。
PFI事業のライフサイクルコストについては、「要求水準書」(5)の求めるサービス水準の維持及び施設の品質保全に必要なコストを全て算入する。これに対して、PSCの算定に際しては、修繕・更新費用等の将来発生し得るコストが低く見積もられることがあり、結果としてVFMが不当に低くなる恐れがある。「VFMに関するガイドライン」二2はPSCの算定方法について記載しているが、VFMの検証に際して、PFI事業のライフサイクルコストとPSCの比較が「同一のサービス水準」に基づいて行われるよう、PSC算定の際にも「要求水準書」が求めるサービス水準の維持及び施設の品質保全に必要な全てのコストを含めるよう明記すべきである。
日本経団連では「PFIの推進に関する第二次提言」において、事業者選定における多段階選抜、入札前手続の必要性について訴えてきた(1)。その結果、以下の点が関係省庁間の申し合わせとして発表されるに至った(2)。
これら申合せ事項については、制度上の位置付けを明確にする必要があり(3)、当面の措置として多段階選抜、入札前協議が可能であるという点について、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」に明記すべきである。なお、多段階選抜について、第一段階で実質的に3〜4社に絞込みが行われるよう、公共施設等の管理者等は設定する審査基準の内容等について、十分に配慮・工夫することが望まれる。また、落札後の契約書案等の変更に関し、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4-1(10)<6>は、「あらかじめ明示された事項や軽微な事項を除き、契約事項について、変更できないことに留意する必要がある」としているが、「競争条件の根本的な変更とならない限り、必要に応じて変更可能」という書きぶりに改めるべきである。その上で、将来的には、調達手続をめぐる国際的な動向、わが国におけるPFI事業の普及度合い等を踏まえ、多段階選抜、入札前協議、落札後の契約書案等の変更について、法律ないしは政令レベルで位置付けるべきである。
民間事業者にとっては、入札書類作成の段階で公共側が想定している事業の予算規模を把握できることが重要である。想定されている予算規模を把握できないまま提案し、結果として予定価格(4)をオーバーして失格となった場合、提案準備のための費用等が無駄となってしまう。特にPFI事業の提案には、性能発注にもとづく施設の設計や長期のサービス提供に関する事項が含まれており、そのとりまとめには多大な手間と費用がかかる。また、想定されている予算規模が把握できないと、予定価格をオーバーすることを恐れて過度なコスト引き下げが行なわれ、かえってPFI事業の質の低下をまねく可能性も否定できない。
PFI法第7条は、「民間事業者を公募の方法等により選定する」と定めるのみで、その具体的方法については言及していない。事業の予算規模を念頭に置いた入札書類の作成が可能となるよう、PFI法7条乃至は「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4−1に新たな項目を設置し、PSC・VFMならびにその算定根拠の公表について明記すべきである。なお、地方公共団体や国土交通省所轄の特殊法人の事業については予定価格が公表されている場合もあり(5)、この点に鑑みても事業の予算規模が把握できるよう適切な措置を採ることが重要であるといえよう。
そもそもPFI事業によって提供される公共サービスや施設は、その基本理念に基づき、品質が重視され、民間の創意工夫を十分活かす余地があることが重要である。よって、民間事業者の選定に際しても、評価項目のうち、「価格」の要素が過度に重視されるあまり、品質や創意工夫がないがしろにされることは問題である。この点、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4-1(3)<1>は民間事業者選定に際しての評価項目、評価基準、配点等を明示するよう定めているが、価格以外の要素に十分配慮するよう明記すべきである。さらに進んで、入札に際して
(1) 価格点+非価格点によって事業者を選定する「加算方式」を採用し、非価格点の配点を高くすること
(2)「除算方式」を採用する場合、非価格点(基礎点+加点)/価格のうち加点分の配点を高くすること
等を推奨する旨、同ガイドラインに具体的に記載すべきである。
補助金、税制上の措置、地代支払の有無によって民間事業者のコスト見積が大きく左右され、入札価格の算定に影響する。民間事業者間の公平かつ公正な競争条件を確保すべく、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4-1(3)に、補助金、税制上の措置、地代等に関する適切な前提条件を設定し、客観的に入札価格を評価する旨明記すべきである。
民間事業者の選定に際しては、審査プロセスの透明性確保、特に入札参加者に対する説明義務の徹底が必要である。「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4-2(3)は選定されなかった応募者への非選定理由の説明が必要としているが、評価に対する疑義受付や第三者による調停の可能性についても言及すべきである。また、運用上の問題ではあるが、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」4-1(11)に定められている審査委員会委員の選定についても、各分野において実務経験豊富な人材を確保の上公表するよう徹底する必要がある。
PFI事業は公共事業の一形態であり、従来型の公共事業方式で整備される公共施設とのイコールフッティングの確保を基本とすべきである。税制上の措置についても、この官民イコールフッティングや事業方式の選択にあたっての中立性を確保する必要がある。とりわけ、PFI事業の特性に則した税制措置の未整備により、対象となる公共サービスの内容・属性にふさわしい事業方式の選択を歪めることのないよう、税制上の措置を講じる必要がある。
BOT方式の場合、BTO方式の場合には課されない固定資産税、都市計画税が課される。これは課税の中立性の観点から問題であるのみならず、民間の創意工夫が発揮し易いBOT方式の方が税制上不利になるため、結果としてVFMが低く算出されてしまうという事態を招きかねない(1)。PFI法第16条は、基本方針および実施方針に照らして必要な税制上の措置を講ずる旨定めるに止まっているが、同条を改正し課税の中立性を確保し、事業形態によって税制上の措置に差異が生じてはならない旨の文言を追加すべきである。地方税法第6条は、公益上その他の理由で課税が不適切とする場合は課税しない旨定めており、課税の中立性確保の観点からBOT方式の事業について固定資産税・都市計画税を減免することはその趣旨にも合致するといえよう。
(1)事業期間に応じた減価償却制度の導入
PFIの事業期間は「減価償却資産の耐用年数に関する省令」に定められている減価償却期間より短いことが多い。このため、サービス購入型のBOT方式の場合、事業期間終了時の残存簿価相当分を回収するためには租税法上の減価償却額を超えたサービス料を徴収する必要がある。減価償却額を超えたサービス料は見かけ上「利益」であるため法人税が課される。その結果、課税分がサービス料に転嫁され、公共側(国以外の場合)の負担増となるためVFMの最大化が実現できない。そこで、PFI法第16条を改正し「減価償却資産の耐用年数に関する省令」の年数に関らず事業期間内での減価償却を可能とする旨の特例条項を設けるべきである。
(2)大規模修繕費用に対する非課税措置の導入
数年または10数年ごとに発生する大規模修繕費や更新費についても、毎年のサービス料に分割・前倒しされて支払われるケースが多い。現行制度では、PFI事業に係る修繕積立金が認められていないため、(1)と同様に前倒しで受け取るサービス料部分が見かけ上の利益となり、法人税の課税対象となる。この結果、公共側(国以外の場合)はこの課税分について負担増を強いられる。PFI法第16条を改正し修繕積立準備金制度に関する条項を設けるべきである。
なお現在、BOT方式であっても (1)賃貸借契約があること、(2)契約解除ができないこと、(3)公共が実質的な受益者であること、(4)公共が費用の実質的な負担者であること、(5)事業期間終了後の無償譲渡を条件に引渡時点で売買があったとみなし、法人税賦課が回避できるよう措置されている(2)。しかし、SPCと公共側の間に賃貸借契約がないものは対象外とされている(3)、付帯民間収益施設がある場合その取扱いが不明確であるといった問題が残されており、抜本的な対応が必要である。
PFI事業に対する税務処理について、その取扱いや解釈が事業の公募時点において必ずしも明確化されていない場合が多い。税務処理上の取扱いは民間事業者がPFI事業への参加を検討する際のコスト見積を大きく左右し、ひいては入札価格に影響する。民間事業者間の公平・公正な競争条件の確保を図るとともに、税務処理に関して民間事業者に過度なリスクを負わすことのないよう、事業の公募の段階で公共側は前提となる税務処理を確定しておく必要がある。この点、PFI法第16条を改正し、税務処理上の取扱いについて民間事業者を公募する時点までに確定させる旨の条項を設けるべきである(4)。
公共施設等の運営に民間事業者の創意工夫をより発揮し易いBOT方式の事業に対して補助金の交付が認められないことが多い(1)。とりわけ介護・教育サービス事業等については補助金の交付が認められないものとされている。確かに、憲法89条は「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し」補助金交付を禁じている。しかし、BOT方式であっても公共側が実施方針を出している以上、「公の支配に属しない」というのはあまりにも杓子定規な解釈であると考える。BOT方式・BTO方式に係らず補助金の交付が可能となるよう、補助金交付要綱等の見直しを行い、必要な法的措置を採るべきである(2)。
PFI事業に対する補助金交付の有無について、事業の公募時点において必ずしも明確化されていない場合が多い。補助金交付の有無は民間事業者がPFI事業への参加を検討する際のコスト見積を大きく左右し、ひいては入札価格に影響する。民間事業者間の公平・公正な競争条件の確保を図るとともに、補助金に関するリスクを民間事業者に負わすことのないよう、事業の公募の段階で公共側は補助金に関する事項を確定しておく必要がある。この点、PFI法第16条を改正し、補助金交付の有無について民間事業者を公募する時点までに確定させる旨の条項を設けるべきである(3)。
PFI法第11条の2は、行政財産たる土地を当該選定事業者に貸し付けることができるとしている(第2項、第4項)。換言すれば、当該選定事業者のみが借地権を取得できるため、PFI事業に付帯する民間収益部分を第三者に転売することが不可能である(1)。付帯民間収益施設が当初の目的を達成していれば、その所有者が誰であろうと基本的に問題ない(2)。民間事業者による投下資本の回収や事業形態の多角化を促進する観点から、PFI法第11条の2を改正し、当該選定事業者以外への行政財産たる土地の貸付を認めることで民間収益施設の第三者への転売を可能とすべきである(3)。また、公共所有地のうちPFIによる公共施設の建設で余った土地についても分筆して当該PFI事業者に売却し、一定の条件の下で住宅分譲や業務施設の売却といった純粋に民間収益目的に活用できるスキーム(4)を導入することも事業形態の多角化に貢献すると考える。
PFI法第11条の2は、選定事業終了後においても選定事業者が引き続き付帯民間収益部分を所有し続けようとする場合においては、引き続き土地を貸し付けることができるとしている(第3項)。しかし、「選定事業終了」が事業契約解除時を含むのか否か明らかでない。このため、仮に民間事業者帰責で契約解除になった場合、当該民間事業者は付帯民間収益部分についても借地権を失い、事業の継続が不可能となる恐れがある(5)。そもそも、付帯民間収益部分については公共側の要求事項に反しない限りその運営を妨げる合理性はない(6)。「選定事業終了」の解釈に事業契約解除時も含む旨明確化すべきである。
PFIの事業期間と占用許可期間に不一致がある場合、事業期間中に占用許可期間が終了してしまい事業が頓挫するリスクが皆無とはいえない。確かに、内閣府「公の施設と公物管理に関する研究(中間報告−その2)」では、PFIの事業期間と占用許可期間との不一致が生じた場合について、「公物管理者が更新拒否を行う可能性は事実上限りなくゼロに近い」としているが、融資金融機関等にとって重大なリスクの一要素であることに変わりなく、SPCが資金を調達する上で条件が不利になる可能性がある。各種事業法に定められた占用許可期間に係らずPFI事業期間を通じて占用許可が得られるよう法的措置を要望する(1)。
日本経団連では「PFIの推進に関する第二次提言」において「公の施設」に係る運営を広く民間PFI事業者に開放し、民間事業者の創意工夫を最大限発揮できるよう「公の施設の管理委託者」の範囲を民間PFI事業者にも拡大するよう要望した(2)。この点に関し、地方自治法244条の改正によって指定管理者制度が導入され、民間事業者も公物管理責任者たることが可能となった。しかし、指定管理者について、公共側は「適当でないと認めるときはその指定を取り消し、業務の全部または一部の停止を命ずる」ことができる(地方自治法第244条の2第11項)。よって、条例において「指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項」(地方自治法第244条の2第4項)を詳細に定め(3)、公共側と民間事業者側の権利義務を明確化(4)することが重要である。
PFIの場合、公共サービスの長期提供という観点から、将来生じ得る事項への対処方法は契約上事前に取り決める必要がある。しかし、公共側には、「契約によって将来の議会を拘束できない」という考えの下、PFI契約の解除等に伴う補償支払等は新たな債務負担行為であり、改めて議会の議決を経なくてはならないという考えがある(1)。現に、「契約に関するガイドライン」5-4には、既に議決を得た債務負担の目的、年限、金額を超える支出には新たな議決が必要である旨記されている(2)。しかし、清算行為自体が契約上の支払負担であることに鑑みれば、補償等の契約上当然履行されるべき義務は当初の債務負担行為に含まれると解するのが妥当であり、「契約ガイドライン」上その旨明示すべきである(3)。
PFI事業の安定的継続の観点からは、民間事業者側に債務不履行が発生しても、その事実をもって事業契約等の終了事由とはせず、融資金融機関が、当該プロジェクトを遂行する上で必要な一切の契約上の権利・資産を公共側との協議を経た上で一時的に譲受し、あるいは自らが推薦する第三者に譲渡することで事業の継続を図るStep-inについて契約上明示しておく必要がある。この点については、「PFI基本方針」三2(9)が、選定事業者の破綻に伴い金融機関等第三者が事業の継続を要求する場合について規定しているほか、「契約に関するガイドライン」5-1にもStep-inに関する記載がある(4)。Step-inの取扱いをより明確化すべく、「契約に関するガイドライン」上 (1) あらかじめStep-in時の取扱いを契約上明記しておけば改めて議会の議決を経る必要はない (2) 地位譲渡によって契約上の権利・義務が変更されない限りは代替事業者の入札も不要 である旨明記すべきである。
民間帰責による契約解除に際して、民間事業者が支払う違約金が「違約罰」と位置付けられ、違約金に加えてさらに損害賠償を請求できるとした契約事例が散見される。しかし、不当に高額な違約金は、民間事業者の参入意欲を引き出しVFMを向上させる上でディスインセンティブである。違約金をどのように位置付けるかは、契約段階での当事者間の問題であるが、本件についても一定の指針を示すことが有益と考える。具体的には、「契約に関するガイドライン」5-5において、違約金を予定賠償(民法420条)と位置付け、実損額の請求は違約金の範囲を超えてはならない旨契約上定めることが可能である旨明示すべきである。
「契約に関するガイドライン」5-4は、民間帰責による契約解除時の公共による施設買取対価の支払について、管理者等が一括払か割賦払かを選択し、割賦払の場合は事業期間の残存期間を最長として管理者等が決定するのが通例であるとしている(5)。しかし、契約解除に至った場合、直接協定に基づいた協議によって、融資金融機関等を含む当事者間の合意の下、最適な方法が選択されるのが通例である。この点を踏まえ、「契約に関するガイドライン」5-4をより当事者の合意を強調した表現とすべきである。
国が自らの都合でPFI事業を中断した場合、国側の判断で借地権を取り消すことができるという条項が契約に盛り込まれるケースがある。この場合、PFI事業の中断に伴い入居テナントは立ち退きを迫られることになるが、立ち退きリスクを含んだ物件は商品価値が低くなり収益性の面で問題を生じる可能性がある。本件はあくまでも契約における当事者間の問題であるが、国有地の貸付に関する指針を示した「契約に関するガイドライン」1-8において、合理的な理由なく借地権を制限するような条項が盛り込まれないよう一定の指針を示すべきである。
PFI基本方針四1(6)は「民間資金を多様な手段によって効率的、効果的に活用」できるよう環境整備を図るとしている。しかし、SPCによる株式の処分が管理者等の承認事項とされ、その要件が明確でない場合も散見される。民間資金調達の多様化を図る観点から、「契約に関するガイドライン」別紙「基本協定」4において、株式譲渡について、一定の要件を満たす限り公共側はこれを認める枠組とし、その要件等について取決めた上で契約に盛り込むことができる旨明記すべきである。
現在、独立行政法人によるPFIが多く検討されつつあるが、民間事業者にとっては独立行政法人の信用力を制度的に評価することが困難である。この点、個々の独立行政法人に対する国の支援措置を明確化することで、民間事業者のリスクに対する予見性を高める必要がある。
PFI関連の紛争を迅速かつ専門的な観点から解決すべく、仲裁法の整備の動向を見据えつつ、調停や法的拘束力を有する仲裁が可能な「官民係争フォーラム」(仮称)の設立を検討すべきである。
PFI法附則第2条は同法施行後5年以内の見直しについて定めるが、その後の措置については定めていない。PFI法附則第2条を改正し、数年毎にPFI法の規定ならびに運用の実態に関する見直しを行う旨明記すべきである。
わが国ではPFI法第21条に基づき、PFI推進のための機関として、民間資金等活用事業推進委員会(PFI推進委員会)が設置されている。日本経団連は同委員会が各種ガイドラインを策定し、PFI事業の推進に貢献してきたことを高く評価している。今後PFI法の見直しが行われる際も、強力なイニシアティブを発揮するよう期待する。
加えて、PFI法第21条は、(1)民間事業者は委員会に対して国のPFI事業に関する意見を提出することができる(同3項)、(2)委員会は必要に応じて内閣総理大臣等へ意見具申することができる(同4項)としている。また、(3)内閣総理大臣等はこれら意見を受け取って採った措置について委員会に報告する義務を負っている(同5項)。これまでのところ民間事業者による意見提出は行われていないが、今後国のPFI事業が増大するにつれてその可能性は高くなるといえよう。そこで、PFI法第21条3項-5項を実施するための細則を定めるべきである。特に、委員会が民間事業者から意見を受け取ってから内閣総理大臣等に意見具申をする際の基準・手続ほか、最終的な措置が報告されるまでのタイムフレームについて具体的に定めるべきである。
上述の通り、公共サービスの更なる充実や民間の事業領域拡大といった観点から、今後は施設等の建設を伴わない公共サービスについてもPFI事業として積極的に採用していくべきである。そもそも、PFIの本来の理念は、施設等の建設・整備の有無を問わず良質な公共サービスを幅広く提供することにあるといえる。そこで、本提言のむすびに当って、PFI法の正式名称を「民間資金等の活用による公共サービスの提供の促進に関する法律」に改正し、民間資金の活用による質の高いサービスの提供というPFIの本来の目的を明確にするよう提言する。