Science / 月のサイエンス
月の起源を探る
SLIMでは、月の形成と進化の謎を解く鍵を手に入れたいと考えています。月はジャイアントインパクトで形成されたとする説があります。この場合、月の90%を占めるマントルの組成は、地球のものと似た組成になると考えられます。マントルは月内部の物質であるため、組成を直接調べるにはそれらが運良く月表面に露出している場所へ行く必要があります。
月周回衛星「かぐや」の様々な発見の一つに、月表面にマントル由来と考えられる物質が露出している場所を発見したことがあります。そこで、SLIMでは、クレーター近くのマントル由来と考えられる物質が露出しているクレーター付近にピンポイント着陸して「その場観測」をおこなう計画を立てました。
隕石衝突により掘削されたクレーターの内部や周辺には、他の場所では見ることができない月内部物質が露出したと考えられる場所が存在します。具体的には「カンラン石」と呼ばれるマントル物質と考えられる成分を含む岩があると予測されています。カンラン石は、原始の月がまだ熱を持ち溶けている時に比重が大きく月マントル内部に沈んでしまった物質です(下図)。そのカンラン石を含んだ岩を詳しく調べ、その組成を地球のものと比較することにより、月の形成と進化の謎に迫ります。
SLIMは、月面のカンラン石の組成を調べるために「マルチバンド分光カメラ(Multi-Band Camera:MBC)」を搭載しています(左下の写真はエンジニアリングモデル)。MBCは月面における太陽光の反射光を分光し(虹色のように分け)、それぞれの波長での反射光の強さを調べることでカンラン石の組成を決定することを目指しています。実際、SLIMが月に着陸した後、10種類の岩石や周囲のレゴリスについて750nmから1650nmまでの波長帯を10バンドで撮像することに成功しました。