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はるか昔、天体観測は夜空を見上げることから始まりました。そして技術の進歩とともに天文台の大型望遠鏡へ、さらに現代では電波・赤外線・X線等の電磁波の人工衛星等を用いた観測が行われています。こうした観測技術の発達により、それまで観測が難しかった宇宙線(ニュートリノや電子、陽子・原子核といった宇宙から飛来する粒子)も捉えられるようになりました。
現在、宇宙物理学・素粒子物理学で最も解明が急がれているのは「暗黒物質」に関する問題です。これは観測が困難な仮説上の物質で、その正体は不明です。しかし銀河の回転速度や重力レンズ効果、宇宙背景放射の観測などから、光を出さずに質量のみを持つ未知の物質の存在が予測されています。それらの観測によると宇宙の全質量のうち、観測できるものはわずか5%であり、残りの95%は正体不明の暗黒物質と暗黒エネルギーで占められていることになります。この謎を解く鍵として、宇宙線の観測に注目が集まっています。
[画像:物理学におけるふたつのフロンティア 宇宙の構造や個々の天体現象の総合的理解には素粒子物理学と宇宙物理学の双方の視点が不可欠]
物理学におけるふたつのフロンティア
暗黒物質の存在を確かめるためには、宇宙を飛び交う電磁波はもちろん、宇宙線や高エネルギーガンマ線(紫外線やX線よりもはるかに高いエネルギーを持つ)についても詳細に調べる必要があります。そこで今回のミッションでは、「きぼう」の船外実験プラットフォームに「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置」(CALET)を設置して長期にわたって観測します。
解明を目指しているのは、①高エネルギー宇宙線・ガンマ線の起源と加速のしくみ、②宇宙線が銀河内を伝わるしくみ、③高エネルギー電子、ガンマ線の観測による暗黒物質の正体などです。粒子の生成・消滅という素粒子物理学(または原子核物理)と、粒子の加速・伝播という宇宙物理学のふたつの視点から、宇宙線天文台として高エネルギー宇宙現象・暗黒物質等の解明を目指します。
[画像:「きぼう」船外実験プラットフォームのCALET設置位置]
CALET設置位置
打ち上げられた「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置」(CALET)は、「きぼう」船外実験プラットフォームに設置されます。CALETは、最新の検出・電子技術を用いた「カロリメータ」と呼ばれる装置を搭載し、宇宙を飛び交う粒子のエネルギー量とそれらの粒子の種類や飛来方向を測定します。この装置は気球実験を通じて開発されたもので、非常に高いエネルギーの電子やガンマ線、陽子・原子核成分を高精度で観測できます。またわれわれの銀河の外で、短時間に大量のガンマ線が観測されるガンマ線バーストと呼ばれる現象についても測定するほか、太陽活動の地球環境への影響についても調べます。
高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)
観測は2〜5年にわたって行われ、惑星間空間から銀河系外までの宇宙の広い領域で、高エネルギー宇宙現象の解明を目指します。
この観測によって、宇宙線の発見以来100年を経た現在でも未解明な高エネルギー宇宙線の加速の源やその発生機構に諸説あるガンマ線バーストの解明さらに暗黒物質の探索など、世界に先駆けた新発見が期待されています。