ドラマ「木曽オリオン 」-木曽観測所が舞台に
三戸 洋之(天文学教育研究センター 特任研究員)
撮影リハーサル中の木曽観測所の食堂(モデルはNHKスタッフ)
「それでは,ご紹介させていただきます。今回のドラマで,主役をつとめていただく和久井映見さんです。」2013年10月初旬,早朝より木曽観測所の玄関前に集まった約50名の撮影スタッフの中,助監督の声が鳴り響いて,およそ2週間の撮影が始まった。
本研究科附属天文学教育研究センターの木曽観測所を舞台にした1時間もののドラマ「木曽オリオン」がNHKで制作された。長野県木曽町に住む主婦が,臨時の賄い係として天文台に勤務し,「超新星ショックブレイクアウト」の初観測を狙う若い研究者や天文台の職員達との2週間の交流を通じ,天文学の研究という,今まで知らなかった世界をかいま見るというストーリーである 。ドラマは, 2014年1月22日(水)の22時よりNHKのBSプレミアムで放送された。
事の発端は, 2012年6月の,木曽観測所で行われている研究のひとつ「木曽超新星探査KISS (KIso Supernova Survey) 」開始を知らせるプレスリリースだった。長野県内の報道関係者約20名が集まり,夕方には県内の全放送局でそのニュースが放送された。中でも,とくにNHK長野放送局の方が研究に深い関心をもち,その後も,長野県内のニュース,ドキュメント番組,さらに全国放送でも紹介された。取材の合間には,観測所の所員たちと雑談も交わされるようになっていった。そして, 2013年1月初旬,担当ディレクターから衝撃的な言葉が伝えられた。「木曽観測所がドラマになります」。こちらが現実感を持てないままに,脚本家の岡田惠和さんが訪問し,台本が届き,配役が決まったという知らせが入り,と着々と行程は進んでいった。
今回のドラマの特徴は,木曽観測所という基礎研究を行っている施設が,一般の主婦目線を通してリアリティをもって紹介されたことにある。放送後,とくに女性や若い世代から,「星に興味をもった」,「天文台に行ってみたくなった」などの高い評価が多数寄せられた。いっぽうで,「研究の内容について詳しく語られていなかった」といった感想もいくらか聞かれた。木曽町の方からは「木曽町が星が見える町であることに誇りを感じた」という地元ならではの意見も聞かれた。NHKのディレクターの方からは,「高い反響があり,戸惑っている。再放送の予定を立てているところだ。」という知らせも来た。
ドラマの最後,主人公は,天文台での体験から,基礎研究に対する自分なりの価値を見いだす。ドイツでショウジョウバエの脳神経回路の研究をしている娘に,「すぐにはどうかわからないけど,いつか遠い未来の人間のために役に立つかも知れないわけでしょう」とエールを送る。一般の方が,基礎研究の現場について知る機会は限られている。今回のドラマを通し,多くの方が主人公と同じ目線で天文台の姿をかいま見たことで,広く研究機関と一般社会のつながりが深まっていくのであれば幸いである。最後に,ドラマの制作にご協力いただいたすべての方々にお礼を申し上げる。