第9回理学系研究科諮問会の開催
副研究科長 相原 博昭(物理学専攻 教授)
諮問会の様子
物理学専攻研究室見学の様子。坪野公夫教授(上)と長谷川修司教授(下)による説明。
理学系研究科は, 2001年度から毎年度,自己点検の一環として外部からの有識者を招いた諮問会を開き,研究科の研究・教育活動について,忌憚のないご批判やアドバイスを伺っている。2009年度の諮問会は, 2010年3月8日に開催された。諮問委員は,青野由利氏(毎日新聞社 論説委員),金森博雄氏(カリフォルニア工科大学名誉教授,今回ご欠席),中村桂子氏(JT生命誌研究館長),西山徹氏(味の素株式会社技術特別顧問),坂東昌子氏(愛知大学名誉教授),堀田凱樹氏(大学共同利用機関法人情報・システム研究機構長,諮問会委員長)の各氏である。理学系研究科からの出席者は,山形俊男研究科長,福田裕穂副研究科長,西原寛副研究科長,大越慎一研究科長補佐,常行真司研究科長補佐,茅根創研究科長補佐,横山広美准教授(広報・科学コミュニケーション),平賀勇吉事務長,大木幸夫副事務長,および相原博昭副研究科長である。諮問会における報告・質疑は多岐にわたり,委員からは多くの貴重なご意見をいただいた。ここでは,そのハイライトを紹介する。
今回,委員からとくに多くの意見や懸念が出されたのは,博士人材の育成についてである。教務委員会がとりまとめた「2002-2008年度博士取得者の就職状況」からは,ポスドクのための,より広いキャリア開拓の必要性が明らかである。理学系の各教員は,自らのプロジェクトのためだけでなく,ポスドクが自身のキャリアを確立できるための仕事をさせ,かつ,広い視野をもって,アカデミアだけでなく,民間企業や官庁などでも活躍できるように,ポスドクの能力を伸ばす努力をしているか。博士課程学生が,経済的に自立していない日本の現状は,博士人材に対する社会のイメージに悪い影響を与えている。博士課程学生の最低限の経済的自立が可能になるよう,大学や政府への働きかけを十分にしているか。大学院への進学志望者数の減少に対応して,アカデミアと企業などでの人材需要を考慮して,理学系大学院生の適正数を考える必要があるのではないか。さらに,教員の年齢構成についても見直す時期にきているのではないかなど,きわめて本質的かつ重い指摘がなされた。どれも,すぐに答えが出せるわけではないが,理学系が一丸となって取り組むべき課題である。
男女共同参画については,理学系のイニシャティブによる3名の女性助教の採用が,高い評価を受けたいっぽうで,教員における女性の比率が依然として低いとの指摘を受けた。国際化については,グローバル30プログラムによるサマープログラム(University of Tokyo Research Internship Program)など留学生増加を目指すための積極的な取り組みが高く評価された。と同時に,日本人学生と留学生との間の交流や留学生の日本文化理解促進のための取り組みにも努力すべきという指摘を受けた。さらに,優秀な外国人人材を獲得するために,いっそう積極的に世界の若者(できれば高校生)に働きかけるような新たな仕組みを検討すべきという意見をいただいた。博士人材の質のさらなる向上を目指し,学部3, 4年および大学院においてもリベラルアーツ教育を行ってはどうかという斬新なご提案もいただいた。理学系独自の学生支援室の設置や大学院における副指導教官制導入は,学生が充実した修学,研究生活を送るのに役立つ優れた取り組みであると高く評価していただいた。また,理学系の得意とする広報活動,アウトリーチについては,大学本部の広報との連携の強化や理学系のもつノウハウの本部広報への伝達について,議論があった。さらに,より徹底した環境安全への取り組みや多様な産学連携の試みについても,委員から理学系に対する大きな期待が表明された。
以上のような活発な議論の後,諮問委員は物理学専攻の坪野公夫教授(重力・相対論実験)と長谷川修司教授(表面物理)の研究室を見学された。委員が理学系で行われている研究のレベルの高さに改めて感心されたことは言うまでもない。以上のように,諮問会では,半日という圧縮されたスケジュールの中で,ひじょうに密度の高い議論がなされ,各委員から貴重で重いご意見をいただいた。しっかりと受け止めて,今後に活かしたい。