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研究科共通科目「現代科学史概論」の開講

松浦 充宏(理学系研究科名誉教授,統計数理研究所 特任教授)

2009年度の冬学期の最後に,理学系研究科共通科目「現代科学史概論I」が三日間の集中講義として開講された。これは,大学院教育高度化プログラムの一環として新設された講義で,理学の基礎概念の形成過程を科学史的に理解することを狙いとしている。米国の科学史家クーン(Thomas Kuhn)は,その著書「科学革命の構造」(注)の中で,「科学の通常の発展は新たな知見を既存の体系の上に積み重ねる蓄積的なものであるが,歴史上の真に本質的な発展は,蓄積的なものではなく,革命であった」と述べている。この科学革命(パラダイム・シフト)により,それまでの通常科学は滅び,新しい通常科学が始まる。そうだとすると,科学の世界で生きていこうとする人は,自分の研究の基礎を成す概念がまだ大丈夫なのか,あるいはもう限界に達していて革命を待ち望んでいるのか,冷静に判断する必要がある。今回は,固体地球科学,分子生物学,基礎化学分野の以下の話題が取り上げられた。

  • プレートテクトニクスというパラダイムの形成(松浦充宏)
  • 分子生物学の誕生と生命科学研究の変貌(山本正幸 生物化学専攻教授)
  • 科学史から見た東大理学系での新物質・新プロセス発見:戦略と偶然の成功・失敗(岩澤康裕 理学系研究科名誉教授,電気通信大学教授)

受講者の専門分野はさまざまであったが,これらの講義を通じて,新しい概念が形成される瞬間の煌めき,そして現在どの分野が健康な通常科学の段階にあるのか,どの分野が革命を待ち望んでいるのか,漠然と感じ取ることができたのではないだろうか。

(注)
Kuhn, T., The Structure of Scientific Revolutions, Univ. Chicago Press, 1962(邦訳:科学革命の構造,トーマス・クーン著,中山茂訳,みすず書房,1971)

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