辻雄准教授が日本学士院学術奨励賞受賞
斎藤 毅(数理科学研究科 教授)
辻 雄(つじ たけし)准教授
数学科の辻雄准教授が,p進ホッジ理論とその応用という,専門の整数論の業績に対して,第5回日本学士院学術奨励賞と第5回日本学術振興会賞を受賞されました。日本学術振興会賞は,優れた研究を進めている若手研究者を顕彰する賞ということで,日本学士院学術奨励賞は,さらにその受賞者の中から選ばれるものです。
整数論は,0,1,2,...という,整数の世界の不思議を研究する数学の分野です。というと簡単そうに聞こえるかもしれませんが,それは見かけだけで,実際の難しさとは大きな落差があります。整数論の研究には長い歴史がありますが,最近の著しい発展には,目をみはるものがあります。この発展の源が,約100年前に発見されたp進数の世界です。整数を実数としてだけではなく,2,3,5,...という素数pごとに構成されるp進数の世界で考えることで,整数論が大きく進展してきました。
今回の受賞の対象となった辻さんの業績は,このp進数の世界で,幾何的な対象をとらえる理論を完成したものです。幾何的なまがった図形は,コホモロジーという構成により,線形代数的なまっすぐの対象で,とらえることができます。複素数の世界のホッジ理論というコホモロジー理論と平行した理論が,辻さんの業績により,p進数の世界でも完成したのです。このp進ホッジ理論は,ガロワ理論を介して素朴な整数の世界と直接結びつき,整数論に大きな応用をもたらしています。