オープンキャンパス講演会レポート午後の部
広報誌編集委員会
講演後に設けられたホワイエでの質問と歓談の時間
金星上空100 kmでの光と温度の地図。それを世界で初めてつくったのが,講演者の大月祥子さん(地球惑星科学専攻博士研究員)である。野中勝広報委員長の挨拶につづき,大月さんと地球惑星物理学科について,司会の吉岡和夫さん(地球惑星科学専攻博士1年)より紹介があり,大月さんの明るく元気あふれる講演が始まった。
金星は美の女神ヴィーナスの名をもつ地球にもっとも近い惑星で,大きさや密度が地球と同程度であるため「地球の双子星」と呼ばれてきた。1960年代の探査機による観測が始まると,金星が地球環境と大きく異なることがわかってきた。金星大気のほとんどが二酸化炭素であり,温室効果のため地表付近は460°C,90気圧という過酷な環境である。上空は濃硫酸の雲に厚く覆われ,自転周期が公転周期とほぼ同じであるため地面はゆっくりとしか回転していないにもかかわらず,雲は新幹線の速度ほどで回転している(スーパーローテーション)。どうしてこれほど強い風が吹くのかについては金星最大の謎とのことである。 大月さんは,金星の雲よりずっと高いところで大気中の分子が光る現象,「大気光」を赤外線で観測している。
そしてその赤外線を波長ごとの成分に分ける「分光」という手法を用いて,そのスペクトル(波長ごとの明るさを示したもの)を分析した結果,金星の上空の温度は,地表が460°Cと高温であるのに対し,-90〜-40°Cと低温であることがわかった。観測に使うのはハワイ・マウナケア山頂にあるNASAの赤外望遠鏡(IRTF)。観測のため現地には何度も赴いている。標高4,205 mの山頂は空気が薄く,技術職員の方に望遠鏡を金星に向けてもらうのも,酸欠のため"Please Venus."という短い言葉を発するのがやっとであったという逸話もあった。2010年頃,日本の金星探査機が打ち上げられる予定で,今後ますます金星大気の謎の解明が期待されるということだ。
今年5月に行われた女子高校生対象のサイエンスカフェでも大月さんはこのテーマで講演している(理学部ニュース2007年7月号P. 4参照)。