統合的気候モデル高度化研究プログラムについて
ここ数年において、国際社会は気候変動対策で大きな進展を見せています。2015年12月には、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2°C未満に抑えることを目標とし、同時に1.5°Cに抑える努力を行うこと、気候変動に対する適応能力を向上させることを掲げた「パリ協定」が採択され、2016年11月4日に発効いたしました。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、2030年に向けた17の目標の一つに気候変動対策が明記されています。また、気候変動に関する最新の科学的知見を評価する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」も、第6次評価報告書の作成に向けて始動しました。
一方、国内においても気候変動対策が進みつつあります。日本政府は、気候変動の影響による被害を最小化あるいは回避し、持続可能な社会を構築するために、2015年11月に「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しています。このように国内外で気候変動対策の必要性が高まる中、将来を見通し、実効的な対策を進めるためには、最先端の科学技術を駆使した気候変動予測の研究が極めて重要です。加えて、その科学技術をもって気候変動外交における我が国のプレゼンス向上と国内の気候変動対策に引き続き貢献していくことも、我が国の政策上必要なことです。
そこで、当省では、気候変動研究の更なる推進とその成果の社会実装に取り組むべく、「気候変動リスク情報創生プログラム」(平成24〜28年度)の成果を発展的に継承しながら、4つの研究領域テーマを連携させた統合的な研究体制を構築し、気候変動メカニズムの解明、気候変動予測モデルの高度化や気候変動がもたらすハザードの研究等に取り組み、高度化させた気候変動予測データセットの整備に挑みます。
プログラム・ディレクターからのメッセージ統合プログラムを始めるにあたって
東京大学 サステイナビリティ学
連携研究機構 特任教授
2017年7月の九州北部豪雨に見られるような集中豪雨が発生するなど、全国各地で時間雨量50ミリを超すような豪雨が観測されています。「地球温暖化が進むにつれて強い雨が増加する」という気候モデルの予測が、現実のものとなってきたように感じます。最近では、2015年の国連サミットで採択された「持続的な開発目標(SDGs)」に見られるように、地球温暖化問題を単独で考えるのではなく、他の目標と連携して包括的に対応することが求められています。日本においても、気候変動に対する適応策の推進が図られており、関係府省庁が密接に連携して必要な施策を推進することが求められています。また、不確実性を伴う気候変動の影響に適切に対応するためには、地球温暖化に関する科学的な知見を充実させることが不可欠です。
地球温暖化に関する科学的な知見を与える重要な分野に、気候モデルによる気候変動の理解、将来予測が存在します。日本は、世界に衝撃を与えた地球シミュレータの開発とともに、それを用いて気候変動の理解と地球温暖化予測の高度化を継続的に進めてきました。この伝統を引き継ぎ、気候モデルをさらに発展させようとするのが、平成29年度から5年間の予定で始まった「統合的気候モデル高度化研究プログラム」です。
地球シミュレータの開発以降、我々の地球温暖化予測に関する科学的知見は大きく深化しました。気候変動には"自然の揺らぎ"の考慮が不可避でありますが、地球温暖化がどれほど寄与したかを算定する手法が新しく開発され、また、雲の扱いなど気候に影響を与える物理過程に関する取り扱いも大きく進展しました。今では、雲をあらわに表現するような気候モデルが、産業や生態系への影響評価など多様な局面で活用されるようになりました。
本研究プログラムでは、気候モデルをさらに発展させ、社会経済シナリオとの連携を図り、具体的な地域での適応計画に気候モデルの知見を反映することを目的としています。この過程で発せられる社会からの問いに対し真摯に取り組むことが、新しいサイエンスの扉を開くことと考えています。今後のご支援・ご鞭撻をお願いいたします。
(2017年10月)
東京大学大気海洋研究所 副所長・教授
ティッピング・エレメント等の解明
気候モデル高度化研究プロジェクトチーム プロジェクト長
国立環境研究所 理事
領域テーマ毎にPO(プログラム・オフィサー)が配置され、研究課題の進捗管理、研究計画の調整等、PDの役割を補佐します。