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「生きている地球」の証し - 動く海底

プレート・テクトニクス

私達が暮らす地球が、生きている惑星と呼ばれる理由。それは、地球内部でマントルが循環し、地表ではたくさんの火山が活動しているためです。地球上の火山活動の多くは、プレート・テクトニクスがあるために起こります。 地球表面の陸だけでなく海底をもおおう固い岩盤は、「プレート」と呼ばれる幾つかのパーツに分かれるれています。プレートは、「海嶺」と呼ばれる海底の大山脈で作られます。海嶺は、全長8万キロにもおよぶ火山列を形成します(図1)。ここで作られたプレートは、地表全体を様々な方向に様々な速度で移動し、「海溝」と呼ばれる深い溝で地球内部へと戻って行ったり、またはヒマラヤのように高くせり上がったりします。私が研究対象としている深度6,000m以上の超深海環境が存在するのも、高さ8,000m級の山々がそびえたつのも、この地球上にプレート・テクトニクスがあるからです。

図1

海嶺の基本的な性質

海嶺は、プレートが動き離れる場所に発生します(図2)。海嶺については、よく「海嶺でプレートを両側に押し出して海底を造る」との印象が生まれがちなのですが、どうやら「プレートが離れていくから、海嶺が出来る」ほうが現実に近いようです。海嶺の気持ちになって事象を観察すると、「プレートが離れて行くから海底に隙間があき、そこへ地球内部物質が上昇してきて埋まって、新しい海底ができる」という、とても受動的なシナリオが見えます。受動的だからこそ、海嶺はプレートと共に動き、時には海溝で沈み込んだりもします。アメリカ西海岸のカリフォルニア州を南北におよそ1,000kmにもわたってつらぬくサンアンドレアス断層は、沈み込んだ海嶺が大陸に影響をもたらしてできた大断層です。海嶺には、「中央海嶺」と呼ばれ太平洋や大西洋など大きな海の底を造るものと、「背弧拡大系」と呼ばれるより小規模なものがあります(図2)。背弧拡大系は海溝で沈み込む別のプレートの影響を受けて活動する海嶺で、中央海嶺よりも短命で不安定です。

図2

海嶺で生まれたばかりの海底の様子

そんな海嶺で、海底はどのようにして作られるのでしょうか。殆どの海嶺では、火山活動によってもたらされる溶岩流が積み重なって新しい海底を作ります。海底の様子は写真で撮ることが出来ないので、海中に音波を送受信する機械を用いて観察します。ここでご紹介するのは、グアム西方沖に広がる「マリアナトラフ(図3)」にある海嶺を観測した結果です。マリアナトラフは背弧拡大系の一つで、とても特徴的な弓形の地形をしています。図4は海嶺で重ねて起こっている火山活動を捉えた画像です。この画像からは、海底火山から噴出したばかりの溶岩流の様子と、複数の断層がさまざまな走向で発達している様子がわかります。この研究の結果、弓形のマリアナトラフでは海嶺から西側に広大な海底が作られているように見えるのに(図3参照)、海嶺のごく近傍では世界中の他の海嶺で普通に見られるごく対称的な海洋底生産があることがわかりました。つまりマリアナトラフで海嶺は、左右同じように海底を生み出すものの、その後、海溝へ向かって位置を変えていたのです。

図3

図4

研究課題は盛り沢山

海嶺研究を概観すると、海底がうまれる場所の研究には一見筋の通った理解が得られたかに見えます。しかし少し細かい事象に目を向けてみると説明出来ない事柄が数多く残されています。ご紹介したマリアナトラフでも、海嶺付近の詳細な火山活動を明らかにしたのは本研究結果が初めてですし、なぜ海嶺が位置を変えるのかはまだ分かりません。生きている地球のより確かな姿を探すべく、これからも世界中の海嶺を対象に、研究を続けて行こうと思います。

より詳しく知りたい人に

  • 1.「深海生物学への招待」 長沼毅著。NHKブックス
    内容は地球科学分野ではありませんが、深海底への興味をかき立てられるとても面白く読みやすい本です。
  • 2.「生きている深海底 海底2万哩地球科学の旅」 小林和男著 。平凡社
    海洋底地球科学の研究内容を網羅しているのに親しみやすいこの本です。 小林先生は現在でも名誉教授として時々海洋研にいらして、研究を続けておられます。
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