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海底に湧くメタンで生きる生物たち

生物がほとんどいない深海に、まるでオアシスのように生物が群がる場所があります。海底からメタンが湧きだすメタン湧水です。そこには、湧いてくるメタンや硫化水素をエネルギー源とする特殊化した生物が生きています。彼らは体内にメタンや硫化水素をエネルギー源とする細菌を共生させて栄養を獲得していたのです。深海の、しかもメタンが噴き出すような極限環境に進出した生物の歴史を見てみましょう。

深海熱水周辺に群がるメタン・硫化水素を利用する生物の発見

深海は、暗黒、低温(約4°C以下)、高圧の、生物にとっては極限環境です。エサ(有機物)もほとんどありません。海の表面で光合成生物によって作られた有機物は、海底に沈んでいく間に、水深200メートルぐらいまででほとんど生物に食べられてしまうため、深海にもたらされる有機物はごくわずかです(数%以下)。そのため、20世紀の中頃までは、深海底は生物のほとんどいない "深海砂漠"が広がっていると考えられていました。ところが、1977年にアメリカの潜水艇アルビン号が、東太平洋のガラパゴス沖水深2,500メートルで、地下のマグマに熱せられて海底から噴出する熱水に群がる、おびただしい数の二枚貝などの生物を発見したのです。驚くべきことに、彼らは、熱水に含まれる硫化水素やメタンを栄養源にして生きていたのです。正確にいうと、硫化水素やメタンをエネルギー源とする化学合成細菌というバクテリアを体内に共生させ、そのバクテリアから栄養をもらっています。彼らの中には、口や消化管さえ捨て去り、共生細菌にだけ頼って生きるものもいます。彼らは、普通の生物にとって猛毒である硫化水素を無毒化させるどころか、エネルギーとして利用していたのです。生物進化のすごさを見せつけられます。

海底湧水周辺のメタンを利用する生物

1977年の熱水性生物の発見以降、似たような生物群集が世界各地の海底熱水に存在する事が明らかになってきました。しばらくして、熱水性生物によく似た生物群集が、熱水が出ていない海溝などからも発見されたのです(図1)。実は、プレートの沈み込む海溝付近には、熱水ではなく、メタンを含む湧水("メタン湧水"と呼ぶ)があったのです。メタン湧水の温度は深海底とほとんど変わらず低いため、冷湧水とも呼ばれています。メタンが海底近くまで上昇してくると、海水中の硫酸と反応して硫化水素が作られます(図2)。もともと熱水から見つかった生物が生きるには、熱水ではなく、熱水と同時に噴出するメタンや硫化水素が重要だったのです。生物にとって猛毒のメタンや硫化水素が湧き出る深海は、それらを栄養源とする彼らにとって、敵(捕食者)もほとんどいない、まさにパラダイスなのかも知れません。私たちが依存する光合成生態系とは別のアナザーワールドが深海底に広がっていることを考えるとワクワクしますね。

図1 沖縄県黒島沖の水深約600メートル付近から発見されたメタン湧水
左:おびただしい数のシンカイヒバリガイ(二枚貝)がメタンを栄養源にして生きています。 右:黒島沖シンカイヒバリガイ群衆の拡大写真。彼らは体内に共生させた細菌から栄養をもらって生きています。体内の共生細菌は、シンカイヒバリガイからメタンや硫化水素、酸素の提供を受けてエネルギー源とし、逆にシンカイヒバリガイに栄養を与えています。

(提供:独立行政法人海洋研究開発機構)

図2 メタン湧水における化学反応と生態系のイメージ図
地下から湧いてきたメタン(CH4)が海底近くで硫酸(SO42-)と反応して、炭酸(CO32-)と硫化水素(H2S)ができます。メタンや硫化水素は化学合成細菌という細菌のエネルギー源となり、炭酸は海水中のカルシウムと結びついて炭酸塩鉱物となり堆積物中に沈殿します。シロウリガイやシンカイヒバリガイなどの特殊な二枚貝は、化学合成細菌を共生させて栄養を得ています。

化石から探るメタンを利用する生物の進化

ところで、このメタンを利用する生物は、猛毒である硫化水素が蔓延する"超"極限環境にいつごろから進出し、進化してきたのでしょうか。その答えを探るには彼らの先祖の化石や、地層に残った過去のメタン湧水の痕跡を探し出す必要があります。彼らの起源を探っていくと、なんと、生命の起源にまでさかのぼります。 35億年前や32億年前の地層から、メタンや硫化水素を利用(もしくは生成)していたと考えられる微生物の化石が発見されています。その後地球上では微生物だけの時代が約6億年前まで続き、約5.4億年前から動物が繁栄し始めました。俗にカンブリア紀の大爆発と呼ばれる生物事変です。このときの動物はメタンを利用していませんでした。それが、約4.2億年前(シルル紀)に二枚貝や腕足(わんそく)類などの生物が、メタン湧水に進出し始めました。そして、今から 約1億年前(白亜紀中頃)に彼らが大繁栄を遂げるのです(図3-5)。現在のメタン湧水に生きる生物の祖先のほとんどが白亜紀に出現したのです。それはなぜでしょうか。白亜紀は北極や南極に氷がない"超"温暖化時代で、プランクトンの種類や量も増えました。メタン湧水に含まれるメタンは、実は海底に降り積もったプランクトンの死骸から作られていることが多いのです。つまり、白亜紀に海底に降り積もったプランクトンの死骸が増えたおかげで、海底から湧くメタンも増えていったのです。その証拠に、プランクトンの死骸から作られる石油も、その多く(約60%)は白亜紀に作られました。どうやら、超温暖化時代のプランクトンの増加がメタン湧水活動を活発化させ、その結果としてメタンを利用する生物が繁栄し、現在の姿になったようです。深海底で繰り広げられるアナザーワールド、実は私たちの住む光合成の世界と密接につながっているのかも知れません。

図3 アメリカサウスダコタ州に広がる白亜紀の地層から顔を出す白亜紀のメタン湧水の痕跡
メタン湧水があった場所の堆積物は炭酸塩岩になるので、メタン湧水の痕跡はこのように地層に残りやすいのです。

図4 サウスダコタ州の白亜紀メタン湧水堆積物の断面
二枚貝化石(断面で白く見えている)が密集しているのがわかります。

図5 北海道夕張市に分布する白亜紀メタン湧水堆積物から発見されたツキガイ(二枚貝)の仲間
共生細菌からもたらされた豊富な栄養によって、長さ20cmを超える巨体になったと考えられます。ツキガイの仲間は、現在のメタン湧水にも広く生息しています。

より詳しく知りたい人に

  • 1.「深海生物学への招待」長沼毅著 NHKブックス
  • 2.「極限環境の生命」D.A.ワートン著 堀越・浜本訳 シュプリンガーフェアラーク東京
  • 3.「潜水調査船が観た深海生物」藤倉克則ほか編著 東海大学出版会
  • 4.「南海トラフの生物と地質」月刊海洋 395号 (2003年5月号) 海洋出版

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