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MECP2重複症候群
(MECP2 Duplication Syndrome)

Gene Reviews著者: , MD, PhD.
日本語訳者: 熊木達郎,黒澤健司(神奈川県立こども医療センター遺伝科)

Gene Reviews 最終更新日:2014年10月9日 日本語訳最終更新日: 2019年7月17日

原文: MECP2 Duplication Syndrome


要約

疾患の特徴

MECP2重複症候群は重度の神経発達障害であり、乳児期の筋緊張低下や精神運動発達の遅れによる重度の知的障害, 言語発達の乏しさ, 進行性の痙縮, 繰り返す呼吸器感染 (〜75%の患者で起こる)、痙攣発作(〜50%)の症状を特徴とする。MECP2重複症候群の浸透率は男児では100%である。MECP2の重複を持つ女児ではときどき関連のある症状を起こすことがあり、重複領域の不活化を阻害するX染色体の異常を持っている場合が多い。全身性の強直間代発作は頻度が高いが、脱力発作と欠神発作が認められることがある。男児の患者の3分の1は歩行を獲得できない。約50%の男児の患者は繰り返す感染や神経学的な退行により25歳までに死亡する。中核症状に加えて、罹患した男児では自閉症や、胃腸機能障害がしばしば認められる。家族間で症状の違いが認められることがあるが、家族内では重症度は一貫していることが多い。

診断・検査

全ての罹患男性患者ではMECP2の重複は0.3〜4Mbか、それ以上が認められ、さまざまな検査により検出することができる。G分染法で検出できる8 Mbより大きなXq28重複(MECP2領域を含む)は罹患男性の5%未満である。

臨床的マネジメント

病変に対する治療:
筋緊張低下、摂食困難、感染、発達と言語の遅れ、痙縮や痙攣を定期的にマネジメントする。

二次的な合併症の予防:
理学療法が関節可動域を保ち、拘縮の予防につながる。

検査:
進行する痙縮や自閉傾向、発語の消失、痙攣発作や抗てんかん薬への反応、感染症、消化管症状を定期的にモニタリングする。

遺伝カウンセリング

MECP2重複症候群はX連鎖性遺伝である。罹患男児の非常に多くはMECP2の重複を保因者の母親から遺伝している。しかし、de novoの症例も報告がある。患者の母親がMECP2の重複をもっている場合、各妊娠でMECP2の重複が受け継がれる確率は50%である。MECP2重複を受け継いだ男児は必ず発症する。女児のほとんどは無症状の保因者になる。MECP2重複症候群が罹患患者で確定していれば、高リスクな妊娠での着床前や出生前診断が可能である。


診断

臨床診断

MECP2の重複(MECP2重複症候群)の男児は以下の症状を呈する。

  • 重度から著明な知的障害(言語獲得が制限される、または認めない。)
  • 早期の筋緊張低下と運動発達遅滞
  • 下肢優位の進行性の痙縮
  • 罹患男性の75%が反復性感染症を持ち、呼吸器感染を繰り返す。
  • 50%の罹患男性が痙攣を認める。
  • その他の特徴として自閉傾向、胃腸機能障害、軽度の顔貌特徴が症例により認められる。

家族内での症状のばらつきが認められることもあるが、家族内では重症度は一定であることが多い。[Van Esch et al 2005, del Gaudio et al 2006, Friez et al 2006].

検査

細胞遺伝学的検査. G分染で検出できるのは8Mbより大きなXq28(MECP2の領域)を含む重複の場合だけである。これらの染色体検査で検出できる大きな重複は、より重症な症状を示す一部の男性(<5%)のみで確認される。[Sanlaville et al 2005]

分子遺伝学的検査

遺伝子

MECP2MECP2重複症候群の主な責任遺伝子として知られている。MECP2の重複が発症機序に主に関わっている。3重複も報告されている。[del Gaudio et al 2006].

表1 MECP2重複症候群の分子遺伝学的検査

遺伝子 検査方法 検査方法ごとの変異検出率
MECP2 欠失/重複 解析1 100%2
細胞遺伝学的解析により細胞遺伝学的に可視化が可能な重複 <5%3
  1. ゲノムDNAのコード領域や隣接イントロン領域の配列解析で容易に検出できない欠失・重複を同定する検査。定量PCR法,ロングレンジPCR法,MLPA法,当該遺伝子や染色体部位の染色体マイクロアレイ解析などを用いる。
  2. 0.3〜4 Mbの重複が罹患患者では100%認められる。[Van Esch et al 2005, del Gaudio et al 2006, Smyk et al 2008, Clayton-Smith et al 2009, Lugtenberg et al 2009] 重複はXq28の染色体部位で起こり、MECP2の全長が含まれる。
  3. Sanlaville et al [2005]

検査手順

発端者の診断確定 診断はマイクロアレイ染色体検査か、定量PCRかMLPAによる定量的方法による。


臨床的特徴

自然経過

おおよそ150例の罹患男性が今までに報告されており、臨床所見はすべての報告で共通している。 [Meins et al 2005, Van Esch et al 2005, del Gaudio et al 2006, Friez et al 2006, Smyk et al 2008, Clayton-Smith et al 2009, Echenne et al 2009, Kirk et al 2009, Lugtenberg et al 2009, Prescott et al 2009, Velinov et al 2009, Breman et al 2011, Sanmann et al 2012, Tang et al 2012].

出生時の計測は頭囲を含めて正常である。生後数週間は、低緊張による哺乳不良が罹患男児では目立つ。MECP2重複症候群の児はかなり筋緊張低下が強く、嚥下障害や胃食道逆流症、成長障害、多量の流涎も認められる。胃管による栄養が必要となる症例もあり、栄養状態の改善と液体による誤嚥を予防する目的で、噴門形成術や胃瘻造設術が将来的に必要となることもある。臨床的に問題となる便秘が、1/3以上の症例で認められる。
軽度の特異顔貌としては短頭、顔面中部後退、大きな耳、低い鼻梁などが認められる。

低緊張の結果、運動発達のマイルストーンは座位と腹這いの獲得がかなり遅れる。歩行はかなり遅れ、失調歩行を示すことがあり、1/3の罹患者は独歩を獲得しない。言語発達はかなり遅れ、罹患者の多く(>70%)は言語を獲得しない。幼児期にいくつかの単語を獲得することはあるが、思春期には言語は消失する。罹患男性の多くは中等度から重度の知的障害を認める。
75%の罹患男性では、小児期に筋緊張低下は痙性に症状が転じる。痙性は下肢に多く認められる。軽度の拘縮が時間をかけて進行する。成人期には車椅子の使用がしばしば必要となる。

けいれんは中央年齢で6歳頃に約50%で発症する。全般性の強直間代発作がもっともよく認められる; 脱力発作と欠神発作の報告もある。電気生理学的な特徴は認めない。治療抵抗性のてんかんを起こすことがある。[Caumes et al 2014].
発症や痙攣の重症度は発語や手の運動機能、歩行の喪失などの神経学的な退行と相関する。

繰り返す呼吸器感染症は、特に頻回な肺炎は75%で補助換気が必要となる。その他の感染のタイプも報告されている。繰り返す感染は致死的となり、およそ50%の患者が25歳以下に死亡する。

頭囲を含めた成長は正常範囲内のことが多い。

その他の疾患と関連して観察される所見は以下の通りである。

  • 脳MRIでの非特異的な神経放射線的な特徴として脳梁の低形成、脳室の拡大、白質の非特異的な異常、小脳の低形成が認められる。[Friez et al 2006, Philippe et al 2013]
  • 自閉的な特徴と、不安、常動的な手の運動、痛みや温度に対する感受性の低下[Peters et al 2013]
  • まだら様の皮膚(網状皮斑)
  • 膀胱の機能低下

ヘテロ接合体の女性

多くのMECP2のヘテロ接合体の女性は、ほとんどか完全なX染色体不活化の偏りが起こり、無症状である。しかし、抑鬱や不安、自閉的な特徴は知的に正常な保因者で報告されている。[Ramocki et al 2009].

最近では、X不活化の偏りを持たない、症状のあるXq28重複の女性が数例報告されている。多くの症例はX染色体と常染色体の不均衡転座か、ゲノムのどこかへの挿入由来である。こうして生じたX染色体は不活化の偏りを受けないため、複雑で重症な表現型となる。de novoかXq28の中間部重複の罹患女性も報告されている。これらの患者では表現型は軽いことが多く、罹患男性よりも幅広い表現型を認める。[Lachlan et al 2004, Sanlaville et al 2005, Makrythanasis et al 2010, Bijlsma et al 2012, Shimada et al 2013, Fieremans et al 2014, Novara et al 2014, Scott Schwoerer et al 2014

遺伝子型と表現型の関連

明かな遺伝子型と表現型の関連は今までは報告がない。しかし、以下のことが報告されている。

・細胞遺伝学的に確認できる大きなXq28重複は成長障害、小頭症、尿路生殖器の異常が認められ、同様の所見はヘテロ接合体の女性でも報告されている。
MECP2のコピー数は重症度と相関を示し、臨床的により重要である。MECP2の領域の3重複ではより重症な表現型となる。 [del Gaudio et al 2006, Tang et al 2012].

浸透率

MECP2重複は男性では完全浸透と考えられている。

病名

非典型Spitz腫瘍は以下のようにも呼ばれてきた。

  • 母斑様悪性黒色腫類似メラノサイト増殖[Njauw et al 2012]
  • BAP1変異非典型真皮内メラノサイト腫瘍[Carbone et al 2015]
  • BAPoma [筆者, 個人見解]

頻度

今までに36家系150名の患者が報告されている。
[Meins et al 2005, Van Esch et al 2005, del Gaudio et al 2006, Friez et al 2006, Smyk et al 2008, Clayton-Smith et al 2009, Echenne et al 2009, Kirk et al 2009, Lugtenberg et al 2009, Prescott et al 2009, Velinov et al 2009, Tang et al 2012, Honda et al 2012, Sanmann et al 2012 ]

MECP2重複症候群の正確な頻度は知られていないが、いくつかの大規模なアレイを用いた研究によると中等度〜重度の知的障害の約1%で認められる。明かなX連鎖遺伝形式およびその他のMECP2重複症候群の所見が認められると、MECP2重複の検出率はより高くなる。


鑑別診断

X連鎖αサラセミア・精神遅滞症候群(ATRX症候群)は頭蓋顔面の独特な特徴, 外性器異常、重度の発達遅滞、低緊張、知的障害、α-サラセミアに続発する軽度から中等度の貧血が認められる。特に、顔貌の特徴が明らかになる前の乳児期早期は重度の筋緊張低下と発達遅滞はMECP2重複症候群の臨床病型と重なるところがある。ATRX症候群はATRX遺伝子の病原性変異によって発症し、遺伝形式もX連鎖である。MECP2重複症候群とATRX症候群は分子遺伝学的検査で容易に区別がつく。


臨床的マネジメント

最初の診断時に続いて行う評価

患者の疾患概要とニーズをより把握するために、次の項目の評価が推奨される。

  • 発達の進行、けいれん、頻回な感染の病歴を把握する。
  • 系統的な神経学的評価と脳波
  • しっかりとした知的レベルの評価と行動問題。
  • 乳児の嚥下困難のための食事法を評価する。
  • 家系内でその他の罹患患者と保因者の女性について評価する(遺伝カウンセリングの項を参照)。
  • 遺伝科医と/または遺伝カウンセラーに相談をする。

病変に対する治療

認知機能障害 言語療法を含め、発達への刺激与えるべきである。
(注) 発達の予後はさまざまであり、個々の患者に応じたカウンセリングが重要である。

痙性四肢麻痺 治療は非特異的である。一般的なガイドラインに沿う。

てんかん 痙攣発作は一般的には標準的な抗てんかん薬への反応が良い。しかし、男性患者では痙攣は標準治療には難治であり、多剤療法が必要になる症例もある。

繰り返す感染症. 感染は呼吸器に特に認められ、適切な抗菌薬で速やかに治療される。すべての予防接種は受けるべきである。誤嚥が起こる時は胃瘻造設を検討するべきである。

胃腸機能障害 摂食困難、胃食道逆流症、嚥下の機能不全と便秘は一般的な受診と治療が必要となる。

二次病変の予防

ストレッチ運動に気を配り、理学療法を行うことで、関節可動域の維持と拘縮予防につながり、歩行可能な時期を延ばすことができる。
呼吸の問題に対する早期の治療が必要である。

サーベイランス

小児期早期から以下の所見をモニタリングするべきである。

  • 発達の進み具合
  • 神経症状、痙性の発症に対する特別な配慮
  • けいれんの発症時期、頻度と抗てんかん薬への反応性
  • 感染の数と種類
  • 自閉的な特徴
  • 胃消化管症状

リスクのある親族の検査

遺伝カウンセリングを目的とする本症の遺伝が想定される家族に対する検査については、遺伝カウンセリングの項を参照。

研究中の治療法

臨床研究に関する情報は、USのClinicalTrials.govとヨーロッパのEU Clinical Trials Registerを参照。(注) 臨床トライアルはまだないであろう。


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

MECP2重複症候群はX連鎖性の遺伝である。

患者家族のリスク

発端者の両親

  • 発端者の父は罹患者ではなく、保因者であることもない。
  • 2人以上の患者がいる家族では、罹患者の母親はMECP2重複保因者であるはずである。
  • 家系解析で発端者が唯一の罹患者である場合、母親はMECP2重複の保因者か、母親は保因者ではなく、発端男性がde novoのMECP2遺伝子変異を持つかである。これまでのところ、単純なMECP2重複(X/Y 構造異常を認めない)のすべての報告されている男性患者は保因者の母親から遺伝している。ごく一部の例外を除き、保因者の母親はX染色体のほとんどか完全な不活化の偏りを認める。
  • 罹患している男児を2名以上産うんだ母親のDNAで変異を認めない場合、生殖細胞系列モザイクが考えられる。(性腺モザイクはまだ報告がないが、結論をつけるには症例数が少ない。) 罹患男性が家族で唯一の場合、母親の保因の状況についていくつかの可能性が考えられる:
    • 罹患男性の母親はさらにその母親からMECP2重複を引き継いだ。
    • 母親がde novo のMECP2変異を持つ。(a) 生殖細胞変異(受胎の時から変異があり、すべての細胞に変異がある。) または (b)生殖細胞系列モザイク(生殖細胞の一部に変異が認められる。

発端者の同胞

  • 兄弟のリスクは母親の保因状況により異なる。
  • 罹患者の母親がMECP2重複を保因していた場合、妊娠毎の子への遺伝の確率は50%である。MECP2重複を遺伝した男性は罹患し、MECP2を重複した女性はヘテロ接合性の保因者となり、重複の不活化が阻害されるX染色体の異常も認めない限りは正常女性と考えられる。
  • 単発例(家族内で単独に起こった)とMECP2重複が母親のリンパ球DNAで同定されなかった場合、兄弟へのリスクは多くの場合は低い。しかし、性腺モザイクの可能性があるため、一般集団よりは頻度が高くなる。

発端者の子

MECP2重複症候群の男性は生殖能力がない。

発端者の他の家族

発端者の母親の叔母はやその他の母方親族はMECP2重複保因者のリスクがあり、罹患男児を産む可能性がある。

保因者診断

リスクのある女性親族の保因者診断では、以下のいずれかが必要となる。(a) 第1にMECP2重複を家族で同定する、あるいは、(b)罹患男性が検査を受けられない場合、分子遺伝学的検査を重複解析により最初に行う。

遺伝カウンセリングに関連した問題

家族計画

  • 遺伝的リスクの決定、保因者かどうかの確定、出生前診断の適応についての議論を行う適切な時期は妊娠前である。
  • 遺伝カウンセリングを適切に行う(こどもへのリスクについてと生殖へのオプションを含める)のが保因者と保因者の可能性がある女性では適切である。

DNAバンキング

DNAバンクはDNA(ほとんどの場合は白血球から抽出したDNA)を将来的な使用のために保管することである。遺伝子や遺伝子変異、病気に対しての検査手法や理解は将来的によりよくなるため、罹患者のDNAの保存を検討するべきである。

出生前診断と着床前診断

MECP2重複が罹患家族で同定された場合、リスクのある児の出生前診断、着床前診断が可能である。


更新履歴

  1. Gene Reviews著者: Hilde Van Esch, MD, PhD.
    日本語訳者:
    熊木達郎,黒澤健司(神奈川県立こども医療センター遺伝科)
    Gene Reviews 最終更新日:2014年10月9日 日本語訳最終更新日: 2019年7月22日. (in present)

原文: MECP2 Duplication Syndrome

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