お手本のない時代に求められる
コンセプト創造の視点とは?

東京理科大学専門職大学院MOT(技術経営専攻)
WEB講義・宮永博史教授
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パイオニアがリーダーであり続けるために

顧客価値コンセプトの一例が、キリンビールの完全ノンアルコールビール、キリンフリーです。以前のノンアルコールビールには、1%未満のアルコールが含まれていました。酒税法上は酒類ではありませんが、「飲んでもクルマを運転できる」とは言えません。そこで、同社は「飲んでも運転できるビール」、つまり度数0.00%の完全ノンアルコールビールの開発をスタートさせました。

斬新な顧客価値コンセプトですが、マネジメントコンセプトとの間では軋轢が生じます。それまで0.00%が実現できなかった理由は、ビールメーカーのコア技術である発酵技術そのものに由来します。発酵プロセスを用いる限り、どうしてもアルコールが混じってしまうのです。

ならば、発酵技術を使わなければいいのですが、それはビールメーカーにとって存在意義を問われるほどの問題です。しかも、発酵させずにビールの味や泡を実現するためには、新しい技術開発が欠かせません。

こうした困難を乗り越えて、同社は完全ノンアルコールビールの開発に成功しました。これには他社も追随し、1つの商品ジャンルが形成されました。ただ、キリンビールの優位は長くは続きませんでした。キリンフリーのコンセプトを包含しながら、「糖質ゼロ・カロリーゼロ」という特徴を付加し、30代女性などの新たな層を取り込む顧客価値コンセプトを創造した、サントリーの創造的模倣戦略が成功したからです。

では、最初にコンセプト創造を成し遂げたパイオニアが、長期的にマーケットリーダーであり続けることはできないでのしょうか。それは難しいことではありますが、不可能ではありません。実際、その困難を克服している企業もあります。

例えば、アップルのiPodです。同社はiPodをヒットさせた後、一定の間隔を置いて小型のiPod mini、iPod nano、iPod touchなどを次々と市場に投入し、さらにiPhoneというスマートフォンまで創り出しました。模倣者が追いつく前に、自ら残された課題を発見し、それを解決する新商品を提供し続けたのです。後発企業は創造的模倣戦略で対抗することができませんでした。

国内の代表例は、ヤマト運輸の宅急便でしょう。もともとメーカーや百貨店など企業向けの物流を担ってきた同社が、C2Cの宅急便サービスを開始したのは1976年。家庭から家庭へと荷物を運ぶサービスなので、いつどの程度の荷物が集まるか分かりません。当初は社員、役員など誰もが反対でしたが、当時の社長である小倉昌男さんは断行しました。

顧客価値コンセプトは素晴らしいのですが、それで本当に利益を上げることができるのか。そこで求められるのは、マネジメントコンセプトの創造。このチャレンジが成功したことは、みなさんがご存じの通りです。

C2Cの小口物流という新市場を開拓した同社が、現在にいたるまで後続企業をリードし続けている理由は、継続的なサービス開発にあります。1983年に開始したスキー宅急便、84年のゴルフ宅急便、88年のクール宅急便などが初期の代表的な新サービスです。

創造的模倣戦略を繰り出すチャレンジャーに差をつけ、リーダーであり続けるためにはアップルやヤマト運輸のような商品開発が欠かせません。画期的な商品を開発するときから二の矢、三の矢を用意しておくことが理想でしょう。

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