「アップル対サムスン」紛争に見る新時代の知財戦略

東京理科大学専門職大学院MIP(知的財産戦略専攻)
WEB講義・藤野仁三教授
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EU当局の動きと知財紛争の第2ラウンド

また、両社の争いの中では独占禁止法に関わる論点も浮上しました。その舞台は欧州、仕掛けたのはアップルの側と見られます。

サムスンは2011年、欧州各国においてアップルを特許侵害で訴えました。ところが、その中の一部特許は欧州での携帯電話標準化の過程で、サムスンがモバイル通信の必須特許として宣言したもの。そこでアップルは、FRANDという条件のもとでサムスンはこれらの特許を他社にライセンス供与することを約束したと主張しています。

FRANDとは「Fair,Reasonable,and Non-Discriminatory)」の略で、公正かつリーズナブル、相手がライバルであっても差別なく提供するということ。サムスンの提示するライセンス価格はこの約束に反して、高すぎるのではないか。こうした独禁法上の疑いにより、欧州委員会が調査に乗り出しました。

独禁法の目的は、自由な競争を確保することです。端的に言えば、値段が下がっている市場は、自由な競争が機能していると判断されます。その意味で、欧州委員会の対応を疑問視する意見もあります。携帯電話の端末価格では、下落の傾向がはっきり見られるからです。独禁法をめぐる議論の着地点はまだ見えませんが、EU当局の動きからも目が離せません。

2011年に幕を開けた知財紛争は、第2ラウンドに入りました。グローバル企業同士のがっぷり四つの戦い、という印象があります。

まず2012年7月に、イギリスでサムスンが勝訴しました。イギリスの裁判所は、デザインは似ているがデザイン特許の侵害にはならないと判決したからです。8月に入ると、韓国で両者痛み分けの判決がでました。しかし米国では、陪審裁判でアップルが勝訴しました。米国ではこれから損害賠償額が決定されることになります。

日本では、サムスン勝訴の判決が8月31日に出ました。東京地裁はサムスンの特許侵害を認めず、アップルの賠償請求を棄却しました。これまでのところ、国により判断は分かれており、予断は許されない状況です。

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