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職場のウェルネスプログラムが役に立たない5つの理由

投資を増やすだけでは、メンタルヘルスは改善しない

2024年12月05日
職場のウェルネスプログラムが役に立たない5つの理由
Westend61/Getty Images
サマリー:大企業の多くが多額の資金を投じて、職場でウェルネスプログラムを提供している。それにもかかわらず、バーンアウト(燃え尽き症候群)やメンタルヘルスのニーズも増すばかりだ。なぜ職場のウェルネスプログラムは、... もっと見るよりよい成果を残せないのか。筆者らは最近の研究の系統的レビューから、この原因の一つは、これらのプログラムが従業員個人に焦点を合わせ、従業員に影響を与えるシステムを軽視していることだと指摘する。 閉じる

職場のウェルネスプログラムが効果を発揮していない

米国の大企業の約85%は、職場でウェルネスプログラムを提供している。それにもかかわらず、プログラムが対処するはずのバーンアウト(燃え尽き症候群)もメンタルヘルスのニーズも増えるばかりだ。世界の企業のウェルネス関連の支出は、2026年には946億ドルを上回ることが予想されている。このように相当な投資額にもかかわらず、期待されるウェルビーイングの改善には至っていない。支出を増やしているのにメンタルヘルスの効果は低下しているというミスマッチから、根本的な疑問が浮かび上がってくる。なぜ職場のウェルビーイングプログラムは、よりよい成果を出せないのか。

筆者らはこの領域における最近の研究の系統的レビューから、ウェルビーイングプログラムがインパクトを欠く理由の一つは、従業員個人に焦点を合わせ、従業員に影響を与えるシステムを軽視していることだと考える。従業員が直面している困難に対処するためには、個人レベルの介入(Iフレーム:ウェルビーイングのアプリ、AIチャットボット、従業員のストレスマネジメント・トレーニングなど)から、より幅広いシステムの介入(Sフレーム:仕事量の管理、リーダーのメンタルヘルス開発トレーニングなど)へと移行することが必須である。

世界保健機関(WHO)の職場のメンタルヘルスのガイドラインや、職場での心理的健康と安全を管理する初のグローバル基準ISO 45003の勧告に沿って、本稿ではIフレームのみの介入の問題点を指摘するとともに、従業員のメンタルヘルスの向上とウェルビーイングの費用対効果の向上を目的として設計された、研究に基づくソリューションを企業に提供したい。

なぜ個人重視のアプローチでは不十分なのか

企業は、瞑想アプリやチャットボット、オンラインセラピーなどのデジタルソリューションを好む傾向がある。これらはオンサイトのソリューションよりも規模の拡大や標準化がはるかに容易で、大きな組織的変更をしなくても利用できるからである。だが筆者らは広範囲にわたる研究の検証を通して、こうしたサービスだけでは従業員のウェルビーイングの悪化に十分対処できない5つの理由を突き止めた。

1. 根本原因を見過ごしている

個人重視のアプローチの重大な欠点の一つは、往々にしてシステムの問題に対処しないことである。その結果、「ケアウォッシング」、つまり見せかけだけのケアの取り組みに終始し、従業員の目には根本原因に組織として取り組んでいないように映る。ケアウォッシングになると、最初から何の取り組みもない場合よりも、従業員の意欲は低下し、メンタルヘルスも悪化する。たとえば、ある従業員が、大きな業務負荷ゆえに過度なストレスを抱えており、切実に助けを求めているとしよう。たとえ、その人が会社の提供するマインドフルネスのアプリを使い、オンラインでセラピストに相談したとしても、仕事量が変わらなければストレスは改善しない。結果的にこの従業員は、サポートされているとは感じず、むしろ絶望するだろう。

バーンアウトについては、英国公衆衛生庁が公表した職場の介入に関するエビデンスのレビューによると、認知行動療法のようなエビデンスに基づく介入を含む個人レベルの対策は、仕事量の管理や職務設計といったバーンアウトのリスクを助長する業務慣行が変わらなければ、十分な効果が出なかった。このことは、従業員のコントロールの及ばない要因に組織側が対処しない限り、セラピーの利用やマインドフルネスのスキルの開発だけではウェルビーイングを改善できないことを示唆している。

2. 偽善的に見える

同様に、メンタルヘルスの悪化の原因は個人的問題ではなく仕事の要求や構造にあると従業員が考えている場合、セルフケアを重視した指導は偽善的と捉えられることがある。ある研究では、仕事量の多い博士課程の学生に、研修センターからセルフケアに励むことを推奨されているかどうかを質問した。学生はそのようなアドバイスを受けると、「いら立ち」(66.7%)、「怒り」(65.4%)、「不安」や「罪悪感」(42%)、「プレッシャー」(38.3%)を感じ、教職員が学生のウェルビーイングを本気で重視しているとは思わないと答えた。それどころか、多くの学生はセルフケアについて教職員が「リップサービスをしているだけ」だと感じ、仕事量が過剰なのにセルフケアに励むよう指導することは「偽善的」だと思っていた。

3. 利用が広がらない

職場が提供するメンタルヘルスのソリューションの大半は、短期カウンセリングや電話相談サービスなどの従業員支援プログラム(EAP)か、マインドフルネスのアプリなどの予防的なテクノロジーソリューションだ。こうした直接的接触の少ないソリューションは、エンゲージメントが非常に低調である。EAPの場合、1980年代に開発されて以来、エンゲージメント率は5〜10%程度に留まっている。メンタルヘルスの問題を恥とする意識やサービスの質の低さも、それに寄与している。

残り: 5924文字 / 全文 : 8010文字
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アンマインド シニアサイエンスリエゾン

アンマインドのシニアサイエンスリエゾン。デジタルヘルスの研究とコミュニケーションの専門家。特に職場のメンタルヘルスを専門とする。博士。

アンマインド ヘッド・オブ・サイエンス

アンマインドのヘッド・オブ・サイエンス。デジタルヘルス担当エグゼクティブで、デジタルヘルス企業の戦略アドバイザー。博士。MBA。

ハーバード・ビジネス・スクール 助教授

ハーバード・ビジネス・スクールの助教授。同校の交渉・組織・市場ユニットに所属。MBAの学生やエグゼクティブを対象に交渉、モチベーション、インセンティブのコースで教鞭を執る。エンゲージメントに対する非金銭的報酬の役割、時間・お金・幸福の間のつながりを中心に研究を行う。著書にTime Smart: How to Reclaim Your Time and Live a Happier Life, Harvard Business Review, 2020.(邦訳『TIME SMART(タイム・スマート)』東洋経済新報社、2021年)がある。

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