サマリー:「やり手幹部ボブ・ライオンズを死に追いやったもの(上)」では、順風満帆の幹部社員ボブ・ライオンズが自殺に追い追まれるまでのプロセス、その原因――遺伝か、肉体上の要因か、家庭の影響か――を、フロイトの精... もっと見る神分析理論を駆使して解明している。しかし一読すれば分かることだが、ライオンズのケースがことさら悲劇的で特異というわけではない。同種の問題が起こることは、企業、産業社会においては珍しいことではない。取締役、中間管理職、スーパーバイザーから平社員にいたるまで、それぞれ職務が引き起こす感情的問題をなんとかこなしていかなければならないのである。本稿は17年前(1963年)に発表された論稿の再録であるが、その内容の今日性とフロイトの精神分析理論は、現在でも変わらぬ有効性を維持していることを示している。 閉じる
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「やり手幹部ボブ・ライオンズを死に追いやったもの(上)」より続く
自我と現実
以上で、3つの勢力(イド衝動、超自我、および環境)についての解説は終わった。これら3勢力が十分にバランスがとれ、均衡を保っていないと人間はスムーズに行動ができない。そこで、バランスを保ち、人間性の中の指揮官的役割を果たす機構が必要となってくる。諸衝動を融合させ、さらに超自我の設定した条件とにらみあわせながら巧みに放出し、さらには環境と対応していく機能である。この種の心理的機能にフロイトは自我という名称をつけた。われわれはとかく自我をひとつの物みたいに考えがちである。実際には、この名称は自己抑制、現実分析などとも関係した人間性における組織的指揮機能を指しているのである。
自我には、記憶、認識、判断、関心、概念的、抽象的思考といった精神機能が含まれている。こうした諸機能が存在するおかげで、人間は外部からの刺激や心理的、生理的データを受け取り、まとめ、解釈し、行動することができるのである。自我は人間の成長にあわせて発展する(ただし、精神的障害のある場合は例外)。自我もまたコンピュータと同様に、情報を要求し、記憶の形で貯蔵する。とりわけ、問題解決に多大の成功をもたらした情報、経験を優先する。何か衝動から合図があると、自我はその合図を制しておいてまず超自我の反応をチェックし、その衝動にもとづく行動をした結果を確認する。衝動は超自我の設定した条件や環境からの要求に合致するように抑制、修正されることもある。恐らく、自我は記憶をたどって、衝動を洗練させた上で放出して成功した過去のケースを探しもとめているのであろう。自我がこれをうまく処理した場合、その人を自我の強い、心理的に成熟した人間と見る。処理が不手際ということになれば、自我が十分に備わっていない未熟者ということになる。自我は常に現実的に行動する。「こういう行動をして長期的にどういう影響があるか」と常に考えながら。
記憶を検索し、反応を組織する過程が、いわゆる思考である。思考とは試験的行動、つまり「試運転」である。思考は意識的よりも、むしろ無意識のうちにすすめられることが多い。思考とは、当人が知っている最も支障のない方法で放出するまで衝動に待ったをかける役目を果たすのである。だからこそ、ある人間が他人との不調和を招くような、衝動的行動に出た場合、周囲は「無思慮な人間」と言うのである。
自我は、現実原則によって行動し、超自我に従順であるために、イド衝動を人間性の矜持を損わせないように抑制、洗練、方向転換させる役目を担っている。自我はその意味で絶えず行動の代価と結果を考慮している。別の言い方をするなら、自我は心理的経済性を考慮しているということになろう。
圧力下にある自我
こうした役割を担っているがため、自我は独自の立場にたっている。自我という心理的機能システムは他のシステム(イドや超自我)間、もしくは心理的システムと環境側の諸勢力間との緩衝材という立場にたつ。したがって、自我は絶えざる圧力の下にある。その統治機能を十二分に発揮するためには、万全の力を備えていなければならぬ。力の源泉はいくつかある――先天的能力、愛情経験、感謝の念などで、これらが一体となって建設的勢力、技術能力の向上をめざし、結果的に自我に環境を支配させ、肉体的健康を保持するための力を付与する。肉体的負傷、疾病(脳腫瘍、衰弱性疾病)になったり、複雑かつ慢性的な感情圧力を制圧するために、エネルギーを使いすぎたりすることで、自我の機能は弱体となる。
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