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特別養護老人ホームは、要介護高齢者が日常生活を送る施設であり、明るく家庭的な雰囲気を有し、地域や家族との結びつきを重視した運営を行うことが求められています。ユニット型個室や多床室といった居室の種別にかかわらず、利用者一人ひとりに寄り添ったケアをすることが重要であると考えられます。実際には、特別養護老人ホームには要介護度が中重度の方が多く入所(居)しており、限られた職員数や環境の中で個別ケアを実践するには、施設の理念を職員で共有し、工夫してケアを行っていくことが必要です。
そのためには、どのように個別ケアを実践していくか、個別ケアの在り方と手法を検討する必要があることから、平成30年度老人保健健康増進等事業「特別養護老人ホームにおける個別ケアの手法開発に関する調査研究」において、施設のケアに関する実態把握等が行われ、その成果が「特別養護老人ホームにおける個別ケアのガイドライン」として取りまとめられています。
以下では、一般社団法人日本ユニットケア推進センターが取りまとめた「特別養護老人ホームにおける個別ケアのガイドライン」に基づき、個別ケアの考え方の概要を解説します。
特別養護老人ホームにおける個別ケアの在り方は、大きく分けて次の3つの観点で整理されます。
A:施設の運営
1施設の理念を共有する
2利用者らしい生活を過ごせる単位(グルーピング)の設定
3適切な配置、勤務の組み方
4組織体制・役割の明確化
5自律した職員の育成
6チームケア(多職種連携)を進める
B:入所(入居)者・利用者の生活面
1利用者の生活リズムの把握
2利用者に合わせた起床・就寝支援
3利用者の尊厳・プライバシーに配慮した排泄支援
4おいしく、楽しい食事支援
5利用者に合わせた入浴支援
6レクリエーション活動や行事で豊かな日常を過ごす
7日常のケアの延長としての看取りの支援
8記録の取り方
C:生活空間、地域とのつながり等
1居心地の良い環境・空間づくり
2利用者と家族の居場所づくり
3地域とのつながりを感じる場をつくる
(考え方)特別養護老人ホームは日常生活を過ごす場所です。まず、入所(入居)前の居宅での暮らしから施設での暮らしが継続できるための支援が必要です。これまでの生活を継続させていく観点から起床・食事・排泄・入浴等といった利用者の日常の暮らしを支援していくには、その人の生活リズムを把握しましょう。
利用者が生活上の行動をいつ、なにを、どのようにしたいのか、何ができるか、1日の暮らしのアセスメントを行います。アセスメントをもとに把握した情報や利用者本人の意向は職員間で共有し、多職種が活用できるようにすることで、連続性のある個別ケアに繋がります。
また、利用者の状態は日々変化するものですから、その人の生活リズムを観察し、小さな変化も捉え、定期的に評価を行うことが必要です。利用者の生活リズムを把握し、適切にケア方針や計画に反映させることで、利用者も職員も安心できる個別ケアを行うことができます。
(考え方)1日は起床から始まり、その後の日中の活動にも影響する重要な日常生活動作です。起床と就寝の支援は、利用者の状態や気持ちを確認することが大切です。就寝時と起床時で職員が入れ替わる場合等は、着実に職員間の連携をとって支援していくことが必要です。
(考え方)日常生活動作の中でも、排泄は個人の尊厳に特に大きく関わります。「自分らしく」生活していく上で、利用者の尊厳・プライバシーに配慮した排泄支援を行っていくことは個別ケアでも重要な視点です。個別ケアでは、集団的な排泄支援ではなく、一人ひとりに合わせて随時に排泄支援を行うことが基本です。排泄データを取っていくことはもちろん、利用者の状態や意向を把握し、気持ちに寄り添った支援を行います。
(考え方)食事は日常生活上の楽しみであり、見た目、味、雰囲気等、食事の環境は利用者の生きるモチベーションや自立度にも影響します。利用者の身体、健康状態に合わせてできる限り本人の好みや意向に沿い、最期まで口で食べられる食事支援をすることが大切です。
(考え方)身体を清潔に保ち、気持ちよく生活していく上で入浴支援は大切な時間です。入浴支援は、要介護度が上がるにつれて、利用者も職員も負担が大きくなるという課題があります。利用者が負担を感じることなく安全で、リラックス、リフレッシュできるよう、支援をしていくことが必要です。
(考え方)利用者の日常生活(食事・排泄・入浴等)以外の生活活動として、レクリエーション活動や行事などがあります。利用者が余暇を楽しみ、豊かな日常を過ごすために、施設の個性や地域性を活かしながら、利用者が楽しく主体的に参加できるレクリエーション活動や行事の在り方を考えていく必要があります。
(考え方)最期のときを迎える場所が特別養護老人ホームであるという利用者も増えてきており、看取り支援を行う施設は多くなっています。また、特別養護老人ホームは医療施設ではないことから、職員間の連携はもちろん、医師との連携も求められています。個別ケアの観点から、看取りは日常生活の延長であることを念頭に、利用者本人、家族とのコミュニケーションをとりながら、環境、体制を整えることが必要です。
(考え方)記録は、情報伝達(チームケア)の手段であり、仕事の成果を表すものです。利用者の1日の暮らしぶりと支援の様子を都度、適切に記録し、求めがあったときには開示できるよう、対応できるようにします。記録は、アセスメントと連動するようにします。
(考え方)施設は、利用者の日常生活を過ごす場所なので、居室や共同生活室等、思い思いの場所で過ごせることが大切です。そのため、施設の各所を「居心地の良い場所」として整備することが必要です。また、利用者の居心地の良い場所は、一人ひとり異なります。利用者が施設内に自分自身の「居場所」を見つけ、自由に過ごすことができるよう、空間づくりや配慮が求められます。
(考え方)入所(入居)後も、利用者と家族に一緒に過ごす時間を持っていただくため、家族が遠慮することなく施設を訪問し、滞在できるようにすることが必要です。
(考え方)入所(入居)後も、利用者のこれまでの地域での暮らしを大切にし、地域との繋がりを感じながら日常生活を過ごすことができるよう、支援していくことが必要です。また、地域の様々な年代・立場の住民の方に施設・利用者と関わりを持っていただくことで、施設が地域での役割を持つことができます。
「特別養護老人ホームにおける個別ケアのガイドライン」は、一般社団法人日本ユニットケア推進センターのホームページ(https://www.unit-care.or.jp/report/ )において公表されています。
このガイドラインにおいては、それぞれの項目における実践のポイントや参考事例も分かりやすく紹介されていますので、各施設におかれましては、個別ケアの実践に向け、このガイドラインを積極的に御活用ください。