月刊 経団連2025年8月号
特集 スタートアップと描く10X10Xの未来
巻頭言
未来を拓き、新たな成長を生み出す宇宙へ
1955年、糸川英夫博士が手掛けた長さ23センチの「ペンシルロケット」から始まり、わが国は長年にわたり世界に伍する宇宙システム技術を培ってきた。これら技術は、安全保障、宇宙空間での新たなインフラ構築や資源開発等の新ビジネスに加え、地球環境保全といった分野でも応用が可能である。地球規模の気候変動や資源枯渇等の課題に対し、宇宙から地球を見つめる視点を入れることで、より効果的な解決策を見いだせる。宇宙は社会課題の解決と新たな価値創造の源泉と捉えることができよう。
特集
スタートアップと描く10X10Xの未来
日本のスタートアップの数と成功のレベルを10倍にするという目標「10X10X」。2022年にこの目標を官民で共有して以降、わが国のスタートアップエコシステムをめぐる状況は大きく前進した。裾野(スタートアップの数)は着実に拡大し、大企業にもスタートアップとの連携はイノベーション創出に不可欠、との考え方が浸透しつつある。
本特集では、2025年5月に開催された「経団連 Startup Summit 2025」における討議の模様を紹介するほか、政府の施策動向、地方企業がグローバル展開している事例、大学を中心としたスタートアップエコシステムの最先端の動向などを取り上げる。
Startup Summit 2025/パネル討議セッション1:Science to Startupの実現・加速に向けて
- 南場 智子 (経団連審議員会副議長、スタートアップ委員長/ディー・エヌ・エー会長)
- 染谷 隆夫 (東京大学執行役、副学長(産学連携、スタートアップ))
- 大西 晋嗣 (九州大学副理事、九大OIP代表取締役)
- ■しかく 日本のスタートアップエコシステムの変化
- 成功のレベルを引き上げる鍵はディープテック
- スタートアップは卒業後のキャリアパスの一つに
- 産学連携組織を外部法人化して集約
- ■しかく 研究成果を社会実装するための取り組み
- 世界中から人材を獲得し、ミックスすることで化学反応を起こす
- 研究者が魅力を感じるジョブ創出で人材を呼び込む
- 様々な国籍・価値観の人が交ざり合う環境作り
- 研究者が双方向で交流する仕組みが重要
- シーズ発掘の早期段階からプッシュ型で支援
- 産学連携組織による一気通貫の支援
- ■しかく 専門性を持つ博士人材が活躍できる社会の実現
- 博士人材をスタートアップエコシステムの架け橋に
- 研究力で勝ち残るには専門性が必須
- 博士人材が活躍できる仕事を創出
- 10X10Xに向けた実績作りを
Startup Summit 2025/パネル討議セッション2:大企業発イノベーションに向けて ─スタートアップフレンドリースコアリングの活用方法を聞く
- 髙橋 誠 (経団連スタートアップ委員長/KDDI会長)
- 和田 茂己 (日本電気Corporate SVP兼 みらい価値共創部門長)
- 鈴木 隆夫 (日本航空執行役員 イノベーション本部長)
- ■しかく スタートアップフレンドリースコアリングの活用法
- スコアリングの結果は重要な指標
- カーブアウトと業務提携の推進がスコアアップに
- CVCとVCMの掛け算で社会課題解決に取り組む
- 大企業の縦割り体制からの脱却で縦の10Xを実現
- ■しかく 直面する課題をどのように乗り越えたか
- 経営層の意識改革が必要
- 成功モデルを横展開して社内の機運醸成へ
- レバレッジを意識しグロース事業とベース事業とを共に育てる
- ■しかく 10X10Xの実現に向けて
「スタートアップ育成5か年計画」後半の取り組み
富原 早夏(経済産業省イノベーション・環境局
イノベーション創出新事業推進課スタートアップ推進室長)
- 転換点を迎えるスタートアップ・エコシステム
- スタートアップが日本経済の進化を牽引
- 3本柱の深化:人材・ネットワーク、資金供給、オープンイノベーション
- ─人材・ネットワークの構築:地方を軸に、日本と世界のエコシステムを双方向に接続
- ─資金供給の強化:ディープテック支援と国内外の大型投資家の呼び込みを強化
- ─オープンイノベーションと調達の推進:大企業とスタートアップの共進化
- 多層的な政策展開で新技術の社会実装と事業成長を支える
- スタートアップは科学技術を社会実装するメカニズム
全国に広がるアントレプレナーシップ教育の現状と展望
―官民連携枠組みによる推進体制
溝田 岳(文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課産業連携推進室長)
- アントレプレナーシップを醸成する教育の必要性
- アントレプレナーシップ推進大使派遣事業の概要
- 産学官連携でアントレプレナーシップ教育を全国に展開
スタートアップがグローバルで勝つために必要な「掛け算」
佐藤 真希子(iSGSインベストメントワークス代表パートナー、XLOCAL取締役)
- 地方には"活かされていない資産"が眠っている
- 地方企業とスタートアップの掛け算を可能にする「人材エンジン」づくり
- 1 人材獲得
─ スタートアップ人材・プロ人材の登用 - 2 DX人材の育成
- 1 人材獲得
- 成長の「設計図」に地方連携を組み込むべき理由
- 「10X10X」は、接続構造のデザインで実現する
─ 日本全体が"塊"となって挑戦すべき
香川発スタートアップとしての挑戦と展望
―行政・大企業との連携、そしてグローバル展開へ
眞部 達也(建ロボテック社長)
- 地域行政との連携によるメリット
- 大企業との連携で留意すべきポイント
- グローバル展開への取り組みと戦略
- 今後に向けて
沖縄科学技術大学院大学(OIST)におけるスタートアップエコシステム形成戦略
北野 宏明(沖縄科学技術大学院大学(OIST)教授)
ギル・グラノットマイヤー(沖縄科学技術大学院大学(OIST)首席副学長
(イノベーション及びアウトリーチ担当))
- 次世代を支援する循環形成の重要性
- 「発見中心」の科学研究と「価値中心」の技術開発の溝を埋めるには
- 研究過程に価値中心アプローチを取り入れる
- エコシステムの中核となるOIST Innovation
- 世界的なハブを目指して
【連載】
スタートアップ連携のベストプラクティスを探る1
スタートアップと世界をつなぐ金融機関に
塚原 伸介(三菱UFJフィナンシャル・グループ スタートアップ戦略部長)
- ■しかく 「MUFGの強みはグループの総合力」
- スタートアップ支援により産業発展・社会課題解決への貢献や顧客基盤の拡充を図る
- スタートアップ戦略部を軸にグループ企業間の相互連携を実現
- スタートアップとの接点を増やす幅広い情報収集網の活用へ
- スタートアップとの協業において持つべきはバリューチェーン構築の視点
- ■しかく 「スタートアップ支援を通じて金融の本質を実感している」
- スコアリングによる取り組みの可視化が企業価値を高めていく契機となる
一般記事
【報告】
三陸の震災・林野火災の被災地を訪ねて
―災害復興特別委員会による被災地視察
冨田 哲郎(経団連審議員会議長、災害復興特別委員長/東日本旅客鉄道相談役)
- 震災の記憶と教訓の継承
- 地域のスマート化
【提言】
巨大地震を見据えた防災・減災対策の充実に向けて
―防災は「日頃から」「ともに」「スマートに」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/039.html
永野 毅(経団連副会長、危機管理・社会基盤強化委員長/東京海上日動火災保険相談役)
安川 健司(経団連審議員会副議長、危機管理・社会基盤強化委員長/アステラス製薬会長)
齋藤 充(経団連危機管理・社会基盤強化委員長/NIPPON EXPRESSホールディングス会長)
- 防災・減災対策の推進に向けた三つの課題
- 「日頃から」防災
- 「ともに」防災
- 「スマートに」防災
- 防災庁への期待
【提言】
2030年に向けたインフラ・交通政策のあり方
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/024.html
菰田 正信(経団連審議員会副議長、都市・住宅政策委員長/三井不動産会長)
髙下 貞二(経団連都市・住宅政策委員長/積水化学工業会長)
大久保 哲夫(経団連都市・住宅政策委員長/三井住友トラストグループ会長)
- 経済社会情勢を踏まえた目指すべき姿
- インフラの維持・整備に向けた施策
- 経済成長に向けたインフラ施策
- 交通政策
- 環境と経済の好循環の創出に向けた施策
【報告】
B7オタワサミットに参加して
―求められるG7の結束
兵頭 誠之(経団連副会長/住友商事会長)
東原 敏昭(経団連審議員会副議長/日立製作所会長)
- B7各団体の意見
- サプライチェーンに関する議論
- B7サミット共同提言
- G7サミットと今後
連載
-
あの時、あの言葉
「有情活理」「動けば明日が見えてくる」
根岸 秋男(経団連社会保障委員長/明治安田生命保険会長) -
Essay「時の調べ」
擦れ合う組織
紀 成道(写真家)