月刊 経団連2025年3月号
特集 「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速
巻頭言
日本のビジョンと魅力を示し、責任ある国際協力の推進を
近年、国際政治経済の世界では、「エコノミック・ステイトクラフト」(国家が戦略的目標のために経済的手段によって他国に影響力を行使すること)への関心や懸念が高まっている。機微技術・情報、エネルギー、希少資源、農水産物など特定品目の関税、輸出入規制、投資規制など、経済安全保障を大義とする国々の動きは、枚挙にいとまがない。
特集
「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速
DXやGXにより加速度的に進展する産業構造の変革や、深刻化する環境問題、地政学的リスクの高まりなど、企業を取り巻く環境は大きくかつ急速に変化している。国内では、少子化に伴う人口減少の加速によって企業環境を取り巻く環境は大きな制約を受けつつある。
こうした中、「デフレからの完全脱却」と付加価値の増大・最大化を通じた「構造的な賃金引上げ」の実現に向けて、2023年と2024年において、多くの企業が約30年ぶりとなる高水準の賃金引上げを2年連続で行った。2025年以降も、この賃金引上げの力強いモメンタムを社会全体に「定着」させるべく、物価動向と「人への投資」の重要性を重視した検討の必要性をより意識しながら、「賃金・処遇決定の大原則」に則り、自社の実情に適した賃金引上げを各企業が積極的に検討し、実施することが求められている。
座談会:「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速
- 大橋 徹二 (経団連審議員会副議長・経営労働政策特別委員長/コマツ会長)
- 遠藤 信博 (経団連副会長/日本電気特別顧問)
- 原 典之 (経団連審議員会副議長/三井住友海上火災保険会長)
- 首藤 若菜 (立教大学経済学部教授)
- ■しかく 生産性の改善・向上に必要な制度整備と支援策
- 多様性を活かした人材育成で価値創造を
- スキルを基軸とした人事制度の構築で社内労働市場を活性化
- エンドユーザーやサプライヤーとの関係構築で新たな価値を生み出す
- 生産性向上により人口減少下でも豊かな社会を実現
- 女性がマネジメント層で活躍できる仕組みづくり
- ■しかく 多様な人材の活躍推進と円滑な労働移動の実現に向けた取り組み
- 魅力的な雇用創出で労働移動を促す
- 採用の多様化を進め活躍の場を広げる
- 多様な経験を持つ高齢者の労働移動と外国人の活用
- コンピテンシーを明示し合い、円滑なマッチングを
- ■しかく 2025年春季労使交渉・協議における基本的な考え方、今後の労使関係
- 社会全体で適正価格に対する意識を醸成
- 賃金引上げと価値創造を同時に実現
- 賃金引上げと株式報酬制度によるトータルな処遇改善
- 価格転嫁を下支えする対策が必要
- 業界が主導し、適正な価格転嫁を推進
2025年版経営労働政策特別委員会報告
―「付加価値最大化」と「人への投資」の好循環の加速
─「賃金・処遇決定の大原則」の徹底─
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/006.html
(経団連労働政策本部)
- ■しかく 生産性の改善・向上に資する「多様な人材」活躍推進と「人への投資」強化
- 付加価値の最大化を通じた生産性の改善・向上
- 「量」と「質」両面からのアプローチ
- 円滑な労働移動の推進
- 地域経済の活性化
- ■しかく 2025年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス
- 「賃金・処遇決定の大原則」に則った積極的な検討と実行
- ベースアップを念頭に置いた検討
- 中小企業と有期雇用等社員の賃金引上げ・処遇改善
- 様々な観点からの「総合的な処遇改善・人材育成」の検討
2025春季生活闘争にあたって
―みんなでつくろう!賃上げがあたりまえの社会
芳野 友子(日本労働組合総連合会会長)
- みんなでつくろう
- 賃上げがあたりまえの社会を
- 2025春季生活闘争に向けて
2025年春季労使交渉・協議に向けて
―秋田の新たな価値創造への挑戦
新谷 明弘(秋田県経営者協会会長、秋田銀行会長)
- 詩の国秋田
- 洋上風力発電事業を通じた脱炭素の取り組み
- 2025年春季労使交渉・協議に向けて
働き方改革から人的資本経営への進化
鶴 光太郎(慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
- 働き方改革による長時間労働の是正
- 人的資本経営への進化の流れ
- 人的資本経営の包括的、体系的推進が鍵
現れつつある人事管理の新モデル
今野 浩一郎(学習院大学名誉教授)
- 「改革の波」の中にある人事管理
- 変化する「社員と企業の関係」
- 社員が「選べる」人事管理
- 「選べる」を経営成果に「つなげる」人事管理
リスキリングには格差拡大という「わな」がある
―協働による包摂
中村 天江(連合総合生活開発研究所主幹研究員)
- リスキリング促進の落とし穴
- 人々を包摂し、共に学ぶ
デジタル時代におけるグローバルものづくり製造業の変革・挑戦
―ダイキン情報技術大学のDX人材育成の取り組み
今井 達也(ダイキン工業役員待遇人事本部人事・労政・労務グループ長)
- ダイキン情報技術大学設立の経緯
- 当社に必要なデジタル人材
- 教育プログラムの概要
- 新入社員向け講座
- 既存社員向け・管理職向け・幹部層向け講座
×ばつデザインで人間の未来を変える
―神山まるごと高専の取り組み
寺田 親弘(神山まるごと高等専門学校理事長)
- 未来の「モノづくり」を拓く場所
- 建学理念と目指す人材像
- カリキュラムの特徴
- (1) テクノロジーとデザインの融合
- (2) プロジェクト型学習と産業界との連携
- (3) 学生主導の活動と自主性
- 産業界への期待
- 未来の「モノづくり」を担う人材を育てる場所
一般記事
【提言】
次期「食料・農業・農村基本計画」に向けた提言
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/088.html
中田 誠司(経団連審議員会副議長、農業活性化委員長/大和証券グループ本社会長)
磯崎 功典(経団連農業活性化委員長/キリンホールディングス会長)
- 急速に変化する内外の諸情勢
- 次期基本計画が目指すべき方向性
- 総合的かつ計画的に講ずべき施策
- (1) 生産基盤の強化(農地・担い手の確保、育成)
- (2) 農産物の高付加価値化(環境への取り組み、知財対応を含む)
- (3) 先端技術とデータの利活用
- (4) フードバリューチェーンの活用と輸送力の強化
- (5) 輸出入の強化
- 提言の実現に向けて
【報告】
日本とタイのさらなる経済関係強化に向けて
―第25回日タイ合同貿易経済委員会を開催
石井 敬太(経団連審議員会副議長、日タイ貿易経済委員長/伊藤忠商事社長)
鈴木 純(経団連日タイ貿易経済委員長/帝人シニア・アドバイザー)
- 日本とタイを取り巻く情勢
- 第25回日タイ合同貿易経済委員会の開催
- 自由で公正な貿易投資の拡大
- 持続可能な社会実現に向けた日タイの協力
- 新たな分野における日タイ協力
連載
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経営者のひととき
太宰府天満宮にて ─神社と現代アート
田中 茂義(経団連海洋開発推進委員長/大成建設会長) -
Essay「時の調べ」
ことばが芽吹く瞬間をとらえる
倉本 さおり(書評家/法政大学大学院兼任講師)