月刊 経団連2018年11月号
特集 働きがい、生産性向上を実現する働き方改革
巻頭言
スポーツの力でバリアフリー社会の実現を
2018年5月26日、横浜アリーナ。アルバルク東京がB. LEAGUE FINAL 2017-18を制し、同シーズンのB. LEAGUEチャンピオンに輝いた。その前身であるトヨタ自動車アルバルク、トヨタ自動車アルバルク東京の顧問を7年間務めた私にとっても、感慨深い日となった。
特集
働きがい、生産性向上を実現する働き方改革
今年6月、時間外労働の上限規制と高度プロフェッショナル制度の導入を柱とする「働き方改革関連法」が通常国会で成立した。働き方改革は、企業にとって単なる長時間労働の是正にとどまるものではない。本格的な労働力人口の減少に対応し、国際競争力を維持・強化していくために、柔軟かつ多様な働き方の推進、職業能力の開発の強化などにより、社員の働きがいを高め、生産性を向上させていく絶好の機会ととらえるべきである。そこで、今回の座談会では、生産性の向上・イノベーションの創出に向けた働き方改革の取り組みと課題について議論する。
座談会:働きがい、生産性向上を実現する働き方改革
- 冨田哲郎 (経団連副会長、労働法規委員長/東日本旅客鉄道会長)
- 松浦民恵 (法政大学キャリアデザイン学部准教授)
- 菊池宏行 (東京石灰工業社長)
- 隅田 貫 (日独産業協会特別顧問)
冨田哲郎(経団連副会長、労働法規委員長/東日本旅客鉄道会長)
経済成長を続け、さまざまな社会課題を解決し、豊かな日本社会を維持・発展させていくためには、働き方改革による生産性向上とイノベーションの創出が不可欠である。働き方改革における経営者の役割は、働く人にとって「幸せな働き方」を提供することである。働き手よし、企業よし、社会よしの「三方よしの働き方改革」を目指し、経団連が推進するSociety 5.0と連動させていく。機械化やシステム化を推進していく一方で、社員の力を引き出し、伸ばし、活かすための仕組みづくりを進める。それが生産性向上の鍵となる。
松浦民恵(法政大学キャリアデザイン学部准教授)
労働力人口が減少する日本において、ダイバーシティとイノベーションが働き方改革のキーワードとなる。各社の取り組みを見ると、働き方改革自体は広がってきたものの、労働時間削減のみが目的化されているケースが目立つ。社員一人ひとりが仕事と仕事以外の時間をどう使うか、自分で考えられる、自己管理できるようにならなければ、根本的な改革にはならない。仕事以外に「やるべきこと・やりたいこと」を見つけることも重要であることから、働き方改革と生活改革は表裏一体だと認識している。働き方改革を進めるうえでは、トップダウンとボトムアップの双方向のアプローチが必要となる。社内で自由に意見を言いやすい環境を経営側が整え、社員側も大局的な視点を持ちながら現実的な提案の声を上げていくことが重要だ。
菊池宏行(東京石灰工業社長)
社員がやりがいを持って良い仕事ができる環境を提供することが、働き方改革における経営者の役割である。社員のマインドを変えていくため、日ごろから仕事の質の向上、効率的に働くことの重要性について社内で理解が深まるよう心がけている。仕事の質、人の質こそが中堅企業の生命線であり、これらが企業の価値につながっていくよう、人事評価においては成果よりもプロセスを重視している。経営者と社員の距離が近いという中堅企業の利点を活かし、コミュニケーションを重視しながら働き方改革に取り組んでいく。
隅田 貫(日独産業協会特別顧問)
日本とドイツの働き方を比較すると、日本人は自律型、ドイツ人は自立型となろう。どちらにも長所はあるが、効率性の面では自立型に軍配が上がる。日本企業は同調圧力が強いため、無駄な「ホウレンソウ」や会議が多すぎる。現在の働き方改革の方向性は間違っていない。取り組みを進めていけば、自立的に仕事をし、自ら自己啓発を行い、創造性を発揮する社員が増えていくだろう。成果よりもプロセスを評価する仕組みがあれば、社員はおのずと会社を好きになる。さらには、そうした会社とビジネスをすることでバリューを得た、とお客様にご満足いただけることになる。
椋田哲史(司会:経団連専務理事)
- ■しかく 企業はどのような働き方改革を目指すべきか、また、どのように進めるべきか
- 「働き手よし、企業よし、社会よし」の働き方改革を目指す
- 社長の仕事は、社員のマインドを変えていくこと
- 「自律型」の日本人と「自立型」のドイツ人
- ダイバーシティとイノベーションを実現するための働き方改革を
- ■しかく 働き方改革をどのように生産性向上、イノベーションに結び付けるのか
- 同調圧力に抑えられている日本人
- 時間の「主」にならなければいけない
- 社員が「やるべき仕事」に集中できる環境づくり
- 社員の力を創造的な仕事に向けることが生産性向上の鍵
- 自分の将来を自分でデザインしてもらいたい
- 仕事の質、人の質の向上が会社の生命線
- 自己啓発が必要なら自分から会社に働きかけるべき
- 仕事以外の時間を自己成長につなげられる人材が必要
- ■しかく 働き方改革の実効性を高めるうえでの政府や経済界の役割は何か
- Society 5.0時代の働き方改革を目指す
- 働き方改革に取り組む企業を顕彰する仕組みが必要
- 日本の働き方のルールを世界展開せよ
- 働き方改革はトップダウンとボトムアップのバランスが大切
働き方改革の推進に向けた経団連の取り組み
中畑英信(経団連労働法規委員会労働法企画部会長/日立製作所代表執行役専務)
中島 功(経団連労働法規委員会労務管理政策部会長/東京ガス専務執行役員)
元松廣議(経団連労働法規委員会労働安全衛生部会長/新日鐵住金参与安全推進部長)
- これまでの活動と会員企業の取り組み状況
- 働き方改革 toward Society 5.0
高度プロフェッショナル制度議論の本質と考え方
倉重公太朗(倉重・近衞・森田法律事務所代表弁護士)
- なぜ高プロが求められるのか
- 高プロの中身
- 高プロの運用における留意点
働き方改革と生産性向上の両立
鶴 光太郎(慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
- 生産性向上を目指した働き方改革のあり方
- 「スマートワーク経営調査」と企業のパフォーマンスの関係
- 高生産性企業の人材活用力
「働き方改革」の先にあるもの
―第4次産業革命と労働法政策
山本陽大(労働政策研究・研修機構(JILPT)副主任研究員(労働法専攻))
- 第4次産業革命による働き方の変化
- 働き方の変化と労働法政策上の課題
- 労使団体の意義と役割
フリーアドレス制などを活用した社員がイキイキと働ける環境整備に向けた取り組み
小田卓也(日本航空執行役員人財本部長)
- トップのコミットメント
- 成功の鍵はトライアルからのスモールスタート
- ワークスタイル変革を進めるにあたって
- さらにイキイキと働ける環境づくりへ
- 実績と今後に向けて
日立の裁量労働勤務制度
筒井亮太(日立製作所人事勤労本部トータルリワード部部長代理)
- 多様で主体的な働き方の実現
- 日立の裁量労働勤務制度
- 今後の取り組み
多様な人財が能力と個性を活かし、いきいきと働くことができる職場環境づくりを目指して
―住友林業の働き方改革
西周純子(住友林業執行役員人事部働きかた支援室長)
- 多様な社員が活躍できる環境の整備
- 働き方改革に向けた具体的取り組み
ヒューリックの働き方改革
―KPIを用いた長時間労働の是正や年次有給休暇取得促進
小林 元(ヒューリック取締役専務執行役員総合企画部長)
- 所定外労働削減に向けた取り組み
- 有給休暇取得率80%を目指して
- 男性・女性問わず、社員が子育てしながら働きやすい環境づくり
広告関係4団体「新しい働き方」円卓会議と広告制作取引「受発注」ガイドライン
伊藤雅俊(日本アドバタイザーズ協会(JAA)理事長)
- 「イコールパートナー」という考え方より生まれた「広告関係4団体円卓会議」
- 「広告制作取引『受発注』ガイドライン」の目的
- 「確認書」による業務内容の合意
- 働き方改善の取り組みは緒に就いたばかり
一般記事
【提言】
農業 先端・成長産業化の未来
―Society 5.0の実現に向けた施策
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/074.html
十倉雅和(経団連副会長、農業活性化委員長/住友化学社長)
佐藤康博(経団連審議員会副議長、農業活性化委員長/みずほフィナンシャルグループ会長)
- 2030年、先端技術を駆使した農業へ
- Society 5.0時代の農業の姿
- 将来像を支える制度の確立
もう1つの人材養成
―アンコール・ワットの環境を守ったカンボジア人
石澤良昭(上智大学アンコール遺跡国際調査団団長/上智大学教授・アジア人材養成研究センター所長)
- アンコール遺跡で増加する観光客とゴミの山
- 王国復活10年目、カンボジアは環境危機に直面
- 第1歩は住民の環境教育から 〜ISOを準備
- 学校へのゴミ箱の設置、環境コンクールなどを実施
- カンボジア人専門家ラオ・キム・リァン博士の祖国への貢献
- アンコール・ワット西参道修復工事へご支援のお願い
連載
-
経営者のひととき
山とジャズそしてワイン
田中優次(西部ガス会長) -
Essay「時の調べ」
粘菌は役に立ってる!?
川上新一(和歌山県立自然博物館学芸員)