月刊 経団連2018年8月号
特集 デジタル・ガバメント -Society 5.0時代の行政
巻頭言
Society 5.0の実現に向けて、建設業も一歩を踏み出す
建設キャリアアップシステム(CCUS)が今秋より始動する。 このシステムの開発を主導してきた国土交通省は、建設現場の第一線で作業に従事する約330万人もの建設技能者の資格・就労実績等を、業界統一ルールのもと、ビッグデータとして蓄積し、技能や経験に基づく適正な処遇につなげることを目指している。
特集
デジタル・ガバメント -Society 5.0時代の行政
政府と経団連が推進する超スマート社会「Society 5.0」を実現するためには、社会に参画するあらゆる主体がデジタル化に対応することが不可欠である。とりわけ行政において、デジタル化が進まないことには、国民や事業者の利便性が高まらず、社会全体の生産性も向上しない。こうしたなか、政府は、今年1月に「デジタル・ガバメント実行計画」を策定し、さらには次期国会に向けて「デジタルファースト法案」が検討されている。そこで、本座談会では、諸外国の動向を踏まえつつ、これからの行政のあるべき姿、デジタル・ガバメント実現に向けた課題について議論する。
座談会:デジタル・ガバメント -Society 5.0時代の行政
- 山本正已 (経団連行政改革推進委員長/富士通会長)
- 甘利 明 (自由民主党行政改革推進本部本部長/衆議院議員)
- 國領二郎 (慶應義塾常任理事/IT総合戦略本部新戦略推進専門調査会デジタル・ガバメント分科会座長代理)
- 岩﨑尚子 (早稲田大学総合研究機構電子政府・自治体研究所教授/国際CIO学会理事長)
山本正已(経団連行政改革推進委員長/富士通会長)
Society 5.0の社会では、国民・事業者・行政の間でデータが円滑に流通することが大前提。とりわけ行政はデータの集積地として重要な位置を占める。行政のデジタル化は、社会全体のデジタル化・ネットワーク化の基盤である。今年1月に訪問したエストニアでは、デジタル化を国家の生き残り戦略として明確に位置付け、国を挙げて推進していた点が強く印象に残る。「課題先進国」である日本は、世界に先駆けピンチをチャンスに変えていける。少子高齢化などの課題解決に向け新しいサービスをつくり出し、成功事例として積極的に輸出していくことを目指すべきだ。
甘利 明(自由民主党行政改革推進本部本部長/衆議院議員)
政府は「行政サービス改革」の推進にあたって、1デジタルファースト、2ワンスオンリー、3コネクテッド・ワンストップという「デジタル化3原則」を掲げている。このデジタル化3原則にのっとって行政の意識改革、行動変革を進めていくことが重要である。2013年に「政府CIO」を設置したことで、スピード感は高まっている。マイナンバー制度をはじめ、国民との合意形成を積み上げながら、利便性を体感してもらうことで、デジタル化のさらなる浸透を図りたい。
國領二郎(慶應義塾常任理事/IT総合戦略本部新戦略推進専門調査会デジタル・ガバメント分科会座長代理)
マイナンバーをはじめとする基盤が整備されてきたことによって、デジタル・ガバメントは実現に向け大きく進み始めている。特に「書類を電子化する」という発想から、「データを中心に考える」という発想に変わってきたと実感している。最大の課題は、国民や企業との接点が多い地方自治体のデジタル化である。現在、マイナンバーのようなIDを一つ一つの行政サービスに付与することで、業務の効率化と利便性の向上を目指す取り組みを進めている。
岩﨑尚子(早稲田大学総合研究機構電子政府・自治体研究所教授/国際CIO学会理事長)
電子政府・自治体研究所では、毎年、世界のICT先進国を中心とした65カ国を対象に「電子政府進捗度ランキング」を発表している。そのベンチマークの1つである「オープンデータ」について、米国、英国をはじめとする「オープンデータ先進国」の事例から学ぶべきである。デジタル・ガバメントの先進的な取り組みを検証すると、コストメリットに対する評価が高い。利用率や利便性を高めるためには、ソーシャルメディアを活用する米国の事例などを参考にしながら、高齢者をはじめとする「デジタル弱者」にしっかりと配慮していけるかどうかが鍵となる。
根本勝則(司会:経団連専務理事)
- ■しかく Society 5.0時代の行政のあり方
- 「デジタル化3原則」にのっとって行政サービス改革を推進する
- マイナンバーをはじめとする「道具立て」はそろった
- 日本社会全体のデジタル化に期待する
- オープンデータ先進国の事例に学べ
- ■しかく 電子行政の推進に関するこれまでの取り組み
- 「デジタル弱者」にとって使い勝手の良いシステムを
- 政府CIOの設置がターニングポイント
- デジタル社会実現の起爆剤として「デジタルファースト法案」に期待する
- ■しかく 電子行政の国際動向
- 海外におけるデジタル・ガバメントの先進的な取り組み
- エストニア政府CIOのレクチャーで考えたこと
- デジタル・ガバメントのシステムを国の強みに
- 民主主義とスピード感の両立は可能か
- ■しかく デジタル・ガバメント実現に向けた取り組みの方向性
- クレームに耳を傾けることで改善していきたい
- テクノイノベーションからサービスイノベーションへ
- 行政サービスにもIDを付与して効率化を図るべき
- デジタル省の創設を見据えた体制構築を
デジタル・ガバメント実行計画の具体的取り組み
向井治紀(内閣官房内閣審議官(副政府CIO))
- 実行計画策定の背景
- サービス設計12箇条、行政手続・民間取引IT化にあたっての3原則
- デジタルファースト法案(仮称)
- ワンストップサービス
デジタル・ガバメントの実現に向けた緊急提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/049.html
山本正已(経団連行政改革推進委員長/富士通会長)
筒井義信(経団連行政改革推進委員長/日本生命保険会長)
- 緊急提言の背景
- デジタルファースト法案
- 国民・事業者向けのプロジェクト
行政手続コストの削減に向けた規制改革推進会議行政手続部会の取り組み
髙橋 滋(規制改革推進会議行政手続部会部会長/法政大学法学部教授)
- 検討の経緯
- 行政手続コストの数値化
- 具体的な取り組み内容
- 今年度の主要課題〜地方展開
マイナンバーを基盤とした新たな国づくりへ向けて
榎並利博(富士通総研経済研究所主席研究員)
- 3年目のマイナンバー見直し
- 番号制度の意義と「新たな世帯」
- 三層構造モデルに基づくマイナンバー展開
- 過度な規制の撤廃とロードマップの提示
利用者目線の行政サービス改革に向けて
-サービスデザインの実現
安井秀行(アスコエ代表)
- デザイン思考の導入・展開
- 求められる利用者中心の視点への転換
- 国・自治体の意識改革と官民連携の強化
デジタル・ガバメント構築に向けたエストニアの取り組み
前田陽二(日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会代表理事)
- ICT先進国エストニアの基本原則
- ICT推進体制
- デジタル・ガバメントの基本構成
- 日本のデジタル・ガバメントへの示唆
デジタル・ガバメントに向けた地方自治体の現状と課題
本山政志(埼玉県町村会情報システム共同化推進室室長)
- DGを取り巻く現状
- 地方自治体が抱える課題
一般記事
第107回ILO総会に出席して
-職場における暴力・ハラスメントの防止に関する条約・勧告策定について政労使で議論
得丸 洋(経団連雇用政策委員会国際労働部会長/三井化学参与)
- 議題にかかる討議
- 代表演説
連載
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経営者のひととき
伝統とは革新の連続
神谷ますみ(やちや酒造会長) -
Essay「時の調べ」
電気鉄道と近代日本
今尾恵介(地図研究家)