月刊 経団連2017年12月号
特集 企業行動憲章改定 ―持続可能な社会の実現のために
巻頭言
持続可能な社会の実現に向けて
経団連は、持続可能な社会の実現に向け、Society 5.0の推進を通じたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成を目指し、「企業行動憲章」を改定した。 1990年代に加速したグローバリゼーションは世界経済の発展に大きく貢献したが、その一方で、多くの地球規模の課題も生み出してきた。
特集
企業行動憲章改定 ―持続可能な社会の実現のために
経団連は、Society 5.0の実現に組織を挙げて取り組んでいる。それは国連の掲げる世界共通の課題、SDGsの達成とも軌を一にする取り組みである。今般の「企業行動憲章」の改定は、SDGs到達への道標を提示することにもつながっている。 本座談会では、憲章改定の背景、目指す社会の姿(SDGsが達成された社会)、マルチステークホルダーとの連携などをつぶさに検証し、持続可能な社会の実現に向けて求められる企業行動のあり方や経営トップの役割などを議論する。
座談会:持続可能な社会の実現に向けた企業行動のあり方
- 遠藤信博 (経団連審議員会副議長/日本電気会長)
- 黒田かをり (CSOネットワーク事務局長・理事)
- 二宮雅也 (経団連企業行動・CSR委員長/損害保険ジャパン日本興亜会長)
- 蟹江憲史 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
- 森川典子 (司会:経団連企業行動・CSR委員会企画部会長/ボッシュ副社長)
遠藤信博(経団連審議員会副議長/日本電気会長)
2013年に「社会価値創造型企業への変革」を宣言、2014年に「NEC Vision」を策定し、6つのメガトレンドと7つの社会価値創造テーマを選定した。この方向性はSDGsが目指すものと軌を一にしており、われわれの取り組みがSDGsとリンクし始めたことで、一層加速したと感じている。一企業が提供するソリューションでは、SDGsが目指す地球規模の課題解決は難しい。さまざまなステークホルダーとのパートナーシップやコラボラティブワークが必要である。
黒田かをり(CSOネットワーク事務局長・理事)
SDGsが掲げた目標は企業の参加なしには達成不可能である。企業には、イノベーションや新たなビジネスモデルの開発だけでなく、人権・労働・環境・腐敗防止などに配慮した、責任ある行動が求められる。一般的に人権尊重はコストとしてとらえられがちであるが、働き方の改革、ダイバーシティ、インクルージョンなどの取り組みは、企業価値の向上に直結する。課題発見、課題解決のためには、企業とNPO・NGOとのパートナーシップが重要になるだろう。
二宮雅也(経団連企業行動・CSR委員長/損害保険ジャパン日本興亜会長)
「持続可能な開発のための国連ハイレベル政治フォーラム」に際し、企業の参画意欲の高さとビジネス機会としての認識、SDGs推進に向けた企業のイノベーションへの期待などを実感した。このような動向を踏まえ、企業行動憲章の改定によって、企業に主体的な行動を促している。国内外への発信、企業間の情報共有、連携・協働の機会づくりなど、経団連のさらなる活動を検討していきたい。
蟹江憲史(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
SDGsが生まれた背景には、MDGsを後継し深化する仕組み、地球環境の悪化への対応、新たな社会動態の出現などが挙げられる。日本におけるSDGsの取り組みは、最初の一歩を踏み出したものの、今後、さまざまなレベルでアクションを起こしていくことが求められる。ボーダーを超えて行動を取りやすい企業やNPO・NGOなど民間の活動を促進する仕組みが必要だろう。滋賀県をはじめSDGsに活路を見いだそうとする地方自治体の動きにも注目したい。
森川典子(司会:経団連企業行動・CSR委員会企画部会長/ボッシュ副社長)
ボッシュ本社では、SDGsに関して経営トップのコミットメントやレポートもあるが、それでも社内浸透は難しいと感じる。社員一人ひとりに認識してもらうには、さまざまな工夫や努力が必要だろう。日本企業においても、社員が日常で取り組む仕事のなかに、SDGsと関連付けできるものがたくさんある。母校の立命館大学で、学生たちがSDGsの認知を高める活動をしており、若者と企業がコラボレーションできることは良い発信となる。
- ■しかく 憲章改定の背景、目指す社会の姿 〜SDGsが達成された社会
- SDGsが生まれた背景 〜経済・環境・社会の変化
- 「誰一人取り残さない」というメッセージに共感
- ■しかく 持続可能な社会の実現に向けて求められる企業行動のあり方、経営トップの役割
- 社会価値創造の取り組みがSDGsとリンクし始めた
- 社会変革のためのリスクを引き受ける
- 人権課題への取り組みは企業価値を高める
- ■しかく マルチステークホルダーの連携
- もっと民間の活動を促進する仕組みが必要
- 日本企業は、もっと国際会議で発表するべき
- ■しかく 今後の取り組み
- 「○しろまる○しろまる×ばつSDG」という切り口で見えてくるもの
- 新しい社会を志向する人たちの共通言語として
- 企業間、業界間の壁を越えた連携・協働が不可欠
- SDGsは世界が取り組むべき唯一の方策
持続可能な開発目標の達成に向けての日本産業界への期待
アミーナ・J・モハメッド(国連副事務総長)
- 世界の平和と安定のために「誰一人取り残さない」
- 社会的包摂、経済成長、環境保護の調和
- SDGsの理念を反映している「Society 5.0」
SDGs達成に向けた日本政府の取り組み
鈴木秀生(外務省地球規模課題審議官)
- SDGsとは
- 日本政府の取り組み
- SDGsの実施はビジネスチャンスにつながる
- 日本をSDGs先進国に
×ばつSDGs
―持続可能な滋賀づくりへ向けて
三日月大造(滋賀県知事)
- なぜ、滋賀県がSDGsに取り組むのか
- 県の政策にSDGsの視点を入れ込む
- ×ばつSDGs」の開催
- 学生の取り組み
- パートナーシップの拡大
- SDGsは「未来との約束」
インタビュー
福島発 障がい者協働プロジェクト
〜ここで仕事をつくる、未来をつくる
富永美保(しんせい事務局長)
- 東日本大震災から生まれた協働
- 企業からの技術指導と支援者拡大が財産
- 課題発信力と協働する場の創造力が重要
- SDGsとのつながりをさらなる前進の原動力に
SDGsに向けた行動のための青写真
―産業界による対話、パートナーシップ
ノリン・ケネディ(米国国際ビジネス評議会(USCIB) バイス・プレジデント)
企業行動憲章
―改定の視点
- 企業行動憲章の改定にあたって
- 企業行動憲章
- 「企業行動憲章実行の手引き」の要点
企業行動憲章の改定に至る背景と主なポイント
三宅占二(経団連企業行動・CSR委員長/キリンホールディングス名誉相談役)
- 社会の変化とグローバルな課題の拡大
- 課題解決に向けた企業の役割
- SDGsの達成に資するSociety 5.0の実現
- 改定のポイント
持続可能な社会の実現に向けた産業界のアクション
関 正雄(経団連企業行動・CSR委員会 企業行動憲章改定タスクフォース座長/損害保険ジャパン日本興亜CSR室シニアアドバイザー)
- 持続可能な社会の実現を牽引する企業
- 人間中心の経済成長
- グローバルな課題とローカルな実践
- 新興国に見る社会的課題解決のためのビジネスモデル
企業行動憲章改定の視点から〜社会的課題の解決に資するイノベーション
―三菱電機の取り組み
大隈信幸(三菱電機専務執行役)
- 「グローバル環境先進企業」を目指して
- 準天頂衛星システム
〜産学官一体のオープンイノベーションで社会的課題を解決 - 自動運転技術の実用化を支える安心・安全・快適性のためのイノベーション
国際的な原則に沿った人権の尊重
―ANAホールディングスの取り組み
高田直人(ANAホールディングス取締役執行役員)
- 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って方針策定・対応を進める
- 方針の策定
- 人権デュー・ディリジェンスの実行
- 社内での啓発
- 社外のステークホルダーとの対話
サステナビリティ重要課題への挑戦が経営戦略の中核
―三菱商事グループにおけるSDGsの経営への統合
戸出 巌(三菱商事取締役常務執行役員・コーポレート担当役員)
- SDGsなどのグローバルな課題への挑戦を経営戦略の中核に
- 企業の持続可能な成長には経済価値、環境価値、社会価値の同時実現が不可欠
- グループ各社とともにサステナビリティを経営課題として事業を推進
- 創業以来の企業理念〜所期奉公、処事光明、立業貿易の三綱領との共通点
一般記事
日韓経済関係のさらなる強化に向けて議論
―全経連首脳との懇談会を開催
榊原定征(経団連会長)
- 科学技術イノベーションの推進および成長分野の育成
- 若年人材の育成・活用
- グローバリゼーションへの取り組み
- 揺るぎない日韓関係の構築に向けて
【提言】
わが国ならではの地球温暖化対策のあり方
―今後の地球温暖化対策に関する提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/077.html
木村 康(経団連副会長・環境安全委員長/JXTGホールディングス会長)
小堀秀毅(経団連審議員会副議長・環境安全委員長/旭化成社長)
- 米国のパリ協定脱退表明の評価と今後の対応
- 中期目標「2030年度26%減」達成に向けて
- 長期戦略の策定に向けた基本的な視点
- カーボンプライシングに対する基本的な考え方
法人税20%でビジネスを。沖縄へめんそーれ
日下正周(内閣府政策統括官(沖縄政策担当))
- 沖縄税制と沖縄県の支援策
- 税制活用に向けた内閣府の取り組み
- 沖縄の魅力
- 沖縄に進出した企業の声
連載
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日本のエネルギー情勢の現状と課題 (6)
原子力発電所で使い終わった燃料はどうなるのか?
(電気事業連合会)- 原子燃料サイクル
〜資源を有効活用廃棄物の減容化にも - 高レベル放射性廃棄物の地層処分
〜多重のバリアで安全に処分 - 「科学的特性マップ」の提示
〜処分地の選定に向けた第一歩
- 原子燃料サイクル
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これからのヘルスケア (2)
日本の健康課題解決をビジネスチャンスに
(ルネサンス) -
経営者のひととき
"ワグネル・トーン"に魅せられて!
立石文雄(オムロン会長) -
Essay「時の調べ」
「怖い絵」から生まれた美術展
中野京子(作家・独文学者)