月刊 経団連2017年11月号
特集 ダイバーシティ社会の実現に向けて
巻頭言
東京2020で実現するもの
東京オリンピックの開会式まで1000日を切った。4年前のIOC(国際オリンピック委員会)総会で東京開催が決まって以来、多くの企業や自治体が新しい技術やサービスを開発し、さまざまな構想を検討してきた。いよいよ、それらを具現化する段階にきている。これから日本、東京を舞台に何が起こるのか、期待で胸が高鳴る。
特集
ダイバーシティ社会の実現に向けて
Society 5.0の到来を目前に、日本の経済社会が大きな変化を迎えるなか、持続的な経済成長を通じ、2020年にGDP600兆円経済を実現するためには、多様な人材の能力を最大限引き出し、経済社会全体の生産性向上を図ることが喫緊の課題である。
また、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。世界中の人々から注目されるなかで、多様な人材が活躍する「ダイバーシティ社会」を対外的にアピールしていく必要がある。
これまで経団連は、女性、若者や高齢者、外国人、障がい者、LGBT等、あらゆる人材が活躍できる環境づくりを進めてきたが、ダイバーシティ社会を実現するには、こうした施策をトップダウン、ボトムアップ双方から実施していくことが不可欠である。
そこで本座談会では、ダイバーシティ社会の実現に向けたさまざまな取り組みをつぶさに確認するとともに、それらを後押しするために求められる施策について掘り下げた議論を行う。
座談会:ダイバーシティ社会の実現に向けて
- 古賀信行 (経団連副会長/野村ホールディングス会長)
- 村上由美子 (OECD東京センター所長)
- 渡邉光一郎 (経団連審議員会副議長/第一生命ホールディングス会長)
- 柄澤康喜 (経団連女性の活躍推進委員長/三井住友海上火災保険会長)
- 吉田晴乃 (経団連審議員会副議長・女性の活躍推進委員長/BTジャパン社長)
古賀信行(経団連副会長/野村ホールディングス会長)
日本は人口減少や少子高齢化に直面しているが、労働生産人口の減少に対する解決策としてダイバーシティを推進するようでは、取り組みの意義として不十分である。ダイバーシティが組織の競争力を向上させることを確信したうえで、ダイバーシティを推進すべきである。かつて当社は新入社員から社長まで同じことを言う「金太郎飴」といわれたが、このような同質性の高い組織では不確実な時代への対応は困難であり、むしろ競争力を低下させかねない。女性や外国人、シニアやLGBTなどの多様な人材が集まり、さまざまな異なる視点を有する組織が競争優位になろう。
村上由美子(OECD東京センター所長)
女性にとって魅力的な企業は、外国人や、規格からはみ出すユニークな日本人にとっても魅力的な企業だといえる。女性活躍を推進している企業は、結果として多様な人材を得て、イノベーションの生まれる環境をつくることができる。そのための1つの鍵は、「粘土層」と呼ばれる中間管理職の意識改革である。「無意識のバイアス」を取り除いていく作業が必要だ。日本は、資金、インフラ、人材と、イノベーションに必要な要素がそろっており、その潜在力は諸外国に抜きんでている。それらの要素をうまくつなげていくために、社会の流動性を高めていく必要がある。
渡邉光一郎(経団連審議員会副議長/第一生命ホールディングス会長)
当社におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進は、従業員満足度調査において、お客様との接点を支える女性社員の満足度が低かったことに端を発する。これを契機にさまざまな課題を明らかにしたうえで、まずは能力開発体系や両立支援制度の充実に取り組んだ。こうした取り組みを通じて、社内におけるボトムアップの提案力が強化された点は大きな収穫だ。私たちサービス産業にとっては、現場における小さな工夫や改善の積み重ねこそが、イノベーションである。こうした日本の経営品質に基づく考え方には普遍性があり、グローバル化を進めていく際にも海外の各事業に浸透しやすい。これまでの継続的な取り組みを新社長にも継承し、本格的な働き方改革へと発展させていきたい。
柄澤康喜(経団連女性の活躍推進委員長/三井住友海上火災保険会長)
政府を挙げてダイバーシティが推進されるなか、重要なことは、労働市場の流動性などフレキシビリティーを高めること、社内外に対する透明性を高めること、イノベーションを活用した抜本的な改革を進めること、の3点である。当社は、M&Aや経営統合を通じて、自分たちのミッション・ビジョン・バリューをあらためて見直すなか、グローバルに理解され得るものにつくり変える必要があると痛感し、変革してきた。ダイバーシティに理解のない企業は、今後、マーケットから淘汰されていくだろう。ダイバーシティ推進の皮切りとして、女性の活躍推進を加速させていきたい。
吉田晴乃(司会:経団連審議員会副議長・女性の活躍推進委員長/BTジャパン社長)
安倍政権の目玉政策は「一億総活躍」「働き方改革」「人材革命」と、すべて「人」にかかわるものであったが、その皮切りが「ウーマノミクス」だ。女性の活躍推進委員会では、5年目に入ったウーマノミクスをさらに加速させていきたいと思っている。今年3月の女性エグゼクティブ米国ミッションにおけるパウエル大統領補佐官との対話から、ウーマノミクスが日本の経済成長に貢献し得ることを再認識した。ウーマノミクス、ダイバーシティは「もうかる」という意識を持ってもらうために、わかりやすいエビデンスや事例を集めて、発信していきたい。
- ■しかく 日本におけるダイバーシティ推進の必要性・問題意識
- 5年目に入った「ウーマノミクス」
- モノカラーの組織では生き残れない
- 会社のミッション・ビジョンに参画することで人は育つ
- 女性にとって魅力的な企業は、外国人にとっても魅力的
- 柔軟性、透明性、イノベーションが重要
- ■しかく ダイバーシティ推進に向けた各社の取り組み、成果
- 「ダイバーシティはもうかる」と言いたい
- 日本には「化ける」ための要素がそろっている
- ダイバーシティ&インクルージョンを経営カルチャーとして継承していく
- グローバルに理解されるミッション・ビジョン・バリューが必要
- 効率化するとたたかれる欧米、歓迎される日本
- ■しかく 今後の経済成長・経営戦略としてのダイバーシティの推進に向けた課題
- あらゆる人にとって「居心地が良い」社会、企業を目指す
- 「粘土層」を砂に変えていく
- 「『活かすボス』の心得12か条」を徹底的に浸透させる
- 「働き方改革」だけでなく「休み方改革」も必要
男性も女性も ともに輝く社会に
クリスティーヌ・ラガルド(IMF専務理事)
- 女性が直面する「壁」
- 日本の働き方改革、構造改革への期待
- メンバーシップ型からジョブ型への移行を
- 女性の活躍推進を通じて企業にもたらされる便益
多文化共生で地域の活性化を図る
―豊田市の挑戦
太田稔彦(豊田市長)
- 豊田市の国際化の現状
- 多文化共生の象徴
〜保見団地における地道な取り組み - 外国人の視点でまちづくりに参画
〜豊田市外国人市民会議 - 大きな転換期を迎えて
シニアを社会の担い手に
秋山弘子(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)
- 福祉政策から労働政策へ
- 生産性の維持と安全な就労環境の整備
- 就労マッチング機能の強化を
何のためのダイバーシティか?
―タスク型ダイバーシティでイノベーションを目指せ
入山章栄(早稲田大学大学院経営管理研究科准教授)
- 「手段」であって「目的」ではない
- タスク型とデモグラフィー型
- トップの覚悟とマルチキャリアの推進
輝く女性の活躍を加速する地方銀行の連携
佐久間英利(「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」会長/千葉銀行頭取)
- 地銀同士のネットワーク化に至った背景
- 「輝く女性の活躍を加速する地銀頭取の会」の活動
- 今後の展望
三菱重工業における理工系分野をはじめとした女性従業員の育成
栁井秀朗(三菱重工業常務執行役員兼人事労政部長)
- 女性従業員数の拡大
- キャリア支援
- 女性管理職の計画的な育成・登用
- 風土の醸成
ユニバーサル社会を目指して
河本宏子(経団連生活サービス委員会ユニバーサル社会部会長/ANA総合研究所副社長)
- 支え合う社会を目指すという意識面の共有が重要
- ユニバーサルなサービスを推進
〜ANAグループの取り組み
多様性を活かすワーキング・インクルージョンの推進
―丸井グループの取り組み
石井友夫(丸井グループ取締役常務執行役員)
- ステークホルダーとともにつくる「共創経営」
- 女性活躍に向けた「意識改革」と「制度づくり」
- 多様な視点を活かす「全員参画経営」に向けて
IBMのLGBTに対する取り組み
梅田 惠(日本IBM人事ダイバーシティ企画担当部長)
- 「勇気ある企業」として表彰された1990年代
- 当事者と人事部門の協業、そしてアライへの展開
- 人事としての取り組みの難しさ
- 企業の枠を超えたLGBT応援の取り組み
事業の海外展開を支える人材確保のための地道な取り組み
迫 勘治朗(昭和電工総務・人事部人材開発グループ技術系統括担当マネージャー)
- 海外大学からの本社総合職採用の始まりは1990年代
- 採用活動は現地事情に合わせて多様化
- 待遇と求める業務レベルは総合職国内採用社員と同じ
- 海外直接採用者の定着率向上が課題
一般記事
日印経済関係のさらなる強化に向けて
―日印ビジネス・リーダーズ・フォーラムをインド・グジャラート州で開催
榊原定征(経団連会長)
- 日印経済界がビジネス環境整備推進の必要性等で一致
- 安倍総理、モディ首相に共同報告書を手交
第20回日本ブラジル経済合同委員会をブラジル・クリチバで開催
飯島彰己(経団連副会長・日本ブラジル経済委員長/三井物産会長)
- 貿易投資の促進
- ビジネス環境整備
- 農業・インフラ整備
働き方改革を着実に進めるために
―働き方改革労使シンポジウムを開催
(経団連 労働法制本部)
- 働き方改革はイノベーション加速のツール
- 技術革新は望ましい働き方の実現のチャンス
- 長時間労働につながる商慣行の是正を宣言
連載
-
日本のエネルギー情勢の現状と課題 (5)
原子力の安全確保のために
―新たな規制への対応だけでなく、自主的に安全性を高める取り組みも実施
(電気事業連合会)- 福島事故を受けた規制の見直し
〜新規制基準適合へ対策強化 - 原子力事業者による自主的・継続的な安全性向上への取り組み
- 原子力再稼働の状況
〜安全確保や人材基盤維持の観点も踏まえた原子力の位置付けを
- 福島事故を受けた規制の見直し
-
これからのヘルスケア (1)
健康経営で得た知見に基づきヘルスケア事業を展開、
従業員の労働生産性向上を目指した新たな取り組み
(凸版印刷) -
あの時、あの言葉
柳に雪折れなし
佐藤八郎(ケルヒャージャパン社長) -
Essay「時の調べ」
重力波でブルっと
川端弘治(広島大学宇宙科学センター長・教授)