月刊 経団連2017年8月号
特集 働き方改革の深化
巻頭言
「中小企業」「地域」「女性」の視点からの想い
経団連の審議員会副議長に就任し1年強が過ぎた。この間、第1に「中小企業の視点」、第2に「地域の視点」、第3に「女性の視点」の3点を重視してきた。この観点から、現在経団連で議論されているいくつかの論点について、私見を述べてみたい。
特集
働き方改革の深化
日本は急速に少子高齢化が進んでいる。総人口と生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)がともにハイペースで減少するなか、現在の失業率は3%前後と、ほぼ完全雇用の状態にある。人手不足は東京だけでなく、地方でも深刻化している。今後、日本経済が持続的な成長を遂げるためには、働き方改革を進めることで、多様な人材の活躍を促し、労働力不足を量的に補う一方、国際的に見ても低いといわれる生産性を高めていくことが重要である。そこで、長時間労働の是正をはじめとする働き方改革の主要論点について、各企業や業界の取り組みを紹介しつつ、日本全体で改革を進めていく方策、企業経営や今後の社会のあり方について議論する。
座談会:働き方改革の深化
- 石塚邦雄 (経団連副会長/三越伊勢丹ホールディングス特別顧問)
- 武田洋子 (三菱総合研究所政策・経済研究センター副センター長)
- 山内隆司 (経団連副会長/大成建設会長)
- 進藤清貴 (経団連雇用政策委員長/王子ホールディングス会長)
石塚邦雄(経団連副会長/三越伊勢丹ホールディングス特別顧問)
生産性を高め、女性・高齢者・外国人などを新たな労働力として投入していけば、ある程度、潜在成長率を維持できる。一方、人口減少による消費市場の縮小は、われわれ小売・サービス業にとって深刻な問題である。働き方改革は、政府に言われたから進めるのではなく、企業にとって必要不可欠なものと認識し、自ら積極的に取り組むべきものであり、その目的はあくまでも生産性向上である。そして日本経済全体の生産性向上に向け、今後、業界内、サプライチェーン内での連携が重要になってくるだろう。
武田洋子(三菱総合研究所政策・経済研究センター副センター長)
政府の「働き方改革実現会議」では、長時間労働の是正、同一労働同一賃金、多様な人材の活躍、柔軟な労働市場といったテーマが議論された。働き方改革の本質は、日本の労働市場における慣行を改めることで、付加価値を高めるとともに、成長分野への労働移動により、マクロの生産性の上昇につなげることにある。日本の社会課題をイノベーションによって解決していくことで、持続可能な社会を実現することが重要である。
山内隆司(経団連副会長/大成建設会長)
建設業界は、他の産業と比べ就業者に高齢者が多く、若年者が少ない。また、賃金水準は低く、労働時間は長い。こうした後進性を打破するために、業界を挙げて「背水の陣」で働き方改革に取り組みたい。鍵となるのは、技術力による生産性向上であろう。業界内でもICTを活用した合理化・効率化が進められており、当社としても他社のモデルとなるべく率先して取り組んでいる。工事消化がピークを迎える2019年を乗り切るためにも、一層の改革を進めなければならない。
進藤清貴(経団連雇用政策委員長/王子ホールディングス会長)
紙パルプ産業は、人口減少、少子化、グローバリゼーション、ICT化の進展による電子媒体への移行など構造的要因に直面し、事業構造の再構築が不可欠な状況にある。事業構造の再構築をスピーディーに行うために、質の高い働き方がますます重要になっている。働き方改革は、「企業の力の源泉は人材」という大原則のもと、意識改革により旧態依然とした仕事の進め方を変え、仕事の質を高めることで、生産性の向上を目指すものだと考える。当社グループとしても、働き方改革として、労働時間改革、人事制度改訂、ワーク・ライフ・バランス支援強化に取り組んでいる。
椋田哲史(司会:経団連専務理事)
- ■しかく 働き方改革の必要性と課題
- 働き方改革の本質は、持続可能な社会の実現
- 働き方改革は企業の成長に不可欠
- 経営者も含め従業員一人ひとりの意識改革が不可欠
- 建設業界は技術革新による生産性向上を目指す
- ■しかく 課題克服に向けた各社の対応
- 営業時間短縮で社員間のコミュニケーションが密になる
- 経営トップ自らが働き方改革を先導することが重要
- 「電子調達」で生産性を高める
- 多様な働き手をマネジメントする管理職の育成が鍵
- 日本各地で小中学校の女子学生限定の見学会を開催
- 社員に対するダイバーシティ教育から社会を変えていく
- ■しかく 日本全体で改革に取り組んでいくには
- 日本の社会課題解決によるイノベーションを目指せ
- 橋梁やトンネルの仕様は「レディーメード」で
- 高齢者のモチベーションを高めるための定年延長
- 企業の壁を取り払った、業界内・サプライチェーン内での連携が必要
働き方改革の推進に向けた経団連の取り組み
鵜浦博夫(経団連副会長・労働法規委員長/日本電信電話社長)
- 働き方改革アクションプランの策定・公表
- 長時間労働につながる商慣行の是正に向けた共同宣言
- 年休取得促進キャンペーン
- 周知活動の展開
「働き方改革実行計画」について
加藤勝信(働き方改革担当大臣)
- はじめに
〜わが国経済は回復軌道であるが投資や消費に力強さが欠ける背景 - 人口減少、少子高齢化という構造問題に立ち向かう
一億総活躍社会の実現と働き方改革 - 実行計画のポイント
〜同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正を中心に - 今後の取り組み
長時間労働是正に向けた企業の課題
島田陽一(早稲田大学副総長・法学学術院教授)
- 企業の発展には正社員の働き方改革が不可欠
- 長時間労働是正のねらい
- 柔軟な労働時間の配分も可能に
解説 同一労働同一賃金のガイドライン案
石井妙子(弁護士)
- ガイドライン案の概要と法的留意点
- 状況の変化
職場のコミュニケーションが同一労働同一賃金の鍵
中村天江(リクルートワークス研究所労働政策センター長)
- 2017年は人材ポートフォリオ改革元年
- "日本的"同一労働同一賃金の概要
- 非正社員の意欲向上の鍵
- りそな銀行の同一労働同一賃金
- イケアジャパンの同一労働同一賃金
- 職場のコミュニケーションが明暗を分ける
新たな宅配サービスの構築に向けて
山内雅喜(ヤマトホールディングス社長)
- 想定以上の事業環境の変化
- 社員が財産
- 高効率・高品質なサービス提供に向け変革を
世界から見た、働きすぎニッポン
ロッシェル・カップ(ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長)
- 働きバチと見られている日本人
- 「残業大国」からの脱出の仕方
当社の働き方改革とは...
安田真人(京西テクノス常務取締役管理本部長)
- 改革の主語は「働く人」自身
- 「付加価値のない残業」はない
- 有給休暇取得促進に向けて
一般記事
環境分野での日中間の協力を推進
―北京で日中グリーンエキスポ2017を開催
榊原定征(経団連会長)
- 展示会
- 日中環境保護産業協力シンポジウム
- 汪洋副総理との懇談
2025年大阪・関西万博の実現に向けて
榊原定征(経団連会長)
- 未来社会「Society 5.0」を世界に発信する
- 国の威信をかけ、オールジャパンで誘致実現を
【提言】
新たな価値を創造できる人材育成を目指して
―提言「第3期教育振興基本計画に向けた意見」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/049.html
岡本 毅(経団連副会長・教育問題委員長/東京ガス会長)
渡邉光一郎(経団連審議員会副議長・教育問題委員長/第一生命ホールディングス会長)
- 産業界の求める人材と企業の役割
- 進捗を客観的に評価できる基準の設定と好事例の収集
- 推進すべき教育改革
- 教育投資の必要性
日韓オール財界で日韓第三国市場共同進出セミナーを開催
伊藤雅俊(経団連審議員会副議長/アジア・大洋州地域委員長/味の素会長)
- 第三国市場における日韓協力拡大への期待
- 具体的な協力事例と今後の可能性
- 第三国協力を日韓経済関係のさらなる発展へとつなげる
日本とウクライナの互恵的なビジネス関係の発展に向けて
―キエフで4年ぶりとなる経済合同会議を開催
朝田照男(経団連日本NIS経済委員長/ウクライナ部会長/丸紅会長)
- ウクライナのビジネス環境とポテンシャルの大きな農業・インフラ分野
- ポロシェンコ大統領、フロイスマン首相とも相次いで会談
- 主な成果と今後の取り組み
連載
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日本のエネルギー情勢の現状と課題 (2)
電気料金はどう変わったか
(電気事業連合会)- 電力小売全面自由化
〜電気料金メニューの多様化 - 原子力停止の影響
〜産業界からも懸念の声 - FITの負担増
〜年間負担額は当初の12倍へ
- 電力小売全面自由化
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あの時、あの言葉
マラッカ海峡の夕日
本田敬吉(イー・エフ・アイ会長) -
Essay「時の調べ」
日々の積み重ねの先にあるオリンピック
福島千里(陸上競技選手)