月刊 経団連2017年2月号
特集 アジアとの経済関係強化に向けて ―ASEANを中心に
巻頭言
グローバル社会の発展を支える人と人の交流を深めよう
世界の政治・経済の不透明感と変動の幅が増大するなかで、アジア地域の相対的な安定感と成長可能性が注目されてきている。そのアジア地域の一員であるわが国の企業は、アジアの各国において昔からさまざまな活動を行っている。 そして、このアジア地域は、近年の経済や社会の発展に伴い、今や製造におけるサプライチェーンの拠点であるだけでなく、製品の製造から販売・サービスまでの一貫した事業活動をも行う、わが国にとり非常に重要な地域となっている。
特集
アジアとの経済関係強化に向けて ―ASEANを中心に
世界経済の先行きに不透明感が漂うなか、アジアは引き続き成長をけん引する役割を期待されている。なかでもASEANは、多くの日本企業が進出し、中国やインドともつながるサプライチェーンの重要な拠点であるだけでなく、ベトナム、ミャンマーといったフロンティアを擁している。そのため、地域統合の推進と相まって、その重要性はますます高まると見込まれている。そこで、ASEANを中心に、中国やインドを含めたアジアの政治経済情勢を展望するとともに、日本企業のグローバルサプライチェーンの強化に向けた課題と官民の果たすべき役割について議論する。
座談会:アジアとの経済関係強化に向けて
- 飯島彰己 (経団連副会長、国際協力委員長/三井物産会長)
- 木村福成 (慶應義塾大学経済学部教授/ERIAチーフエコノミスト)
- 伊藤雅俊 (経団連審議員会副議長、アジア・大洋州地域委員長/味の素会長)
- 大林剛郎 (経団連経済外交委員長/大林組会長)
飯島彰己(経団連副会長、国際協力委員長/三井物産会長)
ASEANを中心とするアジアは、生産拠点ならびに市場という両方の観点から日本企業にとって重要な地域である。アジアの魅力としては、多様性、FTAなど制度面での経済連携の深化、サプライチェーンを支える交通インフラの整備の3つがある。世界の一部で反グローバル化が台頭しつつあるなか、アジア地域が今後も世界経済をけん引していけるよう、日本は官民連携のもと、地域経済統合の推進、輸出を通じたインフラ整備への貢献、各国におけるビジネス環境の整備に取り組む必要がある。
木村福成(慶應義塾大学経済学部教授/ERIAチーフエコノミスト)
世界で反グローバル化の声が強まるなか、日本とASEANは、一貫して自由貿易を推進し続けている。ASEANは、グローバル化による経済成長を自国の発展につなげてきた。その意味で、日本とASEANのパートナーシップは、ますます重要になってくる。ASEAN諸国が新たなイノベーションを生み出していくには、高度人材を引きつける魅力、「都市アメニティー」が必要である。この分野は、日本企業にとって新たなビジネスチャンスとなるだろう。
伊藤雅俊(経団連審議員会副議長、アジア・大洋州地域委員長/味の素会長)
日本企業は早くから東南アジアに着目し、長期間にわたって良好な関係を築いてきた。当社も60年前から、輸出ではなく現地生産のかたちで事業を展開してきた。その際、地元の人々の生活に密着することが大切であると考え、現地スタッフが、現金で、現物を直接販売する「3現主義」を貫いてきた。現在は、ASEAN各国で調味料分野においてトップブランドの地位を確立している。今後も、地域の人々の生活の質の向上に貢献することで、当社のみならず日本全体のブランド価値を高めていきたい。
大林剛郎(経団連経済外交委員長/大林組会長)
日本国内の公共投資が減っていくなか、建設業界としては、これから成長する国々に活路を見いだしていく。なかでもアジアは、歴史的関係から培われた人脈や経験、知識があり、地理的にも近いため、大型プロジェクトを進めやすい。当社としては、最も成功しているタイをモデルケースとして、ASEAN各国に事業を展開していきたい。ODAを含む公共事業では、透明性の向上、コンプライアンスの徹底が求められる。相手国政府・企業とグローバルスタンダードに基づいた契約の締結と履行がなされるよう、日本政府の後押しを期待する。
椋田哲史(司会:経団連専務理事)
- ●くろまる 減速する世界経済のなかで高まるアジアの重要性
- 3つの魅力――多様性、経済連携、交通インフラの整備
- 今後20年間で5%台後半の経済成長を続けるポテンシャル
- アジアとの歴史的関係から培われた人脈と知識
- 日本とASEANがグローバル化をテコに経済成長を実現してきた
- ●くろまる アジアにおける事業展開の現状
- 「Eat Well, Live Well」をアジアで実践する
- タイをモデルにASEAN諸国で事業を拡大していく
- アジアのインフラ整備に貢献し続ける
- ASEANの「都市アメニティー」充実が日本企業のビジネスチャンス
- ●くろまる アジアへ事業を拡大するうえで克服すべき課題
- アジアの多様性への対応が重要課題
- 現地企業になりきる「3現主義」の徹底で、トップブランドの地位を守る
- ASEAN各国の経済団体を強化することが重要
- ●くろまる 問題解決に向けて企業や経済界に求められる取り組み
- 米国のTPP離脱も見据えた戦略の練り直しが必要
- 生活の質の向上に貢献することが、日本のブランド力になる
- グローバルスタンダードな契約の締結と履行のために日本政府の支援が不可欠
- 2017年は通商政策が非常に重要になる
アジアとの関係強化に向けた経団連の取り組み
江頭敏明(経団連審議員会副議長、アジア・大洋州地域委員長/三井住友海上火災保険常任顧問)
- 重要性を増すアジア経済
- アジアとウィン・ウィン関係の構築を
- 民間経済外交を通じ経済界の意見を発信
- 多彩な民間経済外交
- 日本企業のさらなる活躍に向けて
設立50周年を迎えたASEANとの関係強化に向けて
岸田文雄(外務大臣/衆議院議員)
- 日本とASEAN
- ASEANとの経済連携
- ASEAN統合への支援
- これからの対ASEAN外交
アジアのインフラ整備に向けたADBの役割と民間の役割
中尾武彦(アジア開発銀行総裁)
- インフラ整備への支援・融資を通じ生活水準の向上に貢献
- 支援プロジェクトへの先進技術の導入
- 民間企業への融資拡大やPPP手法の活用を支援
ASEAN諸国の成長戦略と日本への期待
西村英俊(東アジア・アセアン経済研究センター事務総長)
- ASEAN諸国の成長戦略
- ASEAN地域統合と自動車産業
- ASEAN諸国の成長戦略の課題と日本へ期待される役割
進展する日ASEAN関係と日本アセアンセンターの役割
藤田正孝(日本アセアンセンター事務総長)
- 日ASEAN関係のさらなる関係発展を目指して
- 貿易促進事業
- 投資促進事業
- 観光促進事業
- 交流事業
アジア太平洋地域における地域経済統合の動向と展望
中川淳司(東京大学社会科学研究所教授)
- APECの最初の10年
- アジア通貨危機から東アジア包括的経済連携まで
- TPP、RCEPからFTAAPへ
- 今後の見通し
ASEANの持続的成長に向けたわが国開発協力の役割
―アジアの世紀を体現する
田中 寧(国際協力機構東南アジア・大洋州部長)
- 質の高い成長
- 普遍的価値の共有
アジアにおけるインフラ整備の推進
―提言「戦略的なインフラ・システムの海外展開に向けて」を踏まえて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/106.html
遠藤信博(経団連国際協力委員長/日本電気会長)
- アジア主要国における関心分野・課題
- 公的資金の有効活用
成長するASEANにおける帝人グループの事業展開
大八木成男(帝人会長)
- これまでの半世紀
- これからの半世紀
ASEANの経済連携と自動車産業の発展
志賀俊之(日産自動車副会長)
- 自動車部品の相互補完スキームが経済連携の萌芽
- ASEANの進化とAECへの期待
- 自由貿易を基本とした経済圏の重要性を実感
ASEAN地域におけるソニーの活動と今後の可能性
岸田光哉(ソニー執行役員ビジネスエグゼクティブ)
- ソニーのASEAN地域における製造オペレーションの概要
- 製造オペレーションを取り巻く環境の変化
- ASEAN地域における事業オペレーションのさらなる発展に向けて
ASEAN地域における物流需要と日本通運の事業展開
竹添進二郎(日本通運海外管理部長)
- 内需が支えるASEAN経済
- 高密度の国内配送ネットワークの必要性
- 多様化するASEAN物流
- 物流における課題
一般記事
両国の首脳を迎え「日露ビジネス対話」を開催
―日露関係を新たな次元へと高めるために
榊原定征(経団連会長)
- 日露はアジア太平洋地域における重要なパートナー
- 8項目の「協力プラン」は、互恵関係を深めるための第一歩
- ロシアに求められるビジネス環境の一層の改善
- 日露関係を新たな次元へと高めるために
ワシントンDCを訪問し、米国の政治経済情勢を調査
―経団連国際対話プロジェクト訪米団
岩沙弘道(経団連審議員会議長/三井不動産会長)
石原邦夫(経団連アメリカ委員長/東京海上日動火災保険相談役)
村瀬治男(経団連審議員会副議長、アメリカ委員長/キヤノンマーケティングジャパン会長)
- 新政権の基本スタンス
- 今後の通商政策
欧州とのさらなる経済関係の強化に向けて
―ヨーロッパ地域委員会がスロベニア、スロバキア、フィンランドを訪問
佐藤義雄(経団連ヨーロッパ地域委員長/住友生命保険会長)
石塚博昭(経団連ヨーロッパ地域委員長/三菱ケミカルホールディングス副会長)
- 日本との経済交流が進むスロベニア
- 産業構造転換を標榜するスロバキア
- 経済の停滞から脱しつつあるフィンランド
連載
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企業スポーツの新たな挑戦
小さなことからコツコツとカタチにし、企業文化として育てる
―あいおいニッセイ同和損保の障がい者スポーツ支援- きっかけは損害保険事業との親和性
- オリンピック・パラリンピックプロジェクトチームの発足
- スローガンは「観て、感じて、考える」
- 「場」づくりに注力
- 社内ムーブメントの起爆剤となったリオ・パラリンピック
- 2020年のその先も継続して支援
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地域と企業の連携が未来を生み出す
若い力が被災地の農業を復活させる
―福島県二本松市- 風評被害を乗り越えて
- キーワードは「コトづくり」
- 「土の力」を信じて立ち上がる
- 子どもたちに農業の魅力を伝えたい
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あの時、あの言葉
自灯明
平岡昭良(日本ユニシス社長) -
Essay「時の調べ」
狂言師の新春
茂山千三郎(狂言師) -
大統領選挙明けにニューヨーク・マンハッタンで考えた!
山越厚志(経団連米国事務所長)