月刊 経団連2016年9月号
特集 現実空間とサイバー空間の融合による新たな経済社会「Society 5.0」の実現
巻頭言
未来を創る人材育成
一段と加速する企業活動のグローバル化やIoT(Internet of Things)、ロボット、人工知能などの技術革新を通じた「Society 5.0」(超スマート社会)の実現により、社会や産業構造が劇的に変化すると予想されている。来春、小学校に入学する児童が成人を迎える2030年ごろには、今ある仕事の半分がなくなるといった衝撃的な試算もあるほどだ。
特集
現実空間とサイバー空間の融合による新たな経済社会「Society 5.0」の実現
ICTの急速な進化を背景としたIoTやAI、ロボット等の技術革新が産業・社会構造を劇的に変化させるといわれ、すでに諸外国や企業の間で競争が激化しつつある。こうしたなか日本政府は、昨年よりSociety 5.0、第4次産業革命といったコンセプトを打ち出し、さまざまな取り組みを開始している。経団連では、Society 5.0を日本発のコンセプトとして、普及・推進の後押しをすべく、今年4月に提言「新たな経済社会の実現に向けて」を公表した。この提言の内容を踏まえ、Society 5.0実現に向けた現状と課題について議論する。
座談会:現実空間とサイバー空間の融合による新たな経済社会「Society 5.0」の実現
- 内山田竹志 (経団連副会長、未来産業・技術委員長/トヨタ自動車会長)
- 中西宏明 (経団連副会長、情報通信委員長/日立製作所会長)
- 新井紀子 (国立情報学研究所社会共有知研究センター長)
- 橋本和仁 (物質・材料研究機構理事長)
内山田竹志 (経団連副会長、未来産業・技術委員長/トヨタ自動車会長)
経団連の未来産業・技術委員長として、また総合科学技術・イノベーション会議の民間議員として、政府の「第5期科学技術基本計画」の策定に積極的にコミットしてきた。基本計画では、Society 5.0をコンセプトとして掲げ、その実現に向けて、政府、産業界、アカデミアそれぞれの果たすべき役割を明確に示すことができたと思う。Society 5.0の実現には、省庁・法制度・技術・人材・社会受容という5つの壁がある。産学官の連携を進め、これらの解消に取り組んでいきたい。
中西宏明 (経団連副会長、情報通信委員長/日立製作所会長)
日立グループとして、インフラ技術と先進的なITを組み合わせてトータルソリューションを提供する「社会イノベーション事業」に取り組むなかで、第4次産業革命、Society 5.0を推進する必要性を痛感した。デジタライゼーションの流れのなかで、日本の産業構造自体が劇的に変わること、また変われなければ日本の競争力が失われてしまうことを、産学官各分野のリーダーは認識する必要がある。研究者には、自らの知的欲求や関心を追求するだけでなく、社会的課題と向き合い、研究を通じて解決を目指す姿勢が求められる。
新井紀子 (国立情報学研究所社会共有知研究センター長)
2030年までにホワイトカラーの仕事の半分が機械に代替されると予測し、日本社会で危機感を共有してもらうためにあえて「ロボットは東大に入れるか」という刺激的なプロジェクトに取り組んできた。プロジェクトを通して、これまでの教育改革が十分に機能していないということが見えてきた。エビデンスに基づいた教育改革は急務といえる。日本の強みは、科学技術と「人」である。2030年にソフトランディングするためにも、人材育成に尽力していきたい。
橋本和仁 (物質・材料研究機構理事長)
総合科学技術・イノベーション会議では、「第5期科学技術基本計画」の策定にあたり経済界のコミットメントを強く求めてきた。産業競争力会議では「日本再興戦略2016」の最重要項目として「第4次産業革命の実現」を位置付けることができた。物質・材料研究機構理事長としては、当機構を材料に関するオープンイノベーションの「場」とするために、各企業トップに協力をお願いしている。総論賛成・各論反対とならないように、オープンイノベーションを実現しなければ生き残れないという意識を現場レベルまで浸透させていくべきだ。
江間有沙 (司会:東京大学教養学部附属教養教育高度化機構特任講師)
- ●くろまる Society 5.0の実現に向けた取り組み
- 「日本はSociety 5.0を目指す」というメッセージを世界に発信
- 産業界が深くコミットした「第5期科学技術基本計画」
- 第4次産業革命、そしてSociety 5.0が目指すもの
- 人間がロボットに仕事を奪われないために
- ●くろまる Society 5.0の実現に向けた課題
- アカデミアは社会的課題解決のための研究を志向せよ
- 産学連携でオープンイノベーションを実現する
- まず公共性の高いデータからオープンにしていく
- 市民が決断できるように、議論をオープンにするべき
- ●くろまる イノベーションの社会受容に向けて
- さまざまな人が議論に加わって、方向性を探っていくしかない
- 研究者は社会的課題に関心を持ち交流を広げるべき
- 日本が持つリソースを総動員して議論を進めていきたい
- ●くろまる Society 5.0の実現に向けて
- オープンイノベーションの拠点として研究機関の機能活用を
- オープンイノベーションで標準化がスムーズになる
- エビデンスに基づいた教育改革が必要
- デジタライゼーションの流れは止めようがない
夏季フォーラム2016第1分科会「Society 5.0の創出」の模様
(経団連産業技術本部)
【提言】
データ利活用推進のための環境整備を求める
― Society 5.0の実現に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/054.html
内山田竹志 (経団連副会長、情報通信委員長/トヨタ自動車会長)
中西宏明 (経団連副会長、情報通信委員長/日立製作所会長)
近藤史朗 (経団連情報通信委員長/リコー会長)
- データ利活用の意義
- データ利活用推進の前提
- データ利活用推進に向けた課題・施策
【寄稿】
「日本再興戦略2016」の概要および第4次産業革命の実現に向けた取り組み
内閣官房日本経済再生総合事務局
- 既存の社会システムが一変する可能性
- 新たに2つの改革メカニズムを導入
- トップレベルの人材を引き付ける魅力ある国を目指して
製造業の未来
―第4次産業革命に向けたドイツ・日本の進路
ウルリッヒ・グリロ (ドイツ産業連盟(BDI)会長)
- 先手必勝
- 行く手を阻む障害
エストニア
―スーパースマート国家
ラウル・アリキヴィ (日本・エストニア/EUデジタルソサエティ推進協議会理事)
- 必要なサービスが継ぎ目なく提供される「プッシュモデル」型に
- エストニア制度を世界中の利用者に開放
- 不可逆的なシェアリングエコノミーにも適応
IoTで拓く日本の未来と課題
坂村 健 (東京大学大学院情報学環教授)
- TRONプロジェクトはオープン
- なぜオープンであることが重要なのか
- オープンIoTへ
- 社会インフラは「技術+制度」
オープンリサーチデータとデータプラットフォーム
喜連川 優 (国立情報学研究所所長)
- 新たなデータアセット:オープンリサーチデータ
- データプラットフォームの構築と学と産による活用
- 共創的データインフラの有無が勝負を決める時代へ
期待を実現し、不安に備える
―第2次機械時代の経済社会構想
若田部昌澄 (早稲田大学政治経済学術院教授)
- 人工知能の期待と不安
- 経済成長は加速するか
- 雇用は失われるのか
- 期待を実現し、不安に備える制度・政策を
人工知能をめぐる技術動向とわが国産業への適用可能性
松尾 豊 (東京大学大学院工学系研究科准教授)
- ロボットや機械が運動を習熟するように
- さまざまな産業への人工知能の適用可能性の追求を
- ディープラーニング技術の潜在的可能性は高い
中央銀行とフィンテック
小早川周司 (日本銀行決済機構局参事役)
- フィンテックをめぐる各国中央銀行の動向
- フィンテックがもたらす変化
- 金融市場の発展と経済の持続的成長に向けて
高精度な3次元地図情報によるSociety 5.0の実現
岡村将光 (三菱電機常務執行役)
- 高精度測位利用と3次元地図情報
- 共通基盤としての3次元地図情報
- 3次元地図情報共通基盤の将来像
人工知能の研究から実用化へ
― Preferred Networksの取り組み
岡野原大輔 (Preferred Networks 取締役副社長)
- 交通・製造業・バイオヘルスケア領域で研究開発・実用化を推進
- 分散協調学習の可能性
- 国際的な展示会出展やコンテストで認知度を高める
- 新産業の創出を目指して
一般記事
アジアの持続的成長に向け、アジアの経済界首脳が意見交換
―第7回アジア・ビジネス・サミット
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/052.html(共同声明)
榊原定征 (経団連会長)
- 地域経済統合やイノベーション創出のための連携の重要性を確認
- アジア経済界の一層の連携推進に向けて
【提言】
同一労働同一賃金の実現に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/053.html
鵜浦博夫 (経団連副会長・労働法規委員長/日本電信電話社長)
岡本 毅 (経団連副会長・雇用政策委員長/東京ガス会長)
進藤清貴 (経団連雇用政策委員長/王子ホールディングス会長)
- 日欧の賃金制度、雇用慣行の違い
- 欧州型同一労働同一賃金
- 日本型同一労働同一賃金の実現に向けた取り組み
- 非正規従業員の総合的な待遇改善策
アジア・欧州関係の次の10年に向けて
―第15回アジア欧州ビジネス・フォーラムに参加して
伊藤雅俊 (経団連審議員会副議長、アジア・大洋州地域委員長/味の素会長)
- 20年目を迎えたアジア・欧州の対話・協力
- 制度的な連結性の確保が重要
- 制度的な連結性としての経済統合
- 制度的な連結性の先駆けEUの行方
地球は持続可能か? 生物多様性、資源、環境問題
―ディッチリー財団主催の国際会議報告
手塚宏之 (経団連環境安全委員会地球環境部会国際環境戦略ワーキンググループ座長/JFEスチール技術企画部理事)
- リスクを峻別して議論・対応すべき
- 画一的な「価格付け」だけで解決できない
- 具体的なメリットのある取り組みの積み上げを
超早期発見と先端医療社会の構築
―「がん撲滅サミット2016」へのご支援のお願い
鈴木義行 (福島県立医科大学医学部放射線腫瘍学講座主任教授・先端がん免疫治療学講座教授)
- がん免疫療法が世界的に広がる
- 産学官が一体で純国産の創薬・治療法の開発を
- 横浜「がん撲滅サミット2016」を開催
連載
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地域と企業の連携が未来を生み出す
海と生きる
―宮城県気仙沼市の選択- 再び海の可能性を信じて立ち上がる
- 気仙沼の地方創生は「人づくり」にあり
- サメのコラーゲンに着目
- 気仙沼に雇用を創出したい
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あの時、あの言葉
新しい価値の創造
峰岸真澄(リクルートホールディングス社長兼CEO) -
Essay「時の調べ」
ラグビー日本代表チームへのメンタルトレーニング
荒木香織(園田学園女子大学人間健康学部教授) -
カナダの首都オタワで考えた!
山越厚志(経団連米国事務所長)