月刊 経団連2016年5月号
特集 あらためて考えるTPP協定の意義と活用、今後の通商戦略
巻頭言
首都直下地震に備えて
天災は忘れたころにやってくる。科学的な根拠はないのだろうが、古来日本人は経験に基づいてそんな言葉を言い伝えている。30年以内に約70%の確率で発生するといわれている首都直下地震だが、発災した時の心構えは万全だろうか。
特集
あらためて考えるTPP協定の意義と活用、今後の通商戦略
今年2月4日、交渉参加12カ国により署名されたTPP協定は、世界のGDPの約40%、8億人の人口をカバーする。わが国が成長著しいアジア太平洋地域の需要を取り込むことを可能とする。また、高いレベルの自由化と幅広い分野で「21世紀型のルール」を実現することから、グローバルな規模で新たな通商ルールのスタンダードとなり得る。こうした観点から、TPP協定の意義、企業としてのTPP活用のあり方、TPPと日本の成長戦略、今後のグローバルルールの構築について議論する。
座談会:あらためて考えるTPP協定の意義と活用、今後の通商戦略
- 飯島彰己 (経団連副会長/三井物産会長)
- 白石 隆 (政策研究大学院大学学長)
- 十倉雅和 (経団連副会長・農業活性化委員長/住友化学社長)
- 鶴岡公二 (内閣官房TPP政府対策本部首席交渉官)
- 神戸司郎 (司会:経団連通商政策委員会企画部会長/ソニー執行役EVP)
飯島彰己 (経団連副会長/三井物産会長)
経団連は、政府部内で検討が始まった2010年ごろから一貫して、TPP交渉への早期参加を働きかけてきた。交渉参加決定後は、協定に盛り込むべき具体的な要望を政府に提出する一方、交渉会合が開催される現地にミッションを派遣するなど、交渉推進を後押しした。TPPは日本の成長戦略の要である。グローバルにビジネスを展開する企業はもとより、農業を含むあらゆる産業、中小企業を含むあらゆる規模の事業者が、積極的に活用することが求められる。
白石 隆 (政策研究大学院大学学長)
日本が「高所得国の罠」から抜け出し、経済成長を続けるためには、TPP参加を通じて産業構造の転換に取り組むことが不可欠である。これまでの経済連携協定とTPPの最大の違いは、「財」の貿易だけでなく、「サービス」「知財」「政府調達」などが含まれている点である。まさに21世紀型の通商ルールだといえる。大学としても、TPPを活用できるような人材を供給するために、大学改革、グローバル人材育成などがますます重要となる。
十倉雅和 (経団連副会長・農業活性化委員長/住友化学社長)
TPP合意は、農業分野にとって本格的な制度見直し・改革を加速する契機となった。TPP参加による農業の成長産業化を実現するために、経済界と農業界が互いの価値観を共有しつつ、共通の利益・目標に向けて連携していくことが重要である。経団連では、農業界との連携を第2ステージに引き上げ、連携プラットフォームを設置し、マッチング機能を強化していく。化学産業としては、関税撤廃のメリットを享受するとともに、累積原産地規則などを活用してバリューチェーンの最適化を図りたい。
鶴岡公二 (内閣官房TPP政府対策本部首席交渉官)
TPP推進に向けた経団連をはじめとする経済界の協力に感謝している。TPP交渉の成功は、安倍総理、甘利経済再生(TPP)担当大臣(当時)の強力なリーダーシップのもと、内閣官房に設置されたTPP政府対策本部が一枚岩で交渉にあたったことが大きい。日中韓FTA、RCEPさらにはFTAAPの構築など、今後も困難な交渉が予想されるが、今回と同様の一元化された態勢で臨めば、力を発揮できるはずだ。TPPと同等の水準を確保するべく、粘り強く交渉にあたらなければならない。
神戸司郎 (司会:経団連通商政策委員会企画部会長/ソニー執行役EVP)
TPPでつくられたルールには、物品のみならず、情報の移転・コンテンツ・サービスに関する規定が盛り込まれており、時代を先取りしている。今後のFTA、EPAなどのルールづくりのモデルとなることが期待される。一方、TPPのようなメガFTAだけでは全世界のバリューチェーンをカバーすることはできず、複数のルールの混在や不整合といった問題が拡大する。今後、分野別に交渉を進め、その成果をWTOのルールへつなげるような取り組みも必要だろう。
- ●くろまるTPP協定の意義
〜交渉参加と妥結への道のりを振り返って - TPP参加で「高所得国の罠」から抜け出す
- 歴史的合意に至るまでの経団連の取り組み
- 農業の成長産業化を目指して
- 日本の交渉参加がターニングポイントとなった
- ●くろまるTPP協定を通じたバリューチェーンの拡大をどう活かすか
- 物品のみならずコンテンツやサービスの自由貿易に期待
- 商社としてTPPを最大限に活用する
- 累積原産地規則を活用し、バリューチェーンを最適化する
- 東南アジア各国はTPPをテコに「中所得国の罠」を回避せよ
- TPPが今後の経済連携の基準になる
- ●くろまるTPPと日本の成長戦略
- 農業者、中小企業にとってもTPPはチャンスとなり得る
- 経済界と農業界のマッチングを進める
- TPP参加は「日本はオープンだ」というシグナルになる
- TPPを活用できる人材の育成を
- ●くろまるTPPの先を見据えたグローバルルールの構築
- 交渉体制を一元化し、強いリーダーシップを発揮できた
- アジェンダ設定の段階から関与していくことが重要
- 今後の協定においてTPPの水準を維持することを期待
- 先進国による質の高い通商秩序づくりが重要
- 分野別に交渉を進め、WTOのルールへつなげるべき
TPPの意義と日本への期待
ブルース・ミラー (駐日オーストラリア大使)
- 国内の構造改革が大きな経済効果を生む
- 日豪経済連携協定がTPP交渉妥結への大きな弾みに
- 中小企業への配慮も
- TPPはFTAAPへの第一歩
TPP参加により貿易の自由化を進めアジア太平洋地域でのプレゼンスを向上させる
カルロス・フェルナンド・アルマーダ・ロペス (駐日メキシコ大使)
- アジア太平洋地域でのプレゼンスの向上
- TPP加盟はメキシコの発展にとってプラス
TPP協定はベトナムの経済発展を推進する新たなエンジン
グエン・クオック・クオン (駐日ベトナム大使)
- 新たな市場の開拓を
- ビジネス環境の整備に向け日本の支援を期待
シンポジウム「TPPを活かす」を開催
経団連では2月22日、「TPPを活かす」をテーマとするシンポジウムを開催した。政府、研究者、企業、農業生産法人、労働組合といった多様な関係者の参加を得て、TPPの効果と期待、TPPを活用した農業の成長産業化・地方創生などに焦点を当て、講演やパネル討議を展開した。
- ●くろまるシンポジウム「TPPを活かす」を開催して
伊東信一郎 (経団連審議員会副議長/通商政策委員長)
中村邦晴 (経団連通商政策委員長) - ●くろまるTPP協定を成長戦略につなげるために〜政府としての取り組みと経済界への期待
鶴岡公二 (内閣官房TPP政府対策本部首席交渉官) - ●くろまるパネルディスカッション第1部「TPPの経済効果と期待」
パネリスト
植村憲嗣 (三菱電機執行役員・産業政策渉外室室長)
クリストファー・ラフルア (在日米国商工会議所(ACCJ)会頭)
川島千裕 (日本労働組合総連合会総合政策局総合局長)
川崎研一 (政策研究大学院大学政策研究院シニア・フェロー)
モデレーター
中島厚志 (経済産業研究所(RIETI)理事長) - ●くろまるTPP協定とJAグループの取り組み
大西茂志 (全国農業協同組合中央会常務理事) - ●くろまるパネルディスカッション第2部「農業の成長産業化と地方創生」
パネリスト
梅津克彦 (ヤマト運輸執行役員グローバル事業推進部長)
井上浩行 (大裕鋼業社長)
佛田利弘 (日本農業法人協会副会長/ぶった農産社長)
小田 保 (九州経済連合会農林水産部長)
モデレーター
本間正義 (東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
一般記事
南部アフリカ諸国との経済交流を深める
-訪南部アフリカ経済ミッションを派遣
野路國夫 (経団連審議員会副議長、サブサハラ地域委員長/小松製作所会長)
加瀬 豊 (経団連サブサハラ地域委員長/双日会長)
- 南アフリカとの強い絆を再確認
- ボツワナや南部アフリカ開発共同体との経済交流の推進で一致
【提言】
今後の大都市政策の考え方
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/019.html
宮本洋一 (経団連審議員会副議長、都市・住宅政策委員長/清水建設会長)
菰田正信 (経団連都市・住宅政策委員長/三井不動産社長)
- 転機を迎える大都市政策と都市計画マスタープラン
- 今後の大都市政策の考え方
- 三つの切り口から見た都市政策
循環型社会の形成に向けた産業界の取り組み
-環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕
2015年度フォローアップ調査結果および2016年度以降の計画方針
http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/018.html
山田政雄 (経団連環境安全委員会廃棄物・リサイクル部会長/DOWAホールディングス社長)
- 2015年度フォローアップ調査結果の概要
- 2016年度以降の計画方針
連載
-
経営者のひととき
フェルメール巡礼
石塚邦雄(三越伊勢丹ホールディングス会長) -
Essay「時の調べ」
志摩の海女文化の魅力
塚本 明(三重大学人文学部文化学科教授)