月刊 経団連2015年10月号
特集 経済・財政一体改革の推進に向けて
巻頭言
COP21への期待
今夏、日本列島は記録的な猛暑となった。世界的に見ても温暖化の傾向は顕著で、米国の海洋大気局によれば、今年1月〜7月の世界の平均気温は観測史上最高を記録したという。気候変動問題はもはや地球規模で解決されなければならない喫緊の課題である。
特集
経済・財政一体改革の推進に向けて
日本の財政状況は、アベノミクスのもとでの税収増、消費税率8%への引き上げ、歳出効率化の努力もあって、改善しつつある。しかし、国・地方の長期債務残高は、2014年度末時点で対GDP比205%、1000兆円超という歴史的高水準にあり、これ以上、将来世代に負担を先送りするわけにはいかない。政府は、今年6月に、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太方針」を閣議決定した。この内容を踏まえ、財政健全化計画の実行に向けた課題や今後の具体的な改革のあり方などについて議論する。
座談会:経済・財政一体改革の推進に向けて
- 石原邦夫 (経団連副会長・経済財政委員長/東京海上日動火災保険相談役)
- 吉川 洋 (東京大学大学院経済学研究科教授)
- 岡本圀衞 (経団連副会長・人口問題委員長/日本生命保険会長)
- 後藤茂之 (衆議院議員/自由民主党日本経済再生本部幹事長・政務調査会副会長・税制調査会インナー幹事)
石原邦夫 (経団連副会長・経済財政委員長/東京海上日動火災保険相談役)
将来世代に負担を先送りする財政構造を改めなければ、国民、企業は消費の拡大や投資に踏み切れず、経済の好循環に水を差すことになりかねない。骨太方針や日本再興戦略で示された方針は、イノベーションとグローバリゼーションを軸とする成長戦略の推進を訴えてきた経団連の考え方と同じ方向にある。歳出削減については、閣議決定された骨太方針のとおり、歳出全般について聖域なく合理化し、見直す必要がある。国民全体の意識や行動を変えるために、政治が責任ある姿勢を示すことが重要となる。
吉川 洋 (東京大学大学院経済学研究科教授)
日本の財政は非常に厳しい状況にあり、日本経済にとって最大のリスクとなっている。金利、国債マーケットが安定し、危機が顕在化していない今こそ、財政再建を粛々と進めなければならない。歳出面から見ると、社会保障改革と財政再建は同義である。社会保障改革を進めるためには、国民の理解を得ることが不可欠である。合理的に説明のつかない部分については、たとえ抵抗があっても改革を進めるべきである。政府には、国民への情報発信を丁寧に行っていくこと、強いリーダーシップを発揮して改革を断行することが求められる。
岡本圀衞 (経団連副会長・人口問題委員長/日本生命保険会長)
社会保障給付費の抑制にあたっては、国や地方自治体が負担する社会保障関係費のみならず、個人や企業が負担する社会保険料を含めて考える必要がある。その際の重要なポイントは「見える化」と「負担のあり方の見直し」である。国民の理解と納得が得られるよう見える化を進めるとともに、受益と負担のバランスを図る観点から高齢者にも一定の負担をお願いする必要がある。社会保障制度維持のためにも、人口問題解決が重要であり、高齢者から若者への社会保障財源の配分見直しについても国民に理解を求めていかなければならない。
後藤茂之 (衆議院議員/自由民主党日本経済再生本部幹事長・政務調査会副会長・税制調査会インナー幹事)
政権交代以降、大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略(三本の矢)を一体として進めてきたが、やっと経済の好循環が現れている。この機会をとらえ、悪化の一途をたどってきた財政再建に正面から取り組まなければならない。社会保障改革については、世界に冠たる国民皆保険・皆年金の制度を維持し、次世代に引き渡すことがその目的である。これまでの政権が先送りしてきた改革を断行するために、私たち政治に身を置く者が、リーダーシップを発揮し、勇気を持って取り組んでいきたい。
阿部泰久 (司会:経団連常務理事)
- ●くろまる財政に対する問題意識と財政健全化計画に対する全般的評価
- 財政問題は日本経済にとって最大のリスク
- 財政再建は実行あるのみ
- 将来世代に負担を先送りしてはならない
- 社会保障給付金全体の抑制を図っていくべき
- ●くろまる成長戦略の推進
- イノベーションとグローバリゼーションを軸とする成長戦略の推進
- 経済成長の鍵はイノベーション
- 人口一億人を維持するために
- 「横串と団子」で好循環を実現
- ●くろまる社会保障改革と地方行財政改革を中心とした歳出改革のあり方
- 重要な「見える化」と「負担のあり方の見直し」
- 政治がリーダーシップを発揮し改革の断行を
- 世界に冠たる国民皆保険・皆年金を次世代に引き渡すために
- 聖域なき歳出の合理化を
- 地方交付税交付金を「バラマキ」にしないために
- ●くろまる国民理解の醸成、意識・行動改革の促進
- 公的サービスに対するコスト意識を持ってもらう
- 人口問題解決に向けて国民の理解を
- 国民への情報発信、政治のリーダーシップが不足している現状
- 勇気を持って改革に取り組む覚悟
経済成長と財政再建の二兎を追え
天野真志 (読売新聞論説委員)
- 楽観的な政府の財政再建シナリオ
- 持続可能な社会保障制度の構築を
- 官民の危機感共有が大切だ
医療保険制度改革に対する健保連の考え方
白川修二 (健康保険組合連合会副会長)
- 持続可能な制度構築を
- 加入者の健康維持により医療費を適正化
- 薬価等の引き下げを国民に還元
終末期医療と今後の法の役割
樋口範雄 (東京大学法学部教授)
- 21世紀の日本社会と法の遅れ
- 誰のための終末期医療か
- 情報社会のはずなのに
〜三つ目のコメント
呉市のデータヘルスの取り組み
小村和年 (呉市長)
- 健康寿命延伸と医療費適正化に資源投入
- データを活用し重症化・再発の予防
- さまざまな可能性を秘めたデータヘルス
「人」と「地域」が触れ合うことで生まれる「地域力」
〜佐々町の介護予防事業の取り組み
古庄 剛 (佐々町長)
- 高齢者支援における佐々町のビジョン
- 給付の適正な利用にあたっての見直し
- 介護予防を含む地域支援体制の確立
- 地域の担い手、介護予防ボランティア
- おわりに
ジェネリック医薬品80%時代へ
〜骨太方針2015
澤井弘行 (沢井製薬会長)
- 世界のジェネリック医薬品シェア
- ジェネリック医薬品の品質と効き目
- ジェネリック医薬品の安定供給
センサー技術を活用した医療、介護サービスの効率化について
松村啓史 (テルモ取締役副社長執行役員ホスピタルカンパニープレジデント)
- 医療環境のICT化
- ICT環境対応への歩み
- 治療機器への展開
- 今後の発展について
一般記事
アジアの経済界首脳が集い、アジアを取り巻く課題をめぐり意見交換
〜第6回アジア・ビジネス・サミット
榊原定征 (経団連会長)
- アジア全体の競争力強化と持続的成長に向けて
- 共同声明を安倍総理に手交
【提言】
成長志向の法人税改革を継続し、できるだけ早期に法人実効税率20%台を実現
〜平成28年度税制改正に関する提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/075.html
宮永俊一 (経団連副会長・税制委員長/三菱重工業社長)
- 法人実効税率20%台の実現に向けて
- 地方法人課税の改革
- BEPSプロジェクトの成果を踏まえた国内法制上の対応
世界遺産アンコール・ワットをオールジャパンで修復
谷垣禎一 (自由民主党幹事長/アンコール・ワット西参道修復工事募金委員会顧問/日本アンコール・ワット技術交流研修委員会顧問)
- アンコール・ワットの衝撃
- 日本は平和構築を支援
- アンコール遺跡救済国際調整委員会からの要請
- カンボジア人によるアンコール・ワット修復
〜日本の文化貢献の現場に - オールジャパンでアンコール・ワット修復を
連載
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未来を創る企業力 (14) 〜100年経営の真髄に迫る〜
守りから攻めへの転換が、第二の創業を導く。
デンカ- 社会の変化に向けて放った新成長戦略の三本の矢
- 素材メーカーの枠を超えて末端の市場ニーズに接近
- 真摯な姿勢と誠実な対応が継続的な成長を実現する
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あの時、あの言葉
マーケットを創り出す
市川俊英(三井ホーム社長) -
Essay「時の調べ」
昭和村の農業に見る地域資源の活かし方
澤浦彰治(野菜くらぶ代表取締役)