月刊 経団連2015年5月号
特集 持続的な経済成長を支えるエネルギーミックスのあり方
巻頭言
豊かで活力ある日本を支えるエネルギー
東日本大震災から4年、わが国のエネルギーを取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。豊かで活力ある日本を目指すうえで、エネルギーのコスト上昇による産業への影響はもとより、地球温暖化防止への国際的な取り組みや国民生活の負担などを考慮すれば、今こそエネルギー政策に関する議論を尽くさなければならない。
特集
持続的な経済成長を支えるエネルギーミックスのあり方
東日本大震災以降、中長期のエネルギー政策の見直しが行われている。2014年4月に、政府は新たなエネルギー基本計画を閣議決定し、現在、これを踏まえた新たなエネルギーミックスの策定に向けた検討を行っている。本年末のCOP21において、気候変動の新たな国際枠組みの採択が目指されているなか、エネルギー起源CO2が温室効果ガスの約9割を占める日本では、エネルギーミックスのあり方が温暖化目標にも大きな影響を与える。新たなエネルギーミックスのあり方とその実現方法について議論する。
座談会:持続的な経済成長を支えるエネルギーミックスのあり方
- 友野 宏 (経団連副会長/新日鐵住金取締役相談役)
- 豊田正和 (日本エネルギー経済研究所理事長)
- 佐々木則夫 (経団連副会長/東芝副会長)
- 岩船由美子 (東京大学生産技術研究所特任教授)
友野 宏 (経団連副会長/新日鐵住金取締役相談役)
東日本大震災後、原子力発電所の停止に伴う火力発電比率の上昇、再生可能エネルギー固定価格買取制度による賦課金の上昇などにより、電力コストが大幅に上昇した。製造業の国際競争力確保の観点から、震災前よりもさらに安価で安定的な電力供給が求められる。そのためは、安全性の確保を前提として、国内で原子力を一定比率維持する必要がある。再生可能エネルギーについては、早急に固定価格買取制度を見直し、競争原理を導入することで、技術開発を促進すべきである。
豊田正和 (日本エネルギー経済研究所理事長)
エネルギーミックス策定にあたっては、「S+3E」にマクロ経済的影響という「M」を加えた「S+3E+M」の観点から、より総合的な議論が必要である。電源構成に関しても、ケースごとに国民生活や経済活動への具体的な影響を示すことで、国民の理解を促すべきである。原子力の安全性については、技術および制度・スキームについては世界標準といえるが、安全文化の確立は不十分である。安全について、「リスクがゼロのエネルギーはない」という前提に立ち、リスクを許容できるレベルまで下げる方向で議論を進める文化を確立していくべきである。
佐々木則夫 (経団連副会長/東芝副会長)
日本は、デフレ脱却と経済の好循環実現に向けた正念場の時を迎えており、成長戦略との整合性を持ったエネルギー政策が求められる。エネルギーミックスについては、「S+3E」の適切なバランスを取るべきである。ベースロード電源を確保することが重要であり、とりわけ原子力の比率については環境、経済性の両面から25%超とすることが望ましい。再生可能エネルギーについては、非効率・不安定・高コストといった課題解決に向け、将来に向けた研究開発に重点を置くべきである。
岩船由美子 (東京大学生産技術研究所特任教授)
日本は、エネルギー需要の将来像を十分に描けていない。震災後の節電問題などを経て、需要側は大きく変化した。もはや需要は所与のものではなく、消費者が必要とするエネルギー効用とは何か、どのようなサービスを求めているかといったところまで踏み込んで検討していく必要がある。さらに、供給側と連携し、デマンドレスポンスなど需給バランスを保つための新しい仕組みが求められる。人口減少によって、少なくとも民生における需要は減少していくが、一方で、電化は進めていくべきである。
根本勝則 (司会:経団連常務理事)
- ●くろまる日本を取り巻くエネルギー情勢
- 不確実性に満ちているエネルギー情勢
- エネルギー問題を解決し、経済の好循環を実現する
- 震災前よりも安価なエネルギー確保を目指すべき
- エネルギー需要のあり方が変化しつつある
- ●くろまるエネルギーミックスのあり方
- 「S+3E」の適切なバランスが重要
- 経済性の確保と環境保全を両立させるために
- 経済への影響を国民が理解できるかたちで提示する
- 将来的には電気へのシフトを進めていくべき
- 原子力は25%超を目指すべき
- 固定価格買取制度の見直しは不可避
- 完璧なエネルギーは一つもない
- ●くろまるエネルギー需要面の課題
- 需要をコントロールする仕組みづくりが重要
- 鉄鋼業界は「三つのエコ」でCO2削減に取り組む
- 企業や家庭における省エネ推進を後押しする政策を
- 省エネ政策はポリシーミックスで
- ●くろまるエネルギー供給面の課題
- 安全性の確保を大前提に
- 原子力にかかわる人材や技術の維持・確保
- 国際標準の安全文化を確立する
- 固定価格買取制度は競争とイノベーションを阻害
- 太陽光だけが異常に導入される固定価格買取制度は見直しを
- 課題の解決に向けて研究開発の推進を
- ドイツやスペインの事例を参考に固定価格買取制度の見直しを
- 電力システム改革の問題点
- 諸外国の改革事例における光と影
- 情報公開が進むことを期待する
新たなエネルギーミックスの策定に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/032.html
加藤泰彦 (経団連資源・エネルギー対策委員会共同委員長/三井造船会長)
高橋恭平 (経団連資源・エネルギー対策委員会共同委員長/昭和電工会長)
- 基本的な視点
- 2030年におけるエネルギーミックス
- 2030年のエネルギーミックス実現に向けた取り組み
- エネルギーの安定供給に向けた環境整備
エネルギーミックスと今後のエネルギー政策のあり方
大橋 弘 (東京大学大学院経済学研究科教授)
- 経済的に最適なエネルギーミックス
- 調整力としての火力発電の維持が必要
エネルギー政策がマクロ経済に与える影響
永濱利廣 (第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)
- シェールガス革命のわが国への影響
- 日本は世界トップレベルの石炭発電効率
- 発電コストの低減がもたらすもの
FIT賦課金負担の見通しと産業界への影響
〜効率性の視点から早急な見直しが必要
朝野賢司 (電力中央研究所主任研究員)
- 世界最大規模の賦課金負担が生じる可能性
- 再エネ大量導入は人件費や雇用の削減に
放射性廃棄物の地層処分の実現に向けて
近藤駿介 (原子力発電環境整備機構理事長)
- 高レベル放射性廃棄物の望ましい処分方式
- 念入りな地質環境の調査を経て立地を決定
- 国が前面に立って高レベル放射性廃棄物の問題の解決
石油市場の根本的変化と世界経済への影響
マリア・ファン・デル・フーフェン (国際エネルギー機関(IEA)事務局長)
- 経済活動の足かせとなる懸念
- OPEC加盟国の今後の見通し
エネルギーミックスと温暖化政策
秋元圭吾 (地球環境産業技術研究機構主席研究員)
- 原発停止によって温室効果ガス排出量は過去最高に
- 2020年以降の排出削減枠組み・目標策定に向けて
- エネルギーミックスの策定に向けて
水素社会実現に向けた東京都の取り組みについて
藤本 誠 (東京都環境局地球環境エネルギー部計画課長)
- 5つの戦略目標と具体的取り組み
- 東京都の支援策
一般記事
【提言】
未来創造に資する「科学技術イノベーション基本計画」への進化を求める
〜第5期科学技術基本計画の策定に向けた第2次提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/026.html
内山田竹志 (経団連副会長・産業技術委員長/トヨタ自動車会長)
小野寺 正 (経団連産業技術委員会共同委員長/KDDI会長)
- 国家ビジョンに基づいた計画策定の必要性
- 未来創造に向けた重点課題
- イノベーション・ナショナルシステムの強化
- 産業界としての取り組み
【提言】
海洋産業の振興への期待
〜海洋産業の振興に向けた提言
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/025.html
山内隆司 (経団連海洋開発推進委員長/大成建設会長)
- 海洋をめぐる環境変化
- 海洋産業の検討の視点
- 海洋産業の振興に向けた取り組み
- 海洋開発の基盤強化に向けて
【提言】
日EU間の規制協力に関し提言
〜EPA締結後の将来をも見据えて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/024.html
佐藤義雄 (経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長/住友生命保険会長)
- 今、なぜ規制協力か
- なぜEUと協力するのか
- 何について協力するのか
第3回国連防災世界会議を通じた経団連の防災・減災対策の発信
橋本孝之 (経団連防災に関する委員会共同委員長/日本アイ・ビー・エム副会長)
柄澤康喜 (経団連防災に関する委員会共同委員長/三井住友海上火災保険社長)
- 「仙台防災枠組2015-2030」の採択
- 国連主催会合への参加
〜橋本共同委員長 - 日本国政府主催会合への参加
〜柄澤共同委員長 - 「仙台防災枠組2015-2030」と経団連の意見の反映
循環型社会の形成に向けた産業界の取り組み
〜環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕2014年度フォローアップ調査結果
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/023.html
山田政雄 (経団連環境安全委員会廃棄物・リサイクル部会長/DOWAホールディングス社長)
- 産業廃棄物の最終処分量の目標水準を上回る
- 循環型社会形成に向けた環境整備が不可欠
連載
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未来を創る企業力 (10) 〜100年経営の真髄に迫る〜
オンリーワンの技術を核に、より進化したグローバル企業へ。
タムラ製作所- 卓越したトランスの技術を民生用から産業用に拡大
- 新規参入の可能性を広げる海外主導のビジネスモデル
- 自らの原点を真摯に見つめ一歩ずつ大きな節目の年へ
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農業の競争力強化と成長産業化に向けた経済界と農業界の連携・協力 (7)
豊富な物流インフラと多様なノウハウを活かした「食」輸出の推進
日本通運- 航空・海上輸送における混載保冷輸送
- 新しい鮮度保持輸送技術の実用化
- ハラール物流サービス
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震災復興の現場から (10)
宮古市の防災対策に携わって
吉川泰文(岩手県宮古市危機管理監危機管理課) -
経営者のひととき
母と介護と現代アーティスト
中尾浩治(テルモ会長) -
Essay「時の調べ」
スペシャルティコーヒーとは何か?
長谷川勝彦(カフェーパウリスタ社長)