月刊 経団連2015年3月号
特集 生産性を高め、経済の好循環を目指す
巻頭言
マイナンバー制度のスタートを控えて
「社会保障と税の共通番号制度」のスタートまで一年を切った。紆余曲折があったなか、2013年5月の通常国会において番号法および関連法が成立した後も、さまざまな角度から議論が続いている。その論点は、制度の目的および実現手段、受益者とそのメリット・デメリット、多額の税金投入に対する費用対効果、プライバシーの保護、そしてこれらの意思決定プロセス、といういくつかに集約される。
特集
生産性を高め、経済の好循環を目指す
安倍政権による大胆な経済政策がスタートして2年が経過した。日本企業の経営環境は大きく改善したが、日本経済はいまだデフレ体質から脱しきれず、楽観視は許されない。経済界としては、経済の好循環の2巡目を回すべく一歩前に出た対応を図らねばならない。企業は、今次労使交渉・協議にどのような姿勢で臨むべきかについて議論を行う。
座談会:生産性を高め、経済の好循環を目指す
- 宮原耕治 (経団連副会長・経営労働政策委員長/日本郵船会長)
- 石原邦夫 (経団連副会長/東京海上日動火災保険相談役)
- 下村節宏 (経団連審議員会副議長/三菱電機相談役)
- 今野浩一郎 (学習院大学経済学部経営学科教授)
宮原耕治 (経団連副会長・経営労働政策委員長/日本郵船会長)
政府には、イノベーションを起こすための規制緩和や法人実効税率の引き下げなど、国際競争上のイコールフッティングを実現することを求めたい。生産性の向上については、当社の場合、特に女性と外国人の活躍推進が重要な課題である。今年から、健康経営の推進にも積極的に取り組む。賃金等の労働条件は、総額人件費の適切な管理のもと、自社の支払能力に基づき決定することが原則である。経済の好循環の2巡目を回していくため、収益が拡大している企業にはより積極的な対応を求めたい。
石原邦夫 (経団連副会長/東京海上日動火災保険相談役)
当社の場合、従業員の約半数を占める女性の活躍推進や、海外事業の拡大に欠かせないグローバル人材の育成が大きな課題となる。人事評価の面では、年功ではなく従業員の働きにより公正に応える成果主義、実力主義を2000年ごろから取り入れており、2004年には役割と成果、およびコンピテンシーを重視して評価を行う仕組みを導入するなど、従業員の働きがい、やりがいの向上に向けて、継続的に制度の見直しを図ってきている。日頃から労使のコミュニケーションが重要であり、それがより実りある労使交渉・協議につながる。賃金の引き上げは、ベースアップだけでなく、「年収ベースの引き上げ」ととらえることで、各社が多様な対応が取れるようにすることが重要。
下村節宏 (経団連審議員会副議長/三菱電機相談役)
安倍政権には、より具体的な政策を講じ、日本経済の成長をリードしてほしい。当社は、グループ経営を推進するなかで、特にナショナルスタッフの育成が重要である。労働時間制度改革については、時間ではなく成果に報いるという方向性を支持したい。経済の好循環を実現するために業績好調な企業が貢献するのは当然のことと考えるが、個社の利益の配分に関しては、各社の将来ビジョンや状況に応じて、機械設備や研究開発への投資、配当、従業員の処遇改善などをバランスよく行っていくことが大切である。
今野浩一郎 (学習院大学経済学部経営学科教授)
生産性を向上させるには、従業員一人ひとりの能力を向上させることに加えて、能力を十分に発揮・活用できるプラットフォームづくりが大切である。政府には、そのためのインフラ整備が求められる。働き方の柔軟化を進めるにあたっては、プロセスではなく、仕事や成果を重視して評価する人材戦略への移行が必要である。人口減少、少子・高齢化のなかで経営のイノベーションに取り組む日本企業には、世界に発信できる経営モデルの確立を期待したい。
椋田哲史 (司会:経団連専務理事)
- ●くろまる持続的な成長を実現する経営環境の確立
- 法人税負担の軽減を含めたイコールフッティングを
- グローバル化、大規模自然災害などのリスクに対応
- 労働時間制度改革に期待
- 人材の能力を発揮・活用できるプラットフォームづくり
- ●くろまる生産性の向上を実現する人材戦略
- 女性がいきいきと仕事ができる制度
- 仕事と子育ての両立を支援する仕組みづくり
- 健康経営の推進に力を入れる
- 働き方の柔軟化をいかに進めるかが鍵
- ●くろまる今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢
- 「同一労働同一賃金」の問題点
- ナショナルスタッフの育成が重要な経営課題
- 子育て世代の40代を中心に賃金水準を引き上げ
- コンピテンシーを重視した人事評価制度
- 政労使会議における議論と2015年版経労委報告のポイント
- 日頃からのコミュニケーションが大切
- 企業の内部留保に対する誤解
- 世界に発信できる経営モデルの確立を期待する
2015春季生活闘争に向けて
古賀伸明 (日本労働組合総連合会会長)
- 社会のすそ野に光を当てた政策を
- 持続性を持った「経済の好循環」を
地方からアベノミクスのさらなる進化を
竹島和幸 (福岡県経営者協会会長/西日本鉄道会長)
- 地域独自のビジョンの構築を
- 賃金交渉にあたって
労働時間制度改革と働き方改革
荒木尚志 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
- 制度全体の整合性に留意し改革を
- 日本型雇用全体の「働き方改革」を
限定正社員の普及・活用について
鶴光太郎 (慶應義塾大学大学院商学研究科教授)
- 正社員の「無限定性」にまつわる多くの問題
- 労働条件の明示化で限定正社員の普及、活用を
挑戦した人と組織が報われる処遇制度の構築
〜未来価値創造にチャレンジする“人・組織”づくりに向けて
千松哲也 (パナソニック人事・労政グループマネージャー)
- 改定の背景
- 役割等級制度の概要
- 今後に向けて
働きやすい、やりがいのある会社を目指して
〜スマートワーク・チャレンジ20による働き方改革
小林良成 (SCSK人事グループ人事企画部長)
- 取り組みに至る経緯
- スマートワーク・チャレンジ20
- 経営トップによる確認と指示、社員の理解
- 具体的な成果と今後の課題
健康経営の取り組みについて
〜「花王グループ健康白書」データを活用し、PDCAサイクルを回す
児玉成志 (花王人財開発部門健康開発推進部長)
- 「健康宣言」が起点に
- 健康づくりマネジメントシステムに基づき継続した改善を目指す
- 特定保健指導を個別に実施、重症化を予防
2015年版経営労働政策委員会報告を公表
〜生産性を高め、経済の好循環を目指す
(経団連労働政策本部)
- 持続的な成長を実現する経営環境の確立
- 生産性向上を実現する人材戦略
- 2015年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢
一般記事
【提言】
わが国農業の持続的発展と競争力強化・成長産業化に向けて
〜食料・農業・農村基本計画の改訂に望む
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/004.html
小林栄三 (経団連審議員会副議長・農政問題委員会共同委員長/伊藤忠商事会長)
十倉雅和 (経団連審議員会副議長・農政問題委員会共同委員長/住友化学社長)
- 待ったなしの農政改革
- 生産基盤の強化と政府一体となった政策展開
- 農業の競争力強化・成長産業化に向けた具体的施策
日本ベトナム経済委員会一行がハノイを訪問
〜経団連・計画投資省政策対話と日越共同イニシアティブ第五フェーズの最終評価会合を開催
高橋恭平 (経団連日本ベトナム経済委員会共同委員長/昭和電工会長)
中村邦晴 (経団連日本ベトナム経済委員会共同委員長/住友商事社長)
- 日越経済協力の拡大に向けた議論
- 「日本の投資拡大に期待」
サン国家主席
連載
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未来を創る企業力 (8) 〜100年経営の真髄に迫る〜
挑戦と自己革新の継続によって、人をつくり、未来を育む。
東京書籍- 社会の変化を見極めて事業拡大のチャンスとする
- 教育と文化への貢献で表す支援に対する感謝の気持ち
- 創造的かつ個性的な社員が次のイノベーションを生む
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農業の競争力強化と成長産業化に向けた経済界と農業界の連携・協力 (5)
コマツの石川県内における農林業支援への取り組み
小松製作所- 地元農産物の消費拡大支援
- ICT農業によるトマトの通年栽培への挑戦
- ICT建機を活用した稲作の収益改善
- 間伐材の有効活用とバイオマスボイラー設備の導入
- 農林水産業の基幹技術開発基金の創設
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震災復興の現場から (8)
今、企業に求められていること
伝田潤一(宮城県東松島市復興政策部復興政策課) -
あの時、あの言葉
自分を鼓舞する二つの言葉
加瀬 豊(双日会長) -
Essay「時の調べ」
素顔のトーヴェ・ヤンソン
〜〈画家〉と〈挿絵画家〉と〈作家〉のはざまで
冨原眞弓(聖心女子大学哲学科教授)