月刊 経団連2014年5月号
特集 産業競争力強化に資する知的財産戦略
巻頭言
中長期の産業競争力の強化に向けて
日本経済はデフレ脱却に向かいつつあるが、競争力を取り戻し本格的な成長軌道に回帰するためには、まだまだ課題は多く残されている。短期的には、安価で安定的なエネルギーの確保や、新ビジネス創出のための規制改革といった課題であるが、中長期的に取り組まなければならないのが人口減少への対応である。
特集
産業競争力強化に資する知的財産戦略
日本の産業競争力強化を実現するためには、イノベーションによる革新的な製品・サービスの創出とともに、知的財産の戦略的な活用が重要な鍵となる。政府は、昨年六月に「知的財産政策ビジョン」と「知的財産政策に関する基本方針」を取りまとめ、具体的な取り組みを始めている。イノベーションにおける知財の役割、職務発明制度や技術情報の不正取得などの具体的な問題、グローバル時代における知財のあり方等について検討し、今後の制度改正の行方を探る。
座談会:産業競争力強化に資する知的財産戦略
- 三浦 惺 (経団連副会長/日本電信電話会長)
- 日覺昭廣 (経団連審議員会副議長・知的財産委員長/東レ社長)
- 渡部俊也 (東京大学政策ビジョン研究センター教授)
- 遠藤 誠 (弁護士)
- 椋田哲史 (司会:経団連常務理事)
三浦 惺 (経団連副会長/日本電信電話会長)
日本企業が国際競争力を維持していくためには、不断のイノベーションが不可欠であり、そのなかで知的財産戦略が非常に重要になってくる。これまで経団連では、職務発明の法人帰属化、営業秘密・技術情報の保護強化など、国内外での知財基盤整備に関する提言を行ってきた。昨年来、政府も知財分野に対して前向きに取り組んでおり、法整備、諸外国への働きかけなどについて、今後の一層の進展を大いに期待する。
渡部俊也 (東京大学政策ビジョン研究センター教授)
世界中の国と企業がイノベーション競争を行っている現在、イノベーションの「やり方」の競争が起こり、オープンイノベーションなど新しいイノベーションが生まれている。日本企業は、こうした背景を踏まえて知財マネジメントを行わなければならない。職務発明については、企業に権利を帰属させるのが妥当だと考える。営業秘密・技術情報の保護に関しては、政府として保護の水準を上げるとともに、企業側も情報管理を強化すべきだろう。
日覺昭廣 (経団連審議員会副議長・知的財産委員長/東レ社長)
知的財産は、グローバル競争を優位に勝ち抜くための重要な経営資源の一つである。職務発明制度については、法人帰属化に向けて、抜本的な見直しが行われることになった。営業秘密保護の強化に関しては、経団連として、営業秘密保護に特化した新法の制定、「営業秘密管理指針」の改定を通じた運用の見直し、官民フォーラムの実行ある運営などを積極的に働きかけている。
遠藤 誠 (弁護士)
天然資源を海外に依存する日本にとって技術力は生命線であり、それを守るために知的財産権がある。技術力を持った日本企業は、中国などの新興国市場で国際競争を勝ち抜くために、知財を有効に活用することが重要である。グローバルな営業秘密侵害に関しては、ライセンシーや海外子会社、退職者からの秘密漏えいに注意し、きめ細かい情報管理が求められる。また、知財に関する法整備を進めている東南アジア諸国等に対しては、日本の専門家の派遣、さまざまなメリットの提供などで、制度調和を図るべきである。
椋田哲史 (司会:経団連常務理事)
- ●くろまるイノベーションにおける知財の重要性
- 知財戦略を経営戦略に組み入れることが不可欠
- 知財はグローバル競争を勝ち抜くための重要な経営資源
- イノベーションの「やり方」の競争が始まっている
- 海外における知財問題の多様性を考えるべき
- ●くろまる職務発明制度の見直しに向けて
- 職務発明の法人帰属化に向けた経団連の取り組み
- 職務発明制度の抜本的見直しに向けた政府の検討
- 金銭的報酬がモチベーションを高めるとは限らない
- 中国の発明者保護政策はイノベーション創出に逆効果
- ●くろまる営業秘密の保護に向けて
- 海外競合企業による技術情報等の不正取得・使用を抑止するために
- 法制化の検討と同時に実務面の改善を急ぐべき
- きめ細かい情報管理体制の整備を
- 日本企業は情報管理を強化すべき
- ●くろまるグローバル時代における知財のあり方について
- アジアにおける知財戦略のコアをつくる
- 「国際標準化戦略」の構築が必要
- 新興国の知財関連法づくりに協力すべき
- 国際機関の主要ポストを積極的に取りにいく
知的財産戦略における重点六本柱「山本イニシアチブ」について
山本一太 (内閣府特命担当大臣(科学技術政策))
- 政府における知的財産戦略の検討の経緯
- 知財本部の司令塔機能
- 今年の知財本部における「山本イニシアチブ」
改革の好機を迎えたわが国の知財政策・制度
金子眞吾 (経団連知的財産委員会共同委員長/凸版印刷社長)
- 二つのサイクル
- 各論点の位置付け
- 今後に向けて
〜改革実現の飛躍の年に
「知識経営」時代の営業秘密保護政策について
〜米国の国家成長戦略と知的財産保護強化政策の示唆するもの
実原幾雄 (新日鐵住金参与・知的財産部長)
- 市場経済・企業経営のパラダイムシフト
〜市場経済の知識経済化に対応した知識経営へのシフト - 知識経営の先導役としての米国の意思表明
〜国家成長戦略を支える営業秘密保護強化 - わが国の知的財産保護強化に向けた今後の活動
IEC東京大会に向けて
野村淳二 (IEC(国際電気標準会議)会長/パナソニック顧問)
- 国際標準の種類
- 最近のIECの活動
- IEC東京大会に向けて
イノベーション促進に向けた職務発明制度の抜本的見直し
澤井敬史 (経団連知的財産委員会企画部会部会長代行/NTTアドバンステクノロジ顧問)
- 職務発明制度の基本構図と内在する本質的な課題
- 制度の抜本的見直しへの動き
- 「職務発明制度に関する調査研究会」での主な議論
- 制度のイノベーションを期待
オープン&クローズの知財戦略を必要とする巨大市場の興隆
〜わが国企業の競争力強化に向けた知財マネジメントの再構築に向けて
小川紘一 (東京大学政策ビジョン研究センターシニア・リサーチャー)
- ソフトウエアリッチ型産業と国際標準化がつくり出す第三次産業革命
- 論理体系の産業化
- オープン&クローズの知財マネジメント
「知財立国」を実現する司法
玉井克哉 (東京大学先端科学技術研究センター教授)
- 裁判官の専門性と執務環境の強化
- 国際交流の促進を
- 従来にはない発想で刑事司法体制の強化を
知的財産をめぐる国際的課題
久慈直登 (日本知的財産協会専務理事)
- 統一特許、統一特許裁判所の検討を
- 知財制度は人類の幸福に役立つという視点を
一般記事
アジア太平洋地域の経済統合に向けて
〜訪オーストラリア・ニュージーランドミッション
米倉弘昌 (経団連会長)
- アジア太平洋地域における経済連携推進に向けて
- 重層的な二国間関係の構築が重要
- 経団連に対する期待を実感
【提言】
データの保護と利活用を両立させる制度の確立を
〜個人情報保護法の見直しへの意見
http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/019.html
内山田竹志 (経団連副会長・情報通信委員長/トヨタ自動車会長)
近藤史朗 (経団連情報通信委員会共同委員長/リコー会長)
- 制度見直しへの基本的視点
- 法改正にかかわる課題
- 広報啓発活動の強化も重要
二国間経済関係強化に向けた大いなる可能性を確認
〜訪イスラエルミッションを派遣
中村芳夫 (経団連副会長・事務総長)
- 官民あげて日本との経済関係強化に強い熱意
- 多くの産業分野に両国企業の協業の可能性が存在
- 経済関係のさらなる拡大と多様化に向けて
世界に羽ばたく人づくり (2) 座談会
「国際バカロレア教育を通じて育成するグローバル人材」
永田恭介 (筑波大学長)
赤羽寿夫 (東京学芸大学附属国際中等教育学校副校長)
坪谷ニュウェル郁子 (IBアジア太平洋地区理事)
出川昌人 (ブラックロック・ジャパン社長)
田宮直彦 (日立製作所人財統括本部人事勤労本部長)
井上 洋 (司会:経団連社会広報本部長)
- ●くろまるIB教育が求められるようになった背景
- IT革命とグローバル化がIB教育の普及を加速
- グローバル人材には共通言語としての英語力が必須
- 自分で考え判断できる人材を育てるIB教育
- パラダイムシフトを早い段階で意識
- グローバル人材を育成するための選択肢
- ●くろまるIB教育に対する評価
- 筑波大学のアドミッションポリシーとIB教育
- 結果ではなく過程を重視するIB教育
- 受動的な教育から主体的な教育へのシフト
- 英語ができる≠グローバル人材
- 英語力のあるエンジニアの育成が必要
- ●くろまる日本でIB教育を普及させていくうえでの課題
- IB教育普及のための大学としての取り組み
- 現職教員の再教育が不可欠
- 公立校でのIB教育実現
- IB教育を受けたうえで、大学で何を学んだかが重要
連載
- あの時、あの言葉
任運自在
津田純嗣(安川電機会長兼社長) - エッセイ「時の調べ」
10歳若返る!「インターバル速歩」のススメ
能勢 博(信州大学大学院医学系研究科教授)